第 40章 詩
五日目。
「……また失敗か」
ルーンは深いため息をつきながら、煮釜の中を覗き込んだ。そこには、泡立ちもなく、表面が油でギトギトと光る液体が残っていた。
混ぜた油脂が多すぎたのか、それとも灰汁の濃度が弱すぎたのか。あるいは加熱時間が足りなかったのか——原因は一つではない。それでも、材料は有限だ。試せる回数にも限界がある。
(……そろそろ、まずいな)
彼は腰を上げると、片隅に置いていた革の小袋を手に取った。中を確認し、口をへの字に曲げる。
銀貨一枚と、銅貨が数枚。
それが今の全財産だった。
(香料を買う余裕はない。油脂だって……これが最後の一袋か)
当初は「高校の化学知識で簡単に作れるだろう」と考えていた。だが現実は甘くなかった。
材料の質はバラバラで、温度は焚き火任せ。道具も精密さとは程遠く、計量カップすらない。そもそも灰汁のアルカリ濃度なんて測定不可能だ。
(この世界の「科学」は、まるで手探りのジャングルだな)
第六日目、彼は最後の材料を使い、今までの反省をすべて投入して一回限りの賭けに出た。
——結果、やはり失敗。
半固形のような奇妙な粘りを持つそれは、指で押せばベチャっと潰れ、鼻を近づければかすかに焦げた脂の匂いが鼻をついた。
「……これは売れないな」
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夜がすっかり降りた頃、「ドラゴン・トゥース酒場」のランプの炎は、職人や徒弟たちの影を壁に揺らしていた。真鍮の歯車が天井から吊るされ、コーナーに置かれた小型蒸気機関のリズミカルな音が、バー近くの座席にほのかな熱を届けていた。
「くそっ……どうしてあんな招待を受けたんだ……」
丸テーブルの中心で、赤いベスト姿の男——オリヴァー・ウェーバーは、真鍮製のカップの中の琥珀色の酒をかき回しながら、小声で呻いた。
「また何か問題か?」隣でビールを飲んでいた歯車細工職人ヘルマン・シュミットが、からかうように尋ねた。
「フランクリン博士の文学サロンだ。明日の晩に招かれている。最初はただの社交パーティーだと思ったが……参加者は皆、自作の詩を朗読しなきゃならんらしい」
「詩だって? また面倒くさい趣向だな」
「それだけじゃない。テーマは“新大陸スタイル”だ。つまり、風刺と寓意、格言と道徳的教訓——あの博士の好みだよ。やたらと啓蒙っぽくて、しかも韻も踏まなきゃならない」
ウェーバーは頭を抱えながら続けた。「『Poor Richard’s Almanack』って知ってるか? 彼が若い頃に作ったものだ。あれに載ってるのは、こんなのばっかりだ——」
「愚者は金を持つよりも、知恵を持て」
「三人に秘密を守らせたければ、そのうち二人は死んでいなければならない」
「怒りは愚者の短剣、だが彼自身を刺す」
「それで、頼める詩人はいないのか?」
「すでに五人に声をかけた! でも貴族の夜会や劇団の脚本に引っ張りだこで、誰も空いてないんだ!」
ウェーバーは苛立ちを隠さず、ガチャリと音を立てて金袋をテーブルに放り出した。
「15リフレルだ! 今夜中にフランクリン博士が『ふむ、面白い』って言うような詩を書いてくれる奴にくれてやる! 風刺と自由精神を織り交ぜたやつだ! “権力と正義は別物”とか、“知識は王冠より重い”みたいな」
その額に、酒場のざわめきが一瞬止まった。15リフレル——熟練工が一週間働いて得る報酬だ。




