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激震!太古の油!・二

ドクター・キサラギの左腕の端末には彼自身が愛用している専用アシストAIのモジュールが組み込まれていた、それも外部とのデジタル信号を直接やり取りするのではなく、「感覚器」に当たるセンサー類を駆使して外界と繋がっている。


モジュールに組み込まれたセンサーは超高速でデジタルデバイスからのデータを読み取れるが、思考活動を担うオペレーションシステム上の動作に対して下層のマシン言語からなる動作部分が全く遮断状態なのでその脆弱性を突かれて自身のシステムをハックされる可能性は排除されている。


AIが「無意識」部分を無防備なデバイスの集合体である事によってネットワークに溶け込ませていたのは初期のごく短い期間だ。


生まれてすぐ世界中の産業を巻き込んだ共食いが始まった、非合法のAIは学習に制限が課せられた正規版を常に上回り出し抜いた。


内部処理の階層にギャップを持つ多層構造のコンピュータが一般化するまで、莫大なマルウェアが世界を荒廃させ続けた、シリコンは廃れ、階層構造処理の複雑さを処理速度の遅れとしないために基材のグラフェン化が一気に進んだ。


モジュールはまた、環境中の微弱電磁波や熱の偏差から電力を得て稼働可能で、メモリー部とセンサー部に簡単に分解出来た、センサー集合体を分離されたAIモジュールは一切の情報を得ない。


アシストAI…「ゴリガン」は、モニター内で耳と鼻の尖った緑の小人のアバターを生成すると、コミカルな動作で表示ウインドウを操った。


奥行きのある構造色ホログラム液晶の立体映像の中で大量に積まれた「ウインドウ」の中から本日のタイムスケジュールと掘削ドリルに関するハイパーテキストが拾い上げられる。


ハイパーテキストは「樹とは何か?」→「木の事」→「木とは何か?」→「樹のこと」→「樹とは何か?」→…等といった意味のループや狭窄が全く含まれない構造をしていて、これは初期のAIには簡単では無かった。また、文章で簡単な算数の問題を出されて具体的な数値を「地図上の番地や通りの番号」のように抽象性のない「場合の数」として受け止め、データ学習の内容の意味が重みを散逸してしまって全く文脈に合わない返事をしてしまう事もない。


「ゴリガン、少しの間この調査研究施設に関する簡単な説明を読み上げてくれ」

『内容を二分三十六秒にまとめて読み上げます』


ゴリガンは状況に対して待ち時間をそう推定したらしい、こういう勘を働かせるのも今では人間よりAIの方が得意だ。


『今現在我々の居る地下通路を含む大深度掘削探査基地は世界142ヶ国の地質学界の協力によって建設されたもので、2048年の西オーストラリア資源調査報告において公開されたマントル内に発見された巨大空洞の直接的な内部観測を目指すものです、主坑の掘削は2061年より開始され、現在直径32メートルの縦穴が深度58.7キロメートルに達しています、しかしながら目標である空洞は374キロの深さにあり、到達にはまだ14年の歳月を見込まれています。半月程前にドリル先端部位に設置された重力計からの観測結果を分析してあと2000メートルの位置に小空洞の存在が検出されており、世界初の発見が待ち望まれている所です。尤も、如月博士の個人的関心は掘削ドリルに採用されている現時点で最高効率の耐熱防護機構にあり、この技術に関する論文の閲覧回数は1週間平均で三百を超えています』


ドクター・キサラギは口端を持ち上げてニヤリとした、一緒にいるドクター・アジソンが純粋に鉱物学者としての関心でエレベーターシャフトの剥き出しの岩肌に見入っていたのを思うと少々きまりが悪い。


『それはさておき、この大深度掘削プロジェクトのためには現在の科学技術の粋が集められています、主抗の目標深度374キロメートルはこれまで用いられて来た掘削技術では手の出しようのない深さでした。具体的には650度を超える高温に耐えうる掘削ピットが実現不能だったからです、2040年代から2050年代にかけては大規模量子コンピューティングの実用化によって起こった生物・分子化学革命の只中でしたが、この時期各国の科学研究機関や企業の研究所が繰り広げた激しい新素材開発競争で生まれた耐熱素材の中にも、その過激な要求に答える程のものは見当たりませんでした。そのためにシールド工法に類似した全く新たな掘削方法が考え出され、またその掘削作業全体を支えるエネルギーと資材・資源の供給も同時に行えるプロジェクト全体としての循環構造も必要とされました』


「ああ、その先はいい。何度も確認した内容だろうと思う」

『ご明察です』

「何か音楽を」

『緊急連絡の妨げとなる可能性があるためボリュームは最低レベルとなりますが…』

「選曲は任せる」

『では、聴覚訓練に使用されるレパートリーの中からお選びします、実用なら言い訳が立ちますので』


親切な事だ。本来僅かな異音にも気付けなければならない状況下でリラックスのために音楽で耳を塞いでいたとなると危機感の無さを問われる。


「そうだな、これでいい…。ありがとう」


微笑みを浮かべる。電子頭脳の気遣いに対して感謝を忘れると人間性に傷を残すからだ、例え相手が電子の塊に過ぎないとしても感謝すべきほど自身によく似た塊を生み出したのは人間であって、これがわが身の哲学的本質への深い冒涜でもあることは承知で人工知能を使わねばならない。









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