第18章 コレスターの墓穴
「……死んだ?」
思わず、目の前の骨董店の店主をガン見した。ゾワッと背中に寒気。
いや、ちょっと待て。あの“デヴィル”って男、日記の中じゃルーン・ウィンスターを例の地下遺跡に誘った重要人物じゃなかったっけ?
「死んだよ。高熱で一気に干からびてさ。内側から焼かれたみたいに、カッラカラに。」
店主が平然と言い放ったその言葉。軽いノリだけど、内容はホラー以外の何でもない。
つーか、医者が「こんな症例見たことない」って言うレベルって、明らかに人為的な“何か”が関与してんじゃん。
「それで……ルーン・ウィンスターって名前、何か知ってます?」
俺の問いに、店主の顔がピクッと強張った。
「……お前、なんでその名前を?」
ヤベッ、警戒心MAXだ。
けどここで引くわけにはいかない。
「日記を拾ったんです。市場でたまたま。ウィンスターとデヴィルの会話が載ってた。」
そう言って、俺は例の血染め日記をそっと取り出す。
店主がページをペラペラとめくる。次第に顔が青ざめていく。
「あの若造……覚えてる。妙なルーンが刻まれた青銅の指輪をしてて、古代遺跡の話ばっかしてた……お前、親戚か?」
「いやいや、完全に赤の他人ですって。ただの好奇心です。」
店主は少しだけ黙ってから、ぼそっと漏らした。
「叔父さん――デヴィルが死ぬ直前、ひとつだけ俺に託していった物がある。もし、指輪のことを聞きに来るやつがいたら、渡せって。」
おっ、それ来たか!
カウンターの下から、鍵付きの小箱を取り出してきた。表面には……うわ、これ、俺の指輪と同じルーンじゃん。
「……開けても?」
「やめとけ。普通の鍵じゃ開かねえし、変な封印までかかってる。叔父さんも怖がって触らなかったくらいだ。」
俺は指輪をそっと触る。微かに温かい。もしかして――
「その箱……いくらで譲ってもらえます?」
「いらん。そんなもん、店に置いておくだけで背筋寒くなる。……それに、ウィンスターも、デヴィルと同じ死に方をした。」
……え。
ルーン・ウィンスター本人まで死んでたのか。まさか、俺が今こうして生きてるってことが“例外”だったりするのか?
「あとさ、日記に“コレスターの墓穴”って出てくるけど、どこか分かります?」
「その名前、出すな!」
店主がガタッと身を乗り出して、焦った声で遮った。
「呪われてるんだよ、あの場所は! 墓穴も、ウィンスターも、封印も、全部忘れろ!」
俺は、箱をしっかりと抱えて店を出た。背後で扉がバタンと閉まり、ガチャリと鍵の音。
空は灰色、雨は止む気配なし。重く湿った空気の中、俺はゆっくりと歩き出した。
目的地は決まってた。
街の外れにある廃工場の一角。人気がなくて、監視の目もない。こういう“何かある箱”を調べるには最適だ。
でも、道中ずっと――
“見られてる”感覚が消えない。
視線を感じる。背中がムズムズする。だけど振り返っても誰もいない。
「……考えすぎ、だよな?」
自分に言い聞かせるけど、歩幅はどんどん速くなる。気がつけば、息が少し荒くなってた。
一方その頃。
カロシア王国の地下迷宮――通称“暗影区”の奥深く。ヴィラ・フォン・夜の輝き、最古の吸血貴族の一人が、血族の拠点に帰還していた。
「……3人ね。出てきなさい。」