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第八十三話

「あ゛た゛ま゛い゛た゛い゛……」

『声やば』

「わぅ……」

『廣谷、大丈夫?』


 スターがシロを連れて来てから四時間が経過した。廣谷は目を覚まし、声も回復し発せるようにはなったが全快とはいかず、ずきずきと痛む頭を押さえていた。


――もう二度とあんな真似はしない……。


 過去の過ちで多数の人間を傷つけ、贖罪の為に多数の人間を能力で癒したが、想像より反動が大きく、頭痛吐き気眠気体の節々の痛み喉の痛みという風邪の症状の数々に廣谷は後悔と共に二の舞はしまいと決心した。


――あれ。


 決心したあと廣谷はふとあることに気づいた。——シロの言葉が分かる。


「シ゛ロ゛?」

「わふぅ?」

『なぁに廣谷?』


――やっぱり、言葉が分かる。……この階層に来てからモンスターの声が聞こえてばかりだ。


 確認の為にシロの名を読めば鳴き声と共に聞こえた日本語。この階層に落ちてからモンスターの言葉が理解出来るせいで慣れていたが、よくよく考えれば可笑しなことだなと廣谷は頭痛の中で思う。だがしかしこの階層で知ったダンジョンの真実たちに「こんなことで気にしたら負けでは?」と思う心が廣谷の中にはある。頭痛の中で生まれた二つの思考に廣谷は考え――後者の思考を優先し前者の『言葉が分かる』という考えを脳内から捨て去った。

 手を伸ばし廣谷はシロのふわふわな毛を触り気づく。——あれなんか、ふわふわじゃなくてごわごわになってない? と。シロの体に視線を向けごわごわになっている原因を知る。——白い毛並みに血がこびりついている。


「シ゛ロ……その、血、どうしたん、だ」

「わ、わうっ!!」

『な、なんでもないよ!!! 襲われて怪我したとか返り血とかそんなこと一つもないからね!!!』

『今アンタその血の理由全部言ったわよ』

「わ、わぅぅぅ!!!!????」

『し、しまったぁ!!!!????』


 誤魔化そうとしたつもりが素直な性格であるシロは、焦っているのを含め真実を口にした。途端リブラの冷静なツッコミが降りかかり、シロはわたわたと慌て、更に焦った様子を見せた。

 シロの体についた血が自分の怪我と返り血だと知った廣谷はずきずきと頭が痛むのを無視しシロに対し宣言する。


「『宣言、シロの……体は、五秒後に、癒える……』」

「わうっ!!?」

『廣谷!? なにしてるの!!??』


 宣言通り五秒後にシロの体は傷一つない姿へと戻った。途端廣谷の頭痛は更に激しくなり激痛に耐えるように目を閉じてしまった。


――いたい、なあ。


 疲労と熱と能力による反動によって廣谷の目から涙が零れ落ちた。——どうしてこんな目に? 一瞬そんな思考が廣谷の脳裏に過ったが、すぐに「身勝手な自分にようやく罰が当たった」と廣谷は苦痛の中で思う。自分の能力がいかに危険な物か、あの時の廣谷には完全に理解出来ていなかった。——人を傷つけるな。幼少期から親から言い聞かせられた言葉。自分でも「宣言」という能力が凄まじい代物であると理解はしていた。


――あー……もし、このまま外に出たとして皆僕を受け入れてくれるか? ……受け入れて貰えても、きっといつかはバレる。僕があの事件を起こしたことを。


 疲労か、熱か。嫌な考えが廣谷の頭にこびりつく。ろくでもない妄想が何度も脳裏をよぎり続ける。——いっそ、能力を使って姫条廣谷という存在をこの世から抹消(忘却)すればいいのでは? という思考まで芽生えてしまう。


――でも、本当にそれでいいのか?


 忘れさせればきっと廣谷の苦痛はなくなる。外の人々の苦痛はなくなるかもしれない。だが廣谷の心が「それだけはしてはいけない」と訴えかけている。 


――なんで僕だったんだ。


 脳内にリナとムーンスターの姿がこびりつく。後継者にダンジョンを託し殺されたであろうリナ。廣谷が試練の階に来なければ永遠に自我が芽生えなかったであろうダンジョンの人工知能(ムーンスター)


――どうして僕だったんだ。


 廣谷を次のダンジョンの主としてほぼ認めているムーンスター。殺し合いではなく、対話(一部対話できる状態ではなかったのを除き)をすることで廣谷を認めていく十二星座の者達。廣谷は思う。自分がここにいるのは何か意味があるのではないかと。自分が知らないだけで、自分はこのダンジョンと何か関わりがあるのかもしれない。


——思い込みすぎかもな。


 浮かんだ考えに廣谷は呆れた。それでも、そう思わざるを得ない。


――……とりあえず、体力を回復させないと、何も出来ない。


「……ねる……」

「わ、わぅぅ……」

『お、おやすみ……』


 体力を温存、回復する為廣谷はまた意識を夢の中へと落とした。

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