11.旅の困りごと
また更新を大幅に停滞させてしまいました。読者様に対し、謝罪の意をここに述べさせていただきます。
すみません。本当に申し訳ございません。
少し文体を変えてコミカルにしてみました。やっぱり直感的に理解できる表現はジャンキー且つ手軽で美味しいですね。あと私も感覚的に書けるので楽です。
一過的な変更であって、次話では変わっているかもしれません。気まぐれですみません
目的地までの旅を初めてから短いと言うのに、仲間達と旅をしていた頃の感覚が簡単に戻ってきている。
「とり、りんご、ご…ゴールド、」
独りでしりとりなんて、気が触れたのかと疑われる様子だろう。しかし、多くの旅人はそんな感じだ。少なくとも、出会ってきた限りはそうだ。目的地までの道中は余りに暇なもので、今のようにしりとりや、終着点を設定しない思考、歌など、気付けば手近な享楽に支配される。要するに暇潰しだ。
ただ、仲間達とそれらを共有していた時は単なる暇潰しを超えて、幸福だった。しりとりはアルルが強かった記憶だ。クレイが果敢にもアルルに作戦を仕掛けていたが、逆にハメられている事が多かった。やはり、知恵には適わないのだと思う。
「ファイアー、雨、目頭、ら…ランタン」
余りに空虚であると感じられて、故意に打ち切ってしまった。なにより、仲間達との刺激的な旅の様子を回想してしまって、淋しくなるのだった。
ここまでに連想ゲームや歌などを独行していたが、全て同様であった。やはり、独りは淋しいのだと再認識させられる。
喉の渇きを意識し、村長より賜った水筒を手にする。重量感からして、内容されている水の量は少ない。当然、予備の水筒が数本あったのだが、既にいくつかは飲み干してしまった。なにより、それらに手を付ける事は控えたい。可能な限り、万全の状態で進みたいのだ。旅において、不足を意識してからの行動はリスクが大きい。
だから、補給のための水辺を探しながらに歩き続けている。最悪の場合は澄んだ水溜りでも構わない。煮沸すれば大概の水は飲めるものだ。しかし、見当たらない。近隣に村が在れば手っ取り早いのだが、直感的に無いのだと予想している。旅慣れを多分に含んだ感覚なのだから無鉄砲な自信ではないはずだ。
もし、魔法で水を生成できるのなら、それはどんなに楽なのだろうか。なんて願望を、全ての旅人が抱いている。水魔法が得意な者であれば叶えられるように思えるが、0から水を行使する魔法使いを見た事が無い。基本は現存している水を操作するのだ。アルルいわく、無から生成する場合は体力の消耗が激しいらしい。そうして生み出せるのは少量であり、割に合わないとも言っていた。
そもそも、俺が開花させた魔法は特殊なようで、自然を使役することはできないらしい。
また、夢を見てしまった訳だ。覚めたことによる失意は少ないが、それでも、夢見てしまう己の弱さが恨めしい。夢を見たから今の苦しみが有ると言うのに、俺はまだ楽観的でいるようだ。
「…人?」
何者かが後方から近寄って来る足音を耳に認めた。瞬間的に安堵する。なにせ、水の在り処を聞ける可能性があると共に、それを知らなかったとしても、旅人であれば話し相手になりえるからだ。
期待を胸に後方へと体を向けた。
その者はまだ数メートル先におり、俺の元まで駆け寄ってきていた。振り返った俺に少し戸惑ったようだが、調子を変えず必死な顔で進んでいる。
「あの、旅人さんっすよね!」
「あぁ」
その青年は短髪気味で爽やかな容姿をしている他、背高であり、どこかあどけない表情で俺に笑いかける。
「俺も旅人なんです!同行しちゃってもいいっすかね」
好都合であった。水源などは知らなそうだが、旅の退屈と孤独を紛らわしてくれそうだ。
しかし、妙にも思う。彼は旅人と名乗っておきながら、余りに荷物が少ないように見受けられた。服も機能的と言うには薄過ぎる。靴は底が薄いようで、森の中や長距離を歩くことを想定しているとは考えられない。
旅慣れしていないと言うのであれば、それまでの話だが。
「むしろこちらから願い出たい」
「あざっす!」
「旅には慣れているのか?」
「バリバリっすよ!色んな所に行ってるんで」
なんて、青年は輝かしい笑みを浮かべた。
怪しい。怪我をした際に局部を止血する包帯は、その荷物の中に入っているのだろうか。十分な水は、食料は、どうだ。
魔族と人間の身体構造が違うためだとも考えられるが、村で過ごして魔族の生態を観察した限り、人間との違いは凄まじい筋力とそれを維持するための食量だけだった。そうだ、魔族は人間より食べるのだ。なおのこと、青年が迎える食料の不足を案じてしまう。
しかし、彼の雰囲気は懸念を上書きする程に眩しい。あぁ、ダメだ。雰囲気で判断するべきではないが、彼を疑う気持ちを後ろめたく感じてしまう。
「お名前、なんて言うんすか?」
「クラウスだ。チウリツ国を目指して旅をしている」
「チウリツ国に?確か、魔族と人間が唯一共存している国だとか…」
「あぁ、友人と待ち合わせているんだ。予定の日よりも遥かに早いがな」
「おー!なんか、いいっすね」
「なにがだ」
「なんとなくっす!」
テキトーな奴らしい。しかし、悪い気はしない。彼は感性のままに生きているようだ。理屈などは無く、思ったことをそのまま口にしている。
「名前は?」
「ん、俺すか?」
「あぁ、言葉足らずですまない」
「勝手に謝んないでくださいよ!俺、ラコルメって言います」
「良い名前だな」
なんて、世辞の言葉だ。良くも悪くも思っていない。彼に無関心な訳ではなく、カドが立たない言い回しを選んだまでだ。
「ケイシキテキ(形式的)って奴っすねー」
「行き先はあるのか?」
「ないっす!あ、いや、あります!」
なぜ言い間違えるのだろうか。疑念が増してしまう。
「と言うと?」
「えっと、確か俺も…あれっす、チウリツ国っす!」
「確か?」
「あ、えーっと」
「隠し事をしているのか?」
「その、っすねぇ…」
彼は言い淀んでいる。立ち止まり、腕を組んで見守ることにした。
俺の後ろから、数人が駆け寄ってきている事には気付いている。
「さーせん!騙してました!ちょ、逃げてください!」
それを言うには、もう遅いな。
後ろから、何者かの刃が俺の首筋にあてがわれた。避けるのは容易であったが、殺意が無いことに気付いている。
獣であれ人であれ、対象への殺意は本能的に分かるものだ。ましてや、微力でありながらも死合いを多く経験した俺は、その有無を容易に感じられてしまう。
ふと、エリス皇国の騎士らの様子が脳裏を過ぎった。奴らからは殺意が感じられないから気味が悪い。
「おいラコルメ!今更逃げるつもりか!?」
「ひゃいー…!す、すんませーん!」
「根性無しが…!」
男に怒鳴られたラコルメは、その場に立ち尽くしていた。
彼は野盗に向いていない。嘘が余りにも下手だ。
ラコルメに構わず、辺りを囲んでいる二人と俺を刃で脅している男に問いかける。
「何の真似だ」
「見ての通りだ。その荷物を全部置いてくなら、殺しはしないさ」
「有り金も全部出しな、隠したら容赦しねぇぞ」
あてがわれていた刃が、首に僅かに食い込んだ。不愉快だ。しかし、彼らの存在に感謝できるのかもしれない。
「お前達、この辺りの者だな」
「時間稼いだって仕方ないぞ?」
「ラコルメ、そうだろう」
出会って間も無いが、ラコルメの素直さを信用している。
「そ、そうっす!近くの町に住んでます!」
「おい!住所を言うなバカ!!!」
バカだが、それでも彼は眩しい。少なくとも、略奪者とは比べ物にならない。いや、俺を騙そうとしていたのだから、悪いか。しかし、何かを奪う事に対し嫌悪感を抱かない奴らのことが、とにかく腹立たしかった。そして、本当に不愉快だ。
動けぬ事に不快感を覚え始め、首周りを覆っていた腕を堂々と持ち上げる。
奴が文句を垂れる前に、腹の辺りに肘打ちを見舞った。
「殺す気がなければ、それを武器とは言えない」
野盗の一人がナイフを捨てて殴りかかってくる。捨てる様が滑稽にも思えた。
遅く大振りな腕を掴み、俺の後ろへと投げ飛ばす。
「そして、奪われる者の苦しみを知らないようだな」
残りの一人の元に歩み寄る。奴は両手を震わせながらナイフを固く握り込んでいるようだ。顔には無数の汗が浮かび上がっており、いくつかは滲んで顔に光沢感を与えている。
「こ、殺す…!まじ、まじだ!まじで殺す…!」
構わずに歩み寄った。奴は衝動的になったらしく、こちらの腹部に刃を向けながら突進した。軌道が読めた一撃など取るに足らない。しゃがみ込み、膝を抱えて後ろに投げ落とす。
後ろで怯んでいた三人に体を向け直し、怒りを胸に抑えるよう努めながら声を発する。
「奪う者は許さない…!去れ!!俺はお前達を、」
気付けば、半透明な魔法の剣が奴らに三本向けられていた。
「殺してしまうぞ…!!」
なんて、脅しのつもりで言っている。しかし、確かなる怒りが声に滲んでいると知っている。奪う者に向ける思いは、全て等しい。奴らは悪だ。人間であれ魔族であれ、その悪性に変わりはない。
野盗の一人が無様にも背を向けて走り出した。立て続けに他二人も逃げ出す。
実のところ、奴らを罰したかった。奪う悪を断ずることで、記憶の中で生きる奪われた者達に僅かな希望を示したかった。しかし、それでは本末転倒となってしまう。被害を減らすために罰があるのだと分かってはいたが、苦痛を与えるだけの勇気がなかったのだ。
俺は弱い。なにより、また夢を見てしまっていた。旅は常に危険が伴う。だから、最新の注意を払い続け、来る人全員を警戒する必要があるのだ。
それだと言うのに、俺は孤独と退屈に負けて、ラコルメを受け入れてしまった。あるいは、慢心がそうさせたのかもしれない。
とにかく、他者との刺激的な旅を夢見て、俺は略奪されようとしていた現実に覚めたのだ。
弱い、弱い。
「ラコルネ」
「は、はい!あ、」
振り返ってラコルネを見遣れば、彼は清々しくも思わせるような土下座を披露しているのだった。
「さーせんっした!!」
「なぜ俺を逃がそうとした」
今だって、彼の善性を夢見ている。
彼は瞬間的に顔を上げたが、自嘲気味に微笑みながら顔を再び伏せるのだった。
「やっぱ、俺こういうの向いてないんすね。クラウスさん、めっちゃ良い人っぽかったんで、ちょっと、ムリでした…」
彼の言葉に一切の理屈を感じられない。言動も行動も表情も、全てが白い。白いからこそ、簡単に悪に染められてしまうんだ。なんて、論理の飛躍なのかもしれない。感情的で直感的な考えだ。
だが、彼を咎める事ができなかった。
「…俺を近隣の町まで案内してくれ。これは罰だ」
「い、いいんですか?仮にも俺、クラウスさんに悪いことしようとしたのに」
「構わない」
ラコルメの腕を掴んで引っ張り起こし、その肩に手を置いた。
「頼むぞ」
「はいっす!」
彼の笑顔は余りに輝かしい。まるで、クレイのようだ。
ラコルメと横並びに歩みを進める。
「クラウスさん鬼強いんすねぇ」
「あれぐらいなら容易い」
「やっぱ旅歴長いんすか?」
「慣れてはいるが…まだ四年程か」
「ほほう。てことは、30代っすね?」
「なぜだ」
「直感っす!あとは顔的に!」
「60代だ」
「マジすか!?見えないっす!」
「23だ。失礼な奴め」
「えー!わっか!俺、19っす!」
クレイと同じぐらいだ。いや、それよりも。
本当に大丈夫なのか、19歳でそんな、純粋なままで。悪い大人に利用されて、人生を棒に振りかねない。そうならないことを願うばかりだ。
「旅って面白いんすかね」
その問いかけには、安易に肯定できない。
「…強ければ、な」
「じゃ、クラウスさんはエンジョイしてたんすね!」
違うんだ、俺は、あまりに弱かった。劣等感ばかりだった。そして、目的が違うことが、なによりも淋しかった。
「ま、町に着いたら色々教えてくださいよ。コレ、でね」
ラコルメは手を湾曲させ、口の辺りで揺らしていた。まるで、手の内にジョッキが挟まっているようだった。
良い気な奴だ。しかし、その楽観的な言動に心地良さも覚えている。
「あぁ、受けてたとう。強いぞ俺は」
「えぇ!しんみり飲みたいんすよー!」
なんて、俺も気の良い事を口走っている。
退屈で淋しい旅も、今は中々に面白い。




