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序章 富豪から貧民へ



 


三十八歳。

俺がこの歳になって一番嫌いになったものは、次の三つだ。


結婚式のスピーチ。

退屈な社交。

そして、バラエティ番組。


いやマジで、バラエティって……何がおもろいねん。


 


そんな俺が今、何をしているかというと——


東京の超高層ビル、その最上階。

床から天井まであるガラス窓の前に立ち、手には『人生リスタート』っていう番組の出演契約書を握ってる。


……いや、なんでやねん。


 


「黒田様、この番組は、まさにあなたのためにある企画です」


後ろから聞こえてきたのは、プロデューサーの藤田美香ふじた・みかさんの声。

スーツの着こなしがえぐい。多分、俺が大学時代に払ってた家賃より高いジャケット着てる。


そして、完璧すぎる笑顔。あれはもうNPCやん。人間の表情じゃない。


 


「正直……興味ありません」


俺は契約書を机に置き、近くにあった化学業界誌を手に取る。


そっちのほうが、100倍面白い。

俺の会社「黒田化工」は今、環境新素材の開発に全力投球中なんだ。


バラエティなんて見てる暇ないんだよ。……あ、いや、出演だったわ今回。


 


「黒田様は、この番組の“象徴”になれる存在です」


はい出た、バラエティ業界の“おだて棒”。

企業の広報と同じで、相手のプライドをくすぐって契約書にサインさせようとしてくるやつな。


 


俺の経歴は、まあそれなりに華やかだ。

東京大学化学科卒。

国家公務員→研究職→独立→ベンチャー創業→たった数年で年商100億突破。

おまけに顔も悪くない……らしい。

(俺は見慣れてるからよくわからん)


 


けどさ。そんな俺に、何が「リスタート」だよ。


「この番組は、成功者が“ゼロからやり直す”というリアリティドキュメントです。

視聴者は、黒田様の“素の姿”を見たいんですよ」


 


……わかってんだよ。

こっちは“転落する成功者”を眺めて笑いたいだけだろ?

バナナ食ってるサルを見て笑うのと、何が違う?


 


でもまあ、最近は毎日が同じすぎて退屈してたのも事実。

9時に出社して、会議、サイン、接待、夜はデリバリー飯。

正直、夢の中でも会社のチャートが出てくる始末だ。


 


だから、ふと思ったんだよ。


**「ちょっとくらい……バカやってみるのも、悪くないかもな」**って。


 


というわけで、俺はサインした。

『人生リスタート』、撮影期間1ヶ月。

地方の無名都市で“普通の会社員”に戻るっていう、ある意味人生のドン底ロールプレイ。


もちろん、俺の資産も身分も全部封印。


 


——そして、番組収録初日。


ロケ地に向かう飛行機の中で、突如として機体が揺れた。


いや、揺れたってレベルじゃない。

**ドッカーン!**って音がして、天井の照明が落ちてきて、隣のカメラマンが叫んでた。


「嘘でしょ!? 墜落!? マジで死ぬの!?」


俺は必死にシートベルトを握りながら、心の中でこう叫んだ。


**「いやいやいや、ここで死んだら“リスタート”どころか“ゲームオーバー”やん!!」**


 


次の瞬間——


窓の外に、青い光が見えた。

それはまるで、オーロラでもない、CGでもない、異世界ファンタジーの“転移魔法陣”みたいな、そんな色。


 


「は? まさかこれ……**異世界転移**ってやつか?」


 


意識が遠のく中、俺はなぜか笑っていた。


「バラエティ番組どころじゃねぇな、これ……」


 


こうして俺は、番組どころか**世界そのものをリスタート**することになった——。


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