第14章 夜族の弟子
不浄の存在――?
まさか、アイツらが探してる“何か”って……ヴィラのことじゃないよな?
聖光教会の「浄化者」ってだけで、ろくな連中じゃない予感しかしない。名前の響きからしてもうダメだ。正義感に酔ってる宗教系は、だいたい話通じないからな。
「大人、ここ……気配が濃いです。ごく最近、非自然な“何か”が出入りしていた痕跡があります」
下水道の入り口を調べてた細身の浄化者がそう報告すると、リーダーっぽい男が渋く頷いた。
「二手に分かれて探索する。くれぐれも単独行動は厳禁だ。相手は“怪物”だぞ。舐めると死ぬぞ」
浄化者たちは特製の松明に火を灯して、ひとり、またひとりと地下の闇に消えていく。
……うん、こりゃ完全にアウトな雰囲気だ。
最後の一人が下水口に姿を消した瞬間、オレはようやく息をついた。隠れていた物陰からこっそりと離れる。
「さっきの連中、関わったら終わるやつだな……。だってさ、吸血鬼の女と一緒に魔法学んでるやつとか、絶対“悪役”側の設定だろ……!」
足早に小路を抜けながら、脳内でぐるぐると妄想が駆け巡る。
聖光教会に、浄化者。どう見てもこの世界の宗教勢力は相当ガチっぽい。もしヴィラとの関係とかバレたら、オレどうなるんだ? 拷問? 火刑? 異端審問的なあれ?
「……まあ、もう選んじまった道だし。今さらビビっても仕方ない」
それに、冷静に見ればヴィラの方がよっぽど“人間”らしく思える瞬間があるんだよな。狂信者より怪物の方がまともとか、どんな皮肉だよこの世界。
とにかく今は戻らないと。変な疑いかけられたくないし、それに――早く魔法ノートの続きを読みたい。
深夜。ようやく屋根裏のボロ部屋に戻ってきたオレは、扉に二重ロックをかけ、周囲を入念に確認。誰にも見られてないことを確かめてから、上着の内側に隠してたヴィラからの“お土産”を取り出した。
あの魔法ノートだ。
油灯の淡い光の下でページをめくると、懐かしいインクと古紙の匂いが立ち上る。最初は瞑想の基本とか、精神力の流し方とか、めっちゃ実用的なことが丁寧に書いてあった。
でも、後ろのページに行くと――空気が変わった。
『魔法の本質に関する疑問:』
タイトル見た瞬間、背筋がゾクッとした。
以下、ヴィラの手書きで、彼女がどこかの魔法師と交わした議論の記録がびっしり書き込まれていた。
「魔法の本質とは何か? 私たちが操る力とは、一体何なのか?」
――おお……そういう哲学、嫌いじゃない。
地球で言うなら「電気って何?」って話に近い。電気は電子の流れ。でも魔法って? 粒子? 波? それとも「場」みたいなもの?
「なぜ、生物には精神力があるのか?」
「ある者は強く、ある者はまったく持たない。この違いはどこから来るのか?」
――これ、地球なら“遺伝子”って言葉が出てくる話じゃね?
もしかしたら、この世界にも“精神力遺伝子”みたいなもんがあるんじゃ……? 特殊な器官か細胞で魔法エネルギーを感知してんのかも。
続く疑問もエグかった。
「精神力は物質なのか? 非物質なのか? 測定可能か?」
「四大元素って本当に基本構成要素なのか? 原子とか分子の存在は?」
「もし世界が『微粒』でできてるなら、魔法はどうそれに作用してるのか?」
……やばい、めちゃくちゃ面白い。
しかもノートには、実際に“ある魔法師”がそういう基本構成を表にして考察してた記録まで載ってた。分類と配列……まるで元素周期表の原型を探してるみたいだった。
「うわ、すげえな……この世界にも“科学の芽”みたいな考え方をしてる人がいるんだ」
ページの端には、さらにヴィラ自身の思索が手書きで残されていた。
ルーン……いや、オレはページを閉じてしばらく目をつぶった。
“この世界を理解すること”、それこそが、この異世界でオレが生き残るための鍵だ。
そしてきっと、その果てには“なぜオレがこの世界に来たのか”――その答えだって、あるはずだ。
「科学と魔法の融合……やるしかねぇな」