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第七十話

「む、ムーンスターダンジョン……? い、いやそれより僕のスライムが!? 何が起きてるんだ!!? なんなんだよ?!」


 ヴィルゴとの出会いから起こっているとてつもない衝撃の数々に廣谷は叫んだ。叫ぶしかなかった。

 今回の試練は一体このマネキュアとなんの関係があるのか

 ヴィルゴが何故命があると分かったのか。そして何故混ざっていると分かったのか。

 ムーンスターダンジョンは一体何なのか。スライムと同化して自我を得たとはどういう事か。

 自分自身がダンジョンを扱うのに最適な人材だと決めた訳は何なのか。


 廣谷は頭を抱えた。もう何もかもが自分の思考では想像つかない事ばかり起きて、脳は混乱に陥った。

 ムーンスターは頭を抱える廣谷を一目にし瞬きを数回して笑みを浮かべた。


「どうか心を落ち着かせてください。廣谷様が壊れてしまっては私が生を()()()()()()意味がなくなります」

()()()()()()? 変な言い方するわねぇ?』

「正直に申し上げますと私が何故一つの生命としてこうして生を得ている事に多大な疑問を抱いています。私はダンジョンのシステムを正常に稼働する為の魔法回路です。この世界では人工知能のようなもの、と言えば伝わるでしょうか? 試練の層より上層で人間がそのような事を話していました――――話が脱線しました、戻します。私は生を得た原因として廣谷様の存在が重要なのでは、と推測しました」

「……まて、待て、待て。一度、状況を、整理させろ」

「? 分かりました」


 未だ情報量が呑み込む事が出来ていないというのに更にそこからムーンスターからの情報が流れ込み廣谷は彼女の腕を掴んだ。

 ひんやりとした感触とぐにゃと凹んだ体に「スライムだから柔らかいのか」と思い至ってから情報の整理を行った。

 その間二人(?)は廣谷の返答を待ちながら軽い雑談を始めた。


『ねぇムーンスターちゃん、名前長いから略していいかしら?』

「はい。ムーンでも、スターでも、お好きな呼び方でどうぞ。ヴィルゴ様」

『じゃぁスターちゃんって呼ぶわね! あとあたしの事はオネエサマって呼んで頂戴?』

「オネエサマ様」

『違うわ、オネエサマよ。オネエサマ様なんて様が一つ多いわ』

「オネエサマ様ではないのですか。訂正します、オネエサマですね」

『そうよ~! スターちゃんあなたってとってもいい子ね!』


――話が気になって集中出来ない。


 なんだよその拘りは。と会話に意識が引っ張られ疲れた様子で目元と腰に手を当て、話に花を咲かせる女性陣(?)に冷めた目を向けた。


――はぁ。えぇと、まずこのダンジョンの名称がムーンスター……有名な方じゃなくてそのまま星座に関係するからって名付けだろ……で、何……魔法、回路? 異世界転生とかで聞く魔法の一種だよな、でも深く考えても魔法とか分からないし能力と関係あるかも分からないしこれは放置。それで俺が原因で命が芽生えたって、何?


「ムーンスター、聞きたい事がある」

「はい」

「どうして僕が原因で命が芽生えたって分かったんだ」


 スライムと何故、どうやって同化の事も聞きたかったが、廣谷は先に片付けやすいであろう命の事についてムーンスターに問いかけた。

 廣谷の問いに彼女はまるで人間のように腕に手を当て考え込むような素振りを見せた。だが廣谷からすればその仕草がまるで記録にある考慮の真似をしているだけに見えた。その証拠に彼女の顔は笑みを張り付けたままだった。

 そしてゆっくりとした動作で仕草をやめた彼女は淡々と言葉を紡いだ。


「試練の層に挑戦した方々は数えきれない程いました。ですが誰一人として私という存在が生まれる事はありませんでした。ですが廣谷様がここに訪れ……いえ、スライム様が幸運にも下敷きになって訪れた後、私の自我が存在している事に気づきました、ですので私は廣谷様が原因で生を得たのでは? と結論しました」

「それ、僕が原因ってよりかはスライムの方に原因があるんじゃないのか」

「それはありません。当スライム様はアイテムとして実装しております。ですのでスライム様が原因という事はありえません」


 ムーンスターはそう断言しながらヴィルゴに手を差し出した。


『何かしら?』

「試練を始めましょう。お話はその後しませんか?」

「……まぁ、それはいいけど……君——ヴィルゴオネエサマはいいのか?」

『ええ大丈夫よ、あたしは挑戦者ちゃんの好きな時に試練をするの。あなたがいいなら今すぐにでも始めるわ!』


 ヴィルゴはきゃっきゃっとフリルを揺らしながら廣谷に笑顔を浮かべた。鬼の笑顔は強烈で普通であれば恐怖を感じてしまうが、廣谷は何故かそう感じなかった。むしろ「嬉しそうだな」と和んだ。

 可愛い服を着て、可愛い仕草をして、そして自分自身に自信をもっているような行動全てが恐怖を打ち消していた。


「じゃあ、やろう」

『ふふっ、ここにおいで!』


 無意識のうちに笑みを作っていた廣谷は手招きをするヴィルゴの指示するマネキュアの前にある石に座った。

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