第八十四話
――ん……?
体の揺れと、話声に意識を失っていた廣谷は目を覚ました。目を開ければそこにはリブラの羽ではなく別のふわふわした何かが見えた。目を覚ましたばかりではっきりしない意識で、廣谷はふわふわとした何かを触った。
「わふ?」
『廣谷?』
「ん? ああ……廣谷様、おはようございます」
「シロ……スター? あれ……リブラは? 試練はどうなったんだ?」
ふわふわがシロの上であると気づいた廣谷は、視線を周囲に向けた。視界に映ったのはリブラの間ではなく通路。どうやら廣谷が意識を失っている間にリブラの元から移動してしまったらしい。試練のことが気になった廣谷は困惑した様子でスターに視線を向けた。
「リブラ様がいい加減出ていけ、主として認めるから。と言われましたのでリブラ様とはつい先ほど……七分前に別れました。今は中央まで戻っている最中です」
「……そうか……リブラには悪いことをしたな……色々と……」
「リブラ様は廣谷様のこと”は”気にされていませんでしたよ」
「き、気にしてないのか。寛大すぎじゃないか……?」
スターから語られた情報に廣谷はほっと一息ついてから、リブラの己自身に対する反応に驚いた。なお、スターが意味深な言い方をしたことに廣谷は気づかなかった。
一匹と一人(?)が歩く様子を廣谷は眺める。自分も歩かなくてはいけない――廣谷はそう思ったが、久々のシロの毛並みの感触をもう少しだけ味わいたくて、文句を言われまいと瞼を閉じる。
――また、会えてよかった。
口に出すことなく心の中でシロに向けて再会の言葉を反響させた。
「…………」
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廣谷が目覚める十二分前。
『ムーンスター、いつ話すの?』
「……真実を知ることは、いいことなのでしょうか」
『さあね。でも、彼は知っていた方がいいんじゃない? そうじゃなくても、ワタクシが頑張った意味がなくなるから話してほしいけどね』
シロの上に眠っている廣谷を乗せながらスターとリブラは話していた。だがその会話は本題を終えており、あとはただの雑談、確認の会話だった。リブラは視線を己に向けないスター対し一方的に話す。弱々しい声色を出しているスターに気づきながら。
『知らないより知る方がいい。知らなかったは通用しない。無知は罪である――真実から目を背けてはいけない。特に姫条廣谷という人間は』
「……ですが」
『真実を語る時期は貴方に一任します。――貴方も、目を背け続けてはいけない』
「…………」
「わぅぅ……わんん!?』
『えっと……えっと……わ、む、ムーンスター?! いいの? 話さなくて、いいの?』
「………………」
リブラの言葉にスターは何も言わなかった。そして顔を合わせることも、言葉を出すこともなくシロを連れて試練の間から出ていった。二人の間の空気の悪さに困った様子を見せるシロにも、スターは何も言わなかった。




