第六十九話
『アラァ! 本当に人間が来たわァ! いつぶりかしら!!!』
開いた扉の先、そこには巨体な体に、フリルのついた装飾を身に着けた――――鬼のようなモンスターがいた。
「!!!!!?」
『新しいマスターちゃんが出来たぁって分かっちゃってほんとぉ? って疑心暗鬼だったのに本当にいるなんて!!! ああんどうしようあたし今すっぴんなの、見ないでぇ』
「お、かま……」
『オネエサマと言いなさい! あたしは乙女なの、おかまなんて可愛くない呼び名より可愛くて頼りになるオネエサマって呼んで頂戴!』
「あ、ああ……わ、悪い……ヴィルゴ、オネエさま……?」
『いい子ねぇ!! 気に入ったわ! さ、さ、こちらにおいで。オネエサマが色々教えてあげるわ。大丈夫! 変な事はしないわ!』
「それで行く奴いないだろ……」
ヴィルゴは裏声を出しながら空間の奥にあるぼろぼろの色褪せたカーテンで区切られた先に手招きをする。
廣谷はドン引きしヴィルゴの提案に首を振り後ずさる。
強面な顔つきに、鬼のような角が生えた姿はまさに物語でよく見る鬼そのものなのだが、その巨体な見た目から発される声、口調、そして性格に廣谷は度肝を抜かれていた。
『本当よぉ!? 変な事しないわぁ。あたしの考えた試練に付き合ってもらうだけよ? あたし達十二星座のルールだもの。人間が来て、ダンジョンの主として認められていたらあたし達が本当に相応しいか調べる。それだけよぉ?』
「……なあ、僕がダンジョンのマスターに認められたって分かるんだ?」
『さぁ? 考えた事はなかったわねぇ。そういうものとしか言えないわぁ~リナちゃんが生前何かしてたのかもしれないわねぇ~』
――あいつ、どこまで考えてやってたんだ。本当に元日本人なのか……? やってる事が規格外だけど……それとも、あいつ自身の能力でこれらが出来ただけなのか?
ヴィルゴの発言に廣谷は敵意がないとまだ決まった訳ではないのについリナの事について考えてしまっていた。
ヴィルゴにはそれが気に食わないの不服そうに顔を歪ませた。
『んもぉ! 乙女が目の前にいるのに他の事を考えないで! ほら、はーやーくこっちに来なさい! 試練ができないでしょ!』
「え。あ、悪い……」
――凄く、やりづらい。
ヴィルゴの見た目とのギャップに廣谷のやる気は削られる。
だが何もせずここに居座るのは今よりもっと疲れると分かっているので渋々カーテンの中へと入った。
中にあったのは大量にあるマネキュアの道具。廣谷はこれと試練何が関係するのか分からず首を傾げた。
――……なんだこれ。
『んねぇ、あなた。さっきから気になってたんだけどぉその王冠似合ってるわねぇ! まるで外で見た王子様って感じだわ〜』
「これは、元はこいつの物なんだ。何故か僕の頭に乗せてきた」
スライムの王冠が気になったのか、ヴィルゴはネイルが剥がれかけた爪でつんつんと王冠を小突いた。
それに廣谷は王冠を落ちないように困り顔で話すと、ヴィルゴは視線を下に落とし廣谷についてきていたスライムを小突き出す。ぷるんっぷるんっと突いた衝撃で波紋が生まれるスライムを「面白い事になってる……」と笑いそうになる廣谷に衝撃的な言葉が飛び込んできた。
『へぇ〜スライムちゃんってば、もしかしてマスターちゃんを自慢したかったのかしらぁ?』
「自慢? こいつはただのアイテムで……」
『えぇ〜? 嘘ぉ〜この子生きてるわよ〜?』
「……何?」
軽口を叩くように耳を疑う発言に廣谷は表情を消しヴィルゴを見た。ヴィルゴは廣谷に顔を向けることなくこてんと首を傾げた。
『でもなぁんか可笑しいわねぇ。この子何かと混ざってるの? なぁんか知ってるような物が混ざってると思うのだけど……』
「混ざってる?」
『うーーんうーーん……あぁ! わかった! ダンジョンちゃんそのものが混ざってるのねスライムちゃん!!』
「ダンジョンそのものが、混ざってるだって?」
『あら? でもダンジョンちゃんに意思も自我もあるなんてあたし聞いてないわ……』
ヴィルゴは自身で答えを出しておきながら何故そんな事を言ったのだろう? と首を傾げた。
「君は、一体……」
対する廣谷はスライムに視線を向け、先程と同じ言葉を問いかけた。
それに答えるかのように、スライムが突然体を速く震わせ何かの物体へと変化し始めた。
「なっ!!?」
『あ、あらぁ!?』
驚く二人を無視しスライムは人の形を取った。青い人の形をしたスライムは顔部分をグニャグニャと変形させ――――人の顔を作り出し、笑った。
「初めまして。私、リア様が創設したムーンスターダンジョンと申します。この度姫条廣谷様のスライム様と同化する形でこの世に自我という生を得ました。この度廣谷様の能力が私を扱うのに最適な人材と認定しました。どうか、十二星座の試練を無事に終わらせ私のマスターになってください」
ニコリと長々と話したムーンスターは深々とお辞儀をし、また笑みを廣谷へ向けたのだった。
「え……?」
『え…………?』
――え?




