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三題噺もどき3

迷考

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくじゅう。

 


 窓の外には海が広がる。


 窓枠にほんの少しだけ覗く草木は、ものすごいスピードで視界から消えていく。

 色すらもはっきりとは分からないほど。

「……」

 座っているのは、座席ではなくて備え付けのベッド。

 自分以外は誰も居ない。もちろんベッドは一人分のサイズ。

 ここは個室だから、それもそうなんだが。これで他に人が居た方が怖い。

「……」

 寝台列車に揺られている。

 夜行列車といった方が正しいのかどうかは知らない。

 なんとなく、ベッドがあるから寝台列車だろうという認識でしかない。なら夜行列車は何なのかという感じだが。あれは、夜間に走るからとかじゃないんだろうか。寝台列車も夜走るものはあるけどと言われると何とも言えないんだが。

「……」

 まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。

 どうでもよくないと言われても、今はどうでもいい。

 そういう定義についての話は今じゃなくてもいい。

「……」

 ならば、今は何をするのかと問われると。

 何もないのだけど。

 別に何かをしないといけないわけじゃないだろう。

 ただでさえ、揺れの少ない寝台列車とは言え、動いている箱の中にいるのだから、下手に動いて何かをすべきではない。

 出来ることは、部屋に座って、こうして外を眺めるか、寝るか、何もしないをするか。

 もちろん余裕があるのなら、先頭の方に行って飲食でも楽しめばいい。

「……」

 そんな余裕はないし、動く気力がそもそもない現状では、ぼうっと外を眺めるか、寝るか、何もしないと言うことを選択するしかない。

 ただ、こうしてぼうっとしていると、下手な考え事を始めるのが性分な人間には、何もしないをすることが出来ないかもしれない。

「……」

 さっきから何を言っているんだと言う感じだが。

 自分自身が何を考えているのかしっかりとは分かっていないので、脈絡もないのは当然と思ってほしい。

 考えることはしているけど、それに何かしらの関連性があるとか、何かしらの意味があるとか、そんなことは一切ない。

 あっちへこっちへと、思考は飛ぶのだ。ぼうっとしていると尚更。

「……」

 すん。

 と、何かの香りが鼻をついた。

 外に向けていた視線を外し、ベッド横にあった備え付けの机の上を見る。

 そこに、いつの間に淹れたのか湯気の立つコーヒーがあった。

 かなり良い豆なのか、初めて嗅いだような心地のいい香りがする。

 ―猫舌なので、すぐには飲めないのが残念だ。

「……」

 なにでも温かい方がおいしいのは分かるのだけど、たまに温かい状態で飲食出来ないなんて人生損してると言われると、む、としてしまう。

 食べたくとも、火傷をするし、その後味も何もなくなるのだから、熱い状態で食べない方がおいしく頂けると言うだけの話なのに。なんで、たったそれだけのことに人生を損していると言われないといけないんだろうな。そんな思考をする方が人生損している気がする。

 ……なんて思っても、言わないが。言ったら相手がどう思うかを考えて、言わないのだ。

「……」

 だからまぁ、それで何だと言う話だが。

 発言者に悪気があろうとなかろうと、適当に放ったその言葉で相手がどう思うかを想像できない間柄なら、下手なことは言わない方がいいじゃないかというだけの話だ。

 想像できるのなら、そもそもそんなことは言わないし、それなりの間柄なら冗談かどうかなんてお互い分かるだろう。分かると思って発言して、相手に伝わっていなければ、発言者の思い違いだったと言うことが分かっていいかもしれないけど。

「……」

 かたん。

 と、一際大きく列車が揺れた。

 勢いにつられて揺れた足が、何かにぶつかった。

 視線を移すと、そこには赤い鞄があった。

 持ち歩くには少々大きい気もするが、そうでもないかもしれない。

「……」

 丁度。

 ボールひとつくらいは入りそうなサイズ。

 浮かんだのは、ボーリング玉。

 または。

 人の頭とか。

「……」

「……」

「……」

 ふむ。

 して。

 なんで私は。

 寝台列車になんて。

 揺られているんだろうな。







 …………」

 ぼやけた視界に、見慣れた景色が映る。

 折り畳みができるパイプの机と、セットの椅子。

 扇風機の風が布団を蹴って、むき出しになった足を冷やしている。

「……」

 また変な夢だなぁ。










 お題:赤い鞄・寝台・コーヒー

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