4.認め難い
皆が俺を見つめている。それぞれが武器を構えながらに。
俺はただ、手を伸ばす。伸ばした手は、クレイの剣によって切り落とされた。
止めてくれ。俺は敵じゃない。なのにどうしてお前たちは、俺を鋭い目つきで睨むんだ。
フログの矢が胸に突き刺さった。
止めてくれ。俺はただ、皆の役に立ちたい、立ちたかった。それだけなんだ。
突き刺さった矢を引き抜こうと腕を上げた。痛い。突き刺さる痛みではない。骨が非常を主張する様な痛みだ。
その痛みが耐え難くて瞼を上げ、知らぬ天井を確認した。
「起きた!兄ちゃん!!」
知らぬ少女の声が耳に入る。その声に疑問を抱くと共に、少女の声が離れていった。
体を起こす。少し意識が混濁しているが、体の疲労は感じられない。腕は固定されてしまっていて、自由を奪われている。
「よっ、大丈夫か?」
声変わりこそしているが、幼さが残った声を耳にして顔を見遣る。そこには誰もおらず、部屋の外を確かめさせるばかりだ。
直ぐに奥から出てきたのは、青い肌に銀色の髪をした、魔族の青年と少女であった。
身構える。
「そんなに怖がんないでくれよ。べつに金とか取る訳じゃないんだから」
「どういう風の吹き回しだ」
「いやぁ、人助けに理由なんて無い方がいいだろうよ」
魔族が俺を助ける理由が分からない。意図があるのか、と勘繰る方が自然にさえ思われる。
ひとまず、目の前の魔族に対する憎悪と嫌悪の念を認める。目の前の奴らが俺に危害を加えた訳ではないが、この念は全ての魔族に対するものであり、奴らも例外ではない。
「意味が分からない。少なくとも俺は、お前たち魔族が倒れていたらトドメを刺す。生かすとすれば、利用価値があってのことだ」
「なんだ?気がおかしくなっちまったのか?」
「分からないのか?俺を生かした訳を聞いているんだ。なぜ、俺を生かした。魔族に救われるぐらいなら、野垂れ死ぬ方がマシだった…!」
「はぁ?なら、だれに救われりゃいいんだ?」
「人間に決まっているだろう」
分からない奴だ。よほど知能が低いのだと伺える。
奴はわざとらしく息を吐いて、頭を掻き始めた。
「おい、一回深呼吸してみろ。お前は魔族なんだ、人間はお前のことなんて助けようとはしないぞ」
俺が魔族、か。動揺や混乱を狙ってのことなのかもしれないが、余りにも現実味が無い話だ、信じる者など居やしない。むしろ、俺を冷静にさせる程であった。
ひとまず、記憶を整理してみる。
目覚める前は、ルガリアで見回りの仕事を行っていたはずだ。そこで、ラテリアの襲撃に合って、仲間たちは殺されてしまって、俺もまた、ラテリアに殺されかけていたはずだ。それから、俺は、どうなった?なぜ生きているのだ。ラテリアの襲撃は記憶違いなのだろうか。いや、有り得ない。あの時腕を砕かれて、その痛みは、確かに継続している。
腕に視線を落とした。
「肌が、青い…?」
「当たり前だろ」
俺の横に在る窓の反射にて、己の顔を覗く。
光によって反射されていたその顔は、確かに、人間ではなかった。青い肌に白い髪をしていて、黄色い瞳と顔の造りだけが元と変わらない。
「よっぽど混乱してんだな。まぁ、無理もないか。ひでぇ怪我だったし」
訳が分からない。夢か、夢なのだろうか。この現実は、信じ難い。認め難い。
「おい、俺はどこから来た?」
「俺は分かんねぇ。村長にたのまれたんだよ、お前の世話を。あ、そうだ」
青年は懐から手紙を取り出して、俺に差し出した。迷わず手に取る。損傷した腕が激しい痛みを主張していたが、そんなものは取るに足らないことで、今は状況を知れる手がかりが欲しい一心であった。
《これを読む頃、多少は落ち着いたのだと存じます。僕はあなたをどこへ連れて行けば良いのか分からなかったので、知人が村長を務める村に預けることにしました。ひとまずはそこで生活して下さいね。六月一日にチウリツ国で落ち合いましょう。長旅にはなると思いますので、十分に準備をしておいて下さい。そこで事情をお聞かせ頂けると幸いです》
《友人のリンデより》
事情とは、俺が人間じゃなくなったことだろうか。俺が知りたい。訳が分からない。
窓枠に頭を打ち付けてみる。
「お、おい、何やってんだ!」
「…痛い」
夢では、ないらしい。夢の中であっても痛みを感じることはあるが、この痛みは、部位と感覚を明確にして主張している。生温い液体が額から緩慢に頬を伝っていくのを感じている。
ふと、打ち付けられた窓枠が歪んでしまっているのを確認した。木製ではあるが、それでも脆い。魔族どもの技術力が伺える。窓ガラスが破れていないのが幸いか。
「一回外に出よう!お前、どうかしちまってるよ!」
掛け布団を剥がされ、促されるがままに外に出た。
曇り空であった。太陽は隠れてしまっていて辺りが薄暗い。
そして、村と言われる割には活気に溢れている。魔族の子が駆け回り、魔族の男どもが家を建て、魔族の女どもが至る所で立ち話をしている。木材で組まれた質素な家々が立ち並んでいる。
「けっこう賑わってるだろ。ここはお前みたいに居場所を失くした人が集まってるんだ」
「居場所を失くした?」
「そう。人間に襲撃されたとか、遠征してたら帰れなくなったとか、まぁ、色々な」
人間に襲撃された、なんて、因果応報の限りだ。魔族が人間を襲うのだから、人間もそれ相応の対処をする、ただそれだけのこと。
「お前ら魔族が人を襲わなければ、そんな事態にもならないと言うのに」
「はぁ?」
「言葉の意味が分からないのか?因果応報だと言っているんだ」
胸倉を強く掴まれる。
「テメェそれマジで言ってんのか?混乱してんだとしてもそれは認めらんねぇぞ」
「少しでも学が有れば分かることだ。お前らはよほど知能が低いようだな」
寄せられた顔に皺が深く寄っていく。不都合を指摘されて気不味いのだろうか。
「おー!あなたがリンデ殿の!」
年老いた声が、俺たちの諍いに横槍を入れた。共に声の方を見遣る。
そこには、杖をつくいかにもな魔族の老人が居た。
「村長!」
「確か、お名前は…」
「クラウスだ」
「そうクラウス殿!私がこの村の長でございます。リンデ殿から、話は聞いておりますよ」
知人とは、老人であったか。それに、やはり魔族であった。リンデから魔族との交流について聞かされてはいたが、魔族からその名を耳にすると、リンデの異質さを再認識する。
しかし、そんなことはどうでもいい。俺はこの現状を把握できる手掛かりが欲しい一心だ。
「話を聞かせてくれないか」
「えぇ、構いませんが。立ち話も落ち着きませんから、私の家で、茶でも啜りながらにいたしましょう」
ーーー
出された茶を、固定された腕をどうにか刺激しないようにして掴み上げ、口に含む。すると、強い苦味と、雑草を噛んだような青臭さが口内を埋め尽くした。
「リンデ殿とは、この村に来る前に出会いまして。彼が当時拠点にしていた村に、私も住んでいたのです」
「いやぁ、彼は凄い青年でした。人間でありながら、凄まじい速さで駆け回り、多くの魔族を助けておりまして。彼のことを英雄視する者もいるぐらいでしたよ」
「まぁ、数多くの魔族を救うもんですから、前の村では避難民に溢れてしまいまして。その避難民たちの行き場として、私がこの村を作ったのです」
「初めは大変でして、」
再び茶を啜ってみる。やはり、苦い。顔を軽くしかめた後で、隣に座る青年と目が合った。言い争っていたが、今、この場所で考えていることは同じなのだと思う。
老人の話は長い。それは人間も魔族も変わらないらしい。無意義な相槌を打っていたくもなかったから、話が途切れたタイミングでこちらの疑問を投げかけることにした。
「俺をここに連れてきたリンデは、何と言っていた?」
「いやぁ、突然に来まして『預かっておいてくれ』と。手紙も渡されましたが、読みましたか?」
「あぁ」
「そうでしたら、私からお話できることはこれくらいになります。リンデ殿とは、どのようなご関係でございましたか?」
「ルガリアで共に仕事をしていた。俺とあいつは」
手紙にて差出人の名乗りを回想する。
《友人のリンデより》
「友人だ。釣り合わないが、仲良くやれていたと思う」
「左様ですか!しかし、あのルガリアにも、魔族が隠れられる場所があるのですねぇ」
「違うッ!」
思わず声を荒らげていた。しかし、言いたいことは何も違わないのだから、構わず話を続ける。
「俺は、人間なんだ」
「はて?クラウス殿は、紛うこと無く魔族に見えますが…」
「村長、こいつ起きてからずっとこんな調子なんだ」
なんて、呆れたように言われているが、それに腹を立てる程の余裕が無かった。なにせ、魔族になった現状への動揺が、頭を埋めていたのだから。
「俺にも分からないんだ。俺は確かに人間で、人間として過ごして、人間として扱われてきたんだ。それが、今、こうなっていて…」
「なにやら大変なご事情があるようですね」
「目覚める前は、人間の仲間たちと共に仕事をしていて、そしたら、ラテリアと言う魔族に襲われたんだ。そこで俺は、殺されかけていた筈なんだが…そこからは覚えていない」
「え!あのラテリア!?まじか!?」
ラテリアは有名人だ。リンデも、勇者狩りも、その名を認知していた。だから、青年の反応に無理はない。身を乗り上げられて目障りではあるが、構わないこととする。
「ほぉ。人間だったのに、殺されかけたら、魔族になっていた、と。ほほほ!面白いこともありますなぁ」
笑い事ではない。なんて、俺が腹を立てる間も無く村長は立ち上がり、奥の部屋へと消えていった。
ほんの少しの時間が過ぎて、俺が茶を啜っていた頃、一冊の本を手に戻ってきた。
中々に厚みがある本だ。所々が痛んでおり、読み古されてきたことが伺える。
「昔から、おとぎ話みたいな空想的な話が好きでしてねぇ。その中でも、一際不思議に思っていた話がございます」
開かれた状態で差し出された本を覗く。古めかしい文体ではあったが、読み解くのに労しない程度だ。
《男は崖から滑り落ち、其の身体を激しく打ち付ける。地面にて空を眺める男は内心で、短き生涯への悔しさを噛み締めた。共に、激しい痛みに対する悔恨の念と諦念とを感じていた。男は死を呪った》
《然し、男は立ち上がった。然して男は折れ曲がった腕を見て、己が魔族に変貌したことを知った》
「この話は、人間だった男が魔族に変わる話でして。昔話ですので、大した結末もございませんが、どうでしょう?クラウス殿と重なりませんか」
死にかけて、魔族に変わる。確かに、今の俺と共通点が多い。しかし、そんな超現実的な話を鵜呑みにすることもできない。
「クラウス殿のお話は信じておりますよ。まぁ、空想話好きな年寄りの戯れ言にございますが」
信じて何になる。俺が人間に戻れる訳ではない。いや、反発していたって仕様が無い。なのに俺は、魔族の発言と言うだけで、全てが受け入れ難くなってしまう。俺自身が魔族になったと言うのに。
「じゃあ、仮にこいつが本当に人間だったとして、この村に置いてもいいのか?」
「なーにを言う!リンデ殿のご友人じゃぞ。追放する理由なぞあるまい」
「いやいや。こいつ、相当魔族のことが嫌いみたいだぜ。何しでかすかわからねぇだろ」
あぁ、嫌いだ。俺自身も、魔族どもの中に放り込まれて何をするか分からない。
しかし、俺と言う危険因子を招いたのは魔族自身だ。俺をこの村に招いた、と言うことではない。魔族が俺から家族や仲間たちを奪っていかなければ、俺の憎しみは今程に膨れていない訳で、リスクを魔族が自ら作り出したに過ぎないのだ。
内省しろ、お前たち魔族の罪深さを。俺と言う因子を以て、己を呪え。そして、人間の幸を願え。
「…左様ですか」
「あぁ。俺はお前たちを憎んでいる。認める」
「なぜ私共を憎んでいるのでしょう」
分からないのであれば、それが魔族の限界と言う訳だ。学が無い、想像力が無い。或いは、魔族が人間を襲う現実から目を背けているのかもしれない。
リンデ、お前は愚かだ。『魔族と人間が手を取り合う未来を』なんて、叶わぬ夢だ。お前ほど聡明な男が、なぜ分からなかった?
まぁ、いい。人間として暮らしてきた俺が、魔族どもに一つ視点を加えてやることにする。
「俺は魔族に父を殺された。捨て子だった俺に、沢山の愛情を注いでくれた、自慢の父だった」
「…それは、なんと」
「それから俺は、仲間たちと共に旅をしていた。そこで見たのは、魔族が人々を不幸に陥れる、凄惨な光景だった」
「分かるか?お前ら魔族は、人間の不幸を願う低俗で、野蛮な存在だ。疑いようが無い。俺の憎しみを咎める者なんていない」
やっと、思いの丈を憎き対象にぶつけることが出来た。あぁ、気持ちが良いな。悪くない、いや、良い。
そう、お前らは下等な生き物なんだ。それを自覚させられる機会を与えられた。魔族になった体が恨めしいが、同時に感謝もしている。この体にならなければ、経験し得なかったことだ。
「それは、申し訳ございません」
村長が深々と頭を下げている。
「我が同胞が、そのような仕打ちを」
「村長!あまりにも一方的だろ!」
「静かにせいッ!大事な事じゃ」
気持ちが良い。優越を感じる。おい、ダメだダメだ、俺が気持ち良くなっていたって、人間の魔族に対する憎しみは救われない。
少し、自重する。
「しかし、どうか魔族を恨むのは止してください。クラウス殿の不幸は、私に取っても不本意にございます」
全面的な謝罪の姿勢からは予想し難かった主張が耳に滑り込んだ。
反論する間も無く、村長が面を上げて、不潔に伸び切った眉毛の隙間から真っ直ぐとこちらを見つめた。
「この様な事態は、今代の魔王に依って引き起こされたものに他なりません」
「自分は悪くないとでも言いたいのか!」
「肯定しましょう。なにせ、あなただって自分を悪いとは疑いますまい」
「なに?」
ふと、村長の視線が逸れたのを確認する。その視線は、俺の隣に座る青年に向けられたらしかった。
「フルードは…その子は、あなたと同じく親を失くしています。まだ三年も経っていませんね」
「フルードたちは、争いとは全く無縁の生活をしていました。しかし、人間によって故郷を滅ぼされたのです」
フルードは微かに震えていた。まるで、幼き日の俺の様であった。
魔族が俺と苦しみを共有していることに対して、確かな憤りを感じている。不愉快だ。認め難い。しかし、哀れむ気持ちが、無い訳でもない。
「クラウス殿も、フルードも、同じです。同じく大切な者を奪われ、憎む。人間も魔族も、同じなのです」
「ですから、どちらも悪くありません。そう信じております」
悪くない?ならば、俺の憎しみの矛先は、誰に向けられるべきなのだ。魔族は確かに人間を不幸に引き込む。待て、それは人間も同じだと言う。お互い様で片付けろと言うのか?
いや、疑うな。俺の人生は、魔族への憎悪と共に進んできた。その憎悪が揺らいでしまったら、俺は、どこを目指して生きるのだ。
「全ては、あの魔王に起因します。人間も魔族も、憎むべきは魔王なのです」
魔王が悪い?俺の父を殺したのは、低俗な魔族であった。人々を襲っていたのは、魔族の野盗であった。自警団の仲間たちを殺したのは、イカれた魔族の魔導師であった。魔王が殺したのではない、魔族が殺したのだ。魔族全体の問題ではないのか。
しかし、人間も奴らの反感を買っていたのだとすれば、それは、人間にも要因があると言えてしまう。魔族が人間を襲い、人間がその怨みを他の魔族にぶつけ、その魔族が人間を、あぁ、悪循環だ。
「あなたの憎しみは、至極真っ当なことです。しかし、その矛先を見誤ってしまっております」
「…それは、認め難い」
まるで、生きる指標を一つ失ったみたいだった。だから、素直に受け入れ難い。魔族への憎悪は無くならない。
「構いません。どうかここでの生活を通じて、問い直してもらいたいのです。これは、人間だったクラウス殿であるから出来ることでございます」
答えなんて、分かりきっているだろう。全ては魔族に起因するのであって、魔王が、なんだ。
今は少し、動揺してしまっているだけだ。明日にはきっと、元の思想に戻る。
「なんだかんだと言ってるけど。村長、俺は人間なんて許さないぞ。あいつらは全員、野垂れ死ねばいいんだ」
フルードは一人、部屋の戸を開く。
野垂れ死ねばいい。聞き捨てならない言葉であったが、反論を呑み込んでしまった。しかし、呑み込んで良かった。仮に言い返したとて、俺の口から出る言葉は侮辱に他ならない。そうして返ってくる言葉もまた同じだ。そして、ああして、こうして、堂々巡りになる。
それに、フルードの憎しみを孕んだ瞳が、自分と重なるように感じられた。憎む対象こそは正反対であれど、その怨みの念は同じ。そんな奴の言葉を否定することは、俺の想いを否定することに他ならないと、そう思えた。
ーーー
少女の手に依って、塩茹にされた芋を口に含む。趣味ではない。不便になった手を用いて口に運ぼうと試みてはいたが、現実的ではなかった。見兼ねた少女が、俺の食事を手伝う旨を提案したのだ。
柔らかな芋を舌に纏わせ、空気と混ざらないように飲み込む。芋は甘味が無く、そもそも、味付けの塩味しか感じられない。
「質素だな」
「文句言うなら食うな」
「いや、文句を言うつもりはない。ここには、芋しかないのか?」
「そんなに錆びれた村じゃねぇ。ただ、料理なんて教わってねぇし」
その言葉の裏には、現状の不条理に対する不満が見え隠れしていた。教わって無い、でも、教えてもらえることはもう無い、なんて。
目に映る青年は、大人びた雰囲気ではあれど、幼い顔つきをしている。本来、自立なんてしていい年齢ではないのだ。親の過剰な程の愛に反発し、それでも余る愛を噛み締めて、漠然とした未来に期待を膨らませる。それが、望ましい姿だ。
それなのに、瞳に詫びしさを秘めて、それでも、前を見る他に方法が無いのだから明日を待つ。そんな孤独な表情は、かつてのフログとも重なる。あいつは、帰るところなんて無かったな。
「兄ちゃん以外の人と食べるの、久々だね」
そんな無邪気な言葉が、この固い空間の中で、無為に輝いていた。フルードの手が、影の中で怯える子供の様に固まる。
「…そうだな」
しばらくして再び動き始めたフルードは、芋を刺したフォークをこちらに突き付けた。
「おい。その腕が治ったら、自分でどうにかしてくれよ。俺は人間なんて嫌いだ」
「村長の頼みだから追い出すなんてしねぇけど、お前といると…苦しくなっちまう」
「おぎょうぎ悪い!」
お互い様だ。
「互いに干渉しないようにしよう」
「当たりめぇだ」
互いの為の提案だ。しかし、実際は俺の為に他ならない。俺はフルードと関わり続けて、己の信念が揺らいでしまうのが怖い。もっと時間が欲しい。自分が正しいと言う根拠を肉付けるだけの時間を。俺は、間違っているのだろうか。己を疑うのが嫌で旅を止めたのに、こうなってしまっては、疑わざるを得ないから困る。
村長は魔王が悪いと言っていた。そしてクレイたちは、平和の為に魔王討伐を掲げていた。リンデも、だ。それは、あいつらが広い視点を持って世界を分析できていたからなのだろうか。学が無い、想像力が無いのは、俺の方なのか。いや、疑うな。俺が見てきた物は真実で、変わらない。
ちょっと、思考に疲れてきてしまった。こんな時には、薄っぺらい本でも読んで、頭を空っぽにしたくなる。




