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プロローグ

「俺たちは必ずや魔王を倒し、人々に平和をもたらします!」


仲間の中の一人が、威勢良くそう宣言した。

在りし日の一幕。俺たちは勢いのまま自国の王の元に訪れ、魔王を討伐すると誓った。勢いで王様に会える程度には小さな国だった。なんなら、王の娘が俺たちの幼馴染で、旅の仲間の一人であった。まぁ、そんなことはどうでもいいのだが。

王は寛大な心を持った方で、俺たちの冗談混じりな宣言に乗っかり、旅に必要な道具、金銭的な援助など、諸々を用意してくださった。こうして、俺たちの「魔王討伐の旅」が始まった。

今になって考えると、皆はただ、冒険がしたかったのだと思う。人々を苦しめる魔王、そして魔族への憤りは確かであっただろうが、それ以上に外の世界が魅力的だったのだろう。沢山の思い出が欲しかった。それだけで良かったのに、俺だけが、魔族への恨みと、仲間達への劣等感とを捨て切れなかった。それだから、今の状況に耐えられなくなってしまった。


今は、旅が始まってから四年ほどになるであろうか。既に祖国は遠く、旅の当初に立てた予定の通り順調に進んでいる。


「ねぇクレイ。ルガリアまだぁ…?」

「長旅って言っただろー?今日は町にも寄るんだし、我慢してくれ」


今、俺たち一行はルガリアという国を目指して旅をしている。今回の旅の出発地点からすると、ルガリアまで最短で行くには大きな草原を通る必要があり、俺たちは最近、その草原ばかりを歩かされている。勿論、道や看板は有るので、迷うことはない。しかし、周りに何もないので、ひたすらに虚無である。


「こんなんだったらさぁ…遠回りでもいいから、森から行くべきだったでしょ」

「弱音かー?アルル。それはお前がエルフだから言えるんだぞ?森は虫だらけだし、敵に遭遇した時動きにくくて大変だっただろう?」

「でも!ここ暑すぎるよ…虫なんて我慢すればいいのに」

「文句言うな。今更引き返せないだろが」


アルルはエルフであり、森での行動に長けている。だから、森での移動は彼女のお陰でとてもスムーズなのだが、「快適か?」と問われると首を横に振る。前の旅では、それこそ森の中を旅した。その際、アルル以外の皆は、木の根によって歩き難い足場や、巨大な虫などに苦い思いをしている。それに比べれば、ただ暑いばかりで、道なりに進めばいいだけのこの草原が快適に感じられるのも当然だ。

プンプン言っているアルルと、それをいなすクレイの言い合いは続く。


「そもそも!クレイが馬車を予約し忘れたのが悪いんだよ」

「それはだな〜!…俺が悪い」

「でしょ!この前だって剣を無くしてたし」

「ぅ…」

「夜こっそり食料食べてたし」

「ぅ…」

「今回だって…」

「あ〜もううるさいなぁ!!お前だってなぁ!この前貴重な水を一人で飲み切っただろ!」

「水は飲まないと死んじゃうでしょ!」

「俺たちだって同じだよ!」


しょうもない言い合いが始まってしまった。よくある光景だ。

隣を歩いているフログに肘で小突かれる。何を言いたいのかわかる。こういう時、場を収めるのはいつも俺だ。


「お前ら、そこらへんにしておけ。文句を言ったって歩くしかないんだ」

「文句を言ってるのはアルルだ!」

「文句じゃないもん!私のこれは至極真っ当な…」

「いい加減にしろ!こんな子供じみた喧嘩、いつまで続ける気だ。確かにアルルもしつこいが、クレイが言い返さなければそれで済んだ話だ」

「どっちもどっちだろう」


二人とも、言葉を飲み込んだ様ではあるが、依然として睨み合っている。

険悪な空気に耐えかねてか、普段は皆に合わせがちなメリアが、「休憩を取りませんか」と提案をした。しかし、フログがそれを否定する。


「いんや、中継地点まで急いだ方がいいな。最近、この辺りで魔物が増えたらしい。あんまりモタついてると、面倒なことになるんじゃねぇか?」


クレイが問う。


「どんな魔物だ?」

「確か…虎のようで、真っ黒な見た目らしい。群れで襲ってくるらしくて…そうだ、ちょうどあんな感じだったか?」


フログが指を指す先を見ると、体長は人ぐらいで、長い牙を持つ、シルエットで言えば虎に近い獣が、ちょうど10匹、ゆったりとしたペースでこちらに向かってきていた。

皆、一瞬立ち止まる。


「あぁ、あんな感じか」

「初めて見るね」

「確かに黒いな。確かに…あれだ!」


先頭の一匹が唸りながら駆けてきた。

全員が荷物を放り捨て、武器を構える。

フログが牽制として放った矢がその一匹の首元に突き刺さった。しかし、その魔物は気にも留めない様子で、こちらの先頭にいたクレイに襲いかかった。

クレイは冷静に、魔物の前足と首を切り落とす。


「ザコい矢じゃ足止めにもなんねぇな」


他の個体は、呆気なくやられた同胞を見てたじろいでいるようだ。

クレイはその隙に、パーティ全体に指示を出す。


「バラバラにならなければ安全に戦えるはずだ」

「フログ、今回はあいつらの足を狙っておいてくれ。動きが鈍くなったところを俺が斬る」

「アルルはなるべく魔力を温存してくれ。本当に危険な時にだけ魔法を使う感じで頼む」

「メリアはいつも通り、傷ついた奴の回復を」

「クラウスはアルルとメリアの護衛だ」


その指示通りでいくなら、今回の戦闘はクレイとフログの二人だけで、ほとんどを対処するということになる。獣相手であるから、それで十分なのであろうか。しかし、まぁ、俺にはもう、とやかく言うことはできない。大きな盾を担いで、後衛二人の前に立った。

前方では、フログが放った矢を合図に、クレイが群れへと走り込んでいた。

二人の戦闘は、圧巻なモノだ。フログの狙いや判断は的確であり、クレイの剣さばき、速さ、センスもまた一級である。二人は連携して、二匹、三匹と次々に殺してしまう。

群れの後方にいた二匹が、クレイとフログの間を縫ってこちらに向かってきた。辛うじて、フログが一匹の後ろ足を矢で貫いたが、クレイは他の対処で手一杯らしく、俺はこの二匹をいなすことになった。


「アルル、魔法で倒せないか?」

「使うには距離が近いかな。それに、速いから当てられるか微妙かも」


アルルはエルフでありながら、火の魔法を使うのに長けている。勿論、火だけでなく、エルフ特有の自然系の魔法も全般使えるのだが、ここは草原であるため、植物などを使役することは難しい。そのため、ここで使うとなれば火魔法の他にないのだが、今は敵との距離が近いせいで、思わぬ事故に繋がりかねない。アルルが魔法を使わないとなると、いよいよ俺はクレイ達が間に合うまでの時間を稼がないといけなくなった。


「二人とも、俺の後ろを離れるな」


俺の盾は、並の大人と同じぐらいの大きさだ。その分重たいが、敵と味方の間に立って壁のような役割ができる。だから、ドラゴンのブレスや、一方向に進む魔法など、他の武器であれば避けるしかない攻撃に対して安全に対処することが可能だ。しかし、近接戦闘では邪魔になりがちになる。この盾を軽々持ち上げることができるのなら、近接戦でも味方を守ることが容易であるが、それは人間には無理だ。本来シールダーは、ドワーフなどの力持ちな種族が適任なのだ。俺がシールダーをしているのは、役割が余ってしまって、他にできることがなかっただけに他ならない。

二人は俺の大きな盾の後ろで身を屈めた。このまま奴らが、様子見を続けてくれれば助かるのだが…

俺の期待も虚しく、一匹が盾に飛びかかった。中々に重たいが、シールダーをしている以上、これぐらいの力を押し返せなければ話にならない。

魔物を盾ごしに押し飛ばし、再び盾を構えた。押し飛ばされた魔物は、一度距離を取ることにしたらしい。二匹は隙を伺うようにして、辺りをうろついている。一匹は前の辺りに位置し、もう一匹は右の辺りを歩いているのを確認した。

(挟み込まれたらマズイな…)

右側の個体を警戒していた時、突然、盾に重みが増した。前にいた個体によるモノだった。咄嗟に押し返すが、今度は簡単には引いてくれないらしい。その隙に、右側にいた個体がこちらまで距離を詰めていた。奴は、俺の後ろでたじろぐメリアに噛みかかっている。咄嗟に腕を伸ばす。幸い、仲間を傷つけられるのは防げたが、片腕を噛み咥えられてしまった。魔物に腕を引かれ、盾から剥がされた。


「アルル!」


支えのなくなった盾は、アルルを下敷きにして倒れた。盾の表は金属でできており、大部分は木製であれど、その重さは中々のモノだ。

盾をどけようと思ったが、腕を引かれているせいで身動きが取れない。その間に、盾で抑えていた魔物がメリアに遅いかかろうとしていた。

その時、クレイがメリアを押しやって、その魔物を斬り殺した。その後すぐに、俺を襲う魔物の首に刃を突き刺し、俺の腕を離したところを押し退ける。


「無事か!」

「助かった!」


クレイの問いかけは聞こえていたが、それ以上にアルルの身が心配であった。

盾の側に駆け寄り、急いで盾をどける。


「すまない!大丈夫か!」

「えへへ…なんとかぁ」


アルルはのそのそと立ち上がった。衣服に付いた土汚れをはたきながら、身体の具合を確かめている。


「平気平気!びっくりしたー。盾の凹んでるトコにちょうどハマったみたい」

「すまない。危険な目に合わせてしまって…」

「いいからいいから!クラウスが居なかったら、私達こんなんじゃ済まなかったしさ。ね、メリア!」


明るく振る舞ってくれている。呼びかけられたメリアは、そんなことお構い無しに、俺の腕を気にかけているようだ。


「ごめんなさい…私のせいです」


彼女の治癒魔法によって、傷口がみるみると塞がっていくのがわかる。


「いや、シールダーなのに、皆を守り切れないなんて、その…不甲斐ないな。危険な目にも合わせてしまったし」

「なに言ってるんだクラウス!お前がいたから、他の奴に集中することができたんだぞ?」


俺を承認してくれる言葉が、本当に暖かい。もしクレイ達が、他の魔物を先に片付けてくれていなければ、俺の弱さによってアルル達が傷ついてしまっていたというのに。いっそ俺がいなければ、もっと簡単に片付いていたように思う。クレイ達の実力ならば、後方に抜けてきた魔物らも一瞬で片付けて、安全に対処できていただろう。弱い俺が役割を持ってしまうから、他の仲間は俺を信頼する他なく、このような事態を招いてしまうのだ。いっそ、いなくなった方が円滑に進む、そんな気がしてならない。

後ろめたい俺を他所に、アルルは疑問を呈した。


「ねぇ、あんな魔物、図鑑にいたっけ」


アルルは記憶力が高く、特に、植物や動物のコトに関しては、アルルに全幅の信頼を置けるほどに詳しい。そもそも、彼女はエルフの里で高い教養を身につけているため、庶民暮らしで大した教育を受けていない俺達とは知識の差が凄まじい。そんなアルルが疑問に思うのであれば、他の仲間が知るはずもない。


「いねぇってことはねえんじゃねぇか。てか、お前さんがわかんねぇのなら、俺たちにはサッパリよ」

「うーん…見たことはある気がするんだけど…あれは違うしなぁ」

「あれ?」

「西の地の…だから、"魔族達の領土"に生息してるヤツなら知ってるんだけど」

「伏せろ!」


クレイの咄嗟の指示に、皆、身を屈めた。クレイだけが立ったまま、すぐ側まで差し迫っていた何者かに剣を振り下ろす。


「驚いた!」


クレイの後方から聞こえてきた声に視線を向けた。皆が再び武器を構える。

そこには、大きな鉤爪を手に持った、白髪で、青い肌をしており、そして、黄色い瞳を持った男がいた。魔族だ。人間と争い続ける、決して交わることのできない相手。

俺は、全身が震えるような感覚を覚えた。恐怖からではない。怒りだ。俺の両親は、とある魔族によって惨殺された。それから、魔族に対して深い憎悪を抱いている。

魔族の男は、軽快な口調で語り出す。


「防がれるどころか、攻撃されるなんて。逆に防がされるとは思わなかった」

「俺が連れてきた猫ちゃん達も簡単に殺しちゃうんだもんなぁ」


クレイが問いかける。


「何者だ?」

「所属は言わないけど、あえて言うなら勇者狩りをしている者だ」

「勇者狩り…その名前、聞いたことがあるな」


勇者狩りは、俺達のような旅人にとっては有名な男だ。神出鬼没で、魔王討伐を掲げる旅人達の前に現れては、その鉤爪で全員を切り刻んでしまうのだと云う。

勇者狩りは話を続ける。


「君たち中々強いらしいじゃん?あのラテリアを退けるぐらいだもんなぁ」

「それがどうした」

「いやー、危険な芽は若いうちに摘むべきだろって、ただそれだけさ」

「俺はラテリアみたいな失態は犯さない。今日が君たちの命日だ。精一杯抗って、今日という日を祝ってよ」

「皆、パターンBだ」

「了解!」


クレイの指示を聞いたアルルは、すぐさま、人の頭ほどの大きさの火球を二つ並べて、勇者狩りに放った。この程度、奴は容易に避ける。奴が避けた先に、フログが矢を放った。奴はその矢を鉤爪で弾く。それと同時に、クレイが勇者狩りとの距離をゆるやかに詰め、横振りに剣を払った。勇者狩りは冷静に、クレイとの距離を離す。


「遅いなぁ」

「魔法も、矢も、剣も、全部遅い。今のは様子見かな?」

「命が掛かってるんだ。俺は全力さ」

「ふーん」


クレイが再び距離を詰め、勇者狩りに切り掛かった。今度は一撃では引かず、複数のルートから、相手の様々な部位に切りかかる。しかし、奴は「うんうん」と相槌をうちながら、全てを簡単に避けてしまった。それだけでなく、下がりぎわに、クレイの左腕を鉤爪で切り裂いていった。

互いに、一度距離を取る。クレイはいそいそと、パーティから離れた距離の分、こちらに下がってきた。


「クレイさん!お怪我は大丈夫ですか!」

「全く問題無い。メリア、良い反応してくれて助かるぞ」

「最初に反応できていたのはたまたまかな」


勇者狩りは、後ろに控えているメリアが、前衛であるクレイとフログから離れた場所に位置しているのを確認した。


「君たちみたいなパーティはさぁ、混戦に弱いよね。飛び道具から攻撃をしかけるもんだから、仲間が側にいたらとたんに乱れる」

「よく喋るな」

「まぁまぁ、俺は確信したんだ。俺ほどの速さがあれば、一人一人簡単に殺せる。まずは」


勇者狩りは目に追えぬ速さで駆け抜け、メリアの側によった。


「君だ」

しかし、そこで動きを止める。


「はぁ?」


クレイの剣が、奴の脇腹に突き刺さっていた。クレイは剣を振り、奴の横腹からへそにかけて切り裂く。

動揺した勇者狩りは、姿勢を崩し気味に後ずさりした。そこで、フログの矢が奴の右ももに突き刺さる。

勇者狩りは仰向けに倒れ込んだ。


「弱いな、お前」


クレイは剣を下げたまま、動揺している勇者狩りに歩み寄った。

パターンBは、後衛のメリアやアルルを餌に相手を誘い込む作戦だ。後衛が狙われるため、当然、リスクが高い。だから、"格下"を相手する場合にのみ使われる。今回の場合、勇者狩りの速度が、クレイを下回ると判断したのであろう。だから、あえてクレイが緩く行動することで勇者狩りを油断させ、自ら間合いに入ってきたところを狙ったのだ。簡単なブラフだ。簡単だからこそ、クレイは呆れているのだった。


「お前、俺たちを舐めすぎだ。それでよくここまで死なずにこれたな」

「なっ…!隠していたのか…!その速さを!」

「当たり前だ」

「お前はただ速さに自信があるだけだ。ラテリアみたいに策があるわけでもない。ザコ狩りをして、自分の強さを誤解してる」

「実際は、相手の強さを測れない程度だ」

「は、初めから本気でやれば…!君なんか簡単に…!」

「勝負に二度はない」


クレイが勇者狩りの首を切り落とした。


「…楽な相手だったな」

「ねー!こんな簡単に引っかかってくれる相手いないよ!」

「自惚れ過ぎだ。この程度のスピード、取るに足らない。それよりも!さっき倒した魔物達の首を町まで持っていけば、報酬が貰えるんじゃないか!?」

「そうだな。討伐の募集をかけてるって話だったし、可能性はあるな」


アルルもクレイも、無邪気に話している。たった今、命がけの戦いをして、相手の首を落とした直後だと言うのに。

クレイは自惚れていたと言うが、実際、勇者狩りの速さは他にないモノだった。現に俺は、目で追うことすらできていない。しかし、クレイもフログも、そしてアルルも、あの速さについていけていたのだとすれば、俺は、大きく差をつけられてしまっている。前々から感じていたのだが、俺はもう、戦闘で役立てる気がしない。むしろ、邪魔になるのではないか。仮に俺がヘマをして、相手の人質にでもなれば、皆はどうなる?皆が、俺を好きでいてくれるのなら、きっと悪い方向に進む。俺は、悪い影響になる。そうなるぐらいなら、やはり俺は…

己の不出来さを噛み締めている時、メリアが再び提案をした。


「さすがに、休憩を取りませんか?」

ーーー

「はーーーーーっ!!」

フログが声混じりに息を漏らした。


「やっぱり、立ち止まると疲れが一気にくるな!年のせいか?」

「お前はまだ22だろう」


なんて、思わず声が出る。

「でもよぉ、クラウス。お前さんだって感じねぇか?昔に比べて、活力が落ちた、なんてよぉ」

「まだまだお若いですよ、お二人とも。そう考えるから疲れるのではないですか」

「姫さまの癖に根性論かよ…」

「関係ないです!」

「そうだそうだ!メリアは良い意味で庶民的になったんだぞ?この前だって…!む、虫を…!」

「ヒドイです!本当に!」


前の旅で、皆がメリアをいじり倒していたのを思い出した。森の中の村に着いた時、そこで出された虫入りの料理に皆が絶句していたのだが、クレイが悪いノリを始めた。俺も乗っかった。

《実は、俺たちも家で、虫を食べてたなぁ…》

《え!?む、虫を!?食べるんですか!?》

《あー、そうだそうだ。美味かったなぁ。お前さんもそう思うだろ?クラウス》

《はぁ?…あぁ、美味かったな。ちょうどこんな感じで、プリプリしてて美味かった。庶民的な味で、懐かしいな》

《エルフは普通に食べるけどね》

《ほら、前に言ってただろ?箱入り娘は卒業して、皆と足並みを揃えていきたいって。庶民メリアとしての第一歩だな!》

一時のノリで、ヒドイことをしたと思っている。面白かったが。メリアが意を決して食べた時、全員がニヤニヤしていた。そして、それに気づいたメリアが、クレイの口に虫を押し込もうとしたのは本当に愉快だった。結局その後、流石に度が過ぎたと思って、一人ずつ虫を食べた思い出だ。最後にはアルルが全てを平らげたが。


「ま!虫美味しかったでしょ?特にあの幼虫は、エルフの村でも取り合いになるんだから」

「まずいよ!」

「えー!」

「エルフと人間の舌を同じにするな!」

「不味いものを食べさせましたよね!?」

「俺たちも食べたんだからもういいだろう!」

「よくないです!」

「虫が美味しくないって先入観がいけないんだよ!」

「んなわけあるかー!」


また、始まった。隣にいたフログが、嬉しそうに息を漏らす。


「微笑ましいよなぁ」

「もう俺たちは大人なんだぞ。いつまでこんな幼稚な…」

「それがいいんだろ。大人になったって、変わらない関係がここにある。普通に生きてちゃ、まずないぜ」

「…お前、本当に年寄りみたいな感性になってきたな」

「まぁな。一応、俺たちが最年…長…?」


アルルを見やった。一番幼稚に騒いでいる。


「エルフはまた別だろう」

「あいつ、無駄に賢い子供みたいだよなぁ」

「エルフの中ではまだ子供なんじゃないか?」

「そうか、年が近いもんな」


ワーワー騒いでいる内に、メリアがクレイを蹴り飛ばした。


「フログ。俺は…邪魔じゃないか」

「お?急になんだ?」

「最近、よく考えるんだ。俺は、皆に迷惑しかかけていないんじゃないかって」

「んなこたぁねぇだろ」

「…そうか。急にこんなことを言ってすまない」

「まぁ、正直俺は、お前の選択次第だと思うぜ。気難しく考え過ぎることもねぇけど、お前さんの性格だしなぁ」

「苦しむぐらいなら、クラウスの楽な方に行きゃあいいんだよ。お前さん、考え過ぎだ。自分の思う通り生きればいい」


フログは、俺の心の全てを見透かしているようだ。俺もそれを理解している上で問いかけた。なにせ俺とフログは、このパーティの中で一番古い仲なのだから。互いの考えも性格も、他の仲間以上に知っている。だから、皆に打ち明け難い話は、フログに話すと決まっているのだ。


「てか、そろそろ出発しねぇか?目的地まではもう近いし、ゆっくり休むのはそこに着いてからでいい」

「そうだな」


共に立ち上がり、先ほどとは変わって楽しげに会話している三人に声を掛けた。

準備を終えたクレイが、皆に励ましの言葉を送る。


「さぁ、目的の町までは近いぞ!そこで物資を補給したら、後はルガリアを目指すだけだ!もう少しだけ頑張るぞ、みんな!」

『おー!!』



パーティが結束するこの瞬間は、この世の何にも例え難く尊い。俺はこの尊さを、どうか大切にしたい。しかし、このままでは、この尊さを俺が壊す気がして、怖い。だから、俺は、悩んでいる。このパーティにいるべきかを。

迷う俺を他所に、皆、歩き出した。少し遅れて俺も、皆の後に続く。その時、あんなにも眩しかった陽が、暖かみを帯びて地平線に埋まっていっていることに気がついた。


(どうか、まだ、皆を鮮明に照らしてほしい)


なんて、皆の伸びた影に隠れながら、陽を眺めた。

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