第六十八話
中方の部屋に戻って来た廣谷はⅥの道へ近づく。
特に変なものが見せられる訳でも異変もなかったのでそのまま通路の先を進んだ。
廣谷は道中、先程のビデオレター擬きのリナの言葉を思い返す。
「別世界にダンジョン全てを転移させる……そんな事が可能なのか? ……ダンジョンがこの世界にあるのが転移成功の証明か。どういう力を使えばこんな事が出来るんだ?」
考えるがいくら考えた所で明確にこうであろう。と確信できる物が見つからず廣谷は思考を別の事へ切り替えた。
「レオにゃんってあいつ言ってたけど、あいつ猫科だったのか。…………ああ駄目だこれ(十二星座の名とモンスターの関連性)は突き詰めても何も得られない気がする」
切り替えはしたが、それも確信出来ないと理解したので廣谷はその思考を隅に追いやった。
そこでふと、隣でぴょんぴょん跳ねているスライムに廣谷の視線が向いた。
「君は何者なんだ? 守ってくれた時といい、この階に来てから君は自我を持ったように動いてる。君は、ただのマスコットアイテムじゃないのか?」
廣谷の口から疑念が吐き出される。
疑う眼差しにスライムは体を震わせ、意思のあるかのように廣谷を見た。
勘違いと思うには明らかに顔を(ないけれど)上げたような素振りを見せていた。
スライムは何も答えず。ただ体を震わせ、王冠に青い手を伸ばし廣谷に見せた。
「……なに?」
スライムの意図が読めない廣谷は困惑に満ちた表情をする。
――生きてるみたいだ。でも、今まではこんな事はなかったのに。なんでここに来てから…………。
スライムは王冠を廣谷に見せ続け、何か不満を抱いたのか突然勢いよく跳ねた。
「うわっ!!!? …………え」
驚く廣谷にスライムは持っていた王冠を彼の頭に被せた。小さな王冠が廣谷の頭に乗り、廣谷は王冠に手を触れ混乱の声を漏らした。
対するスライムは満足げに体を震わせ、体から生やした青い手を器用にぱち、ぱちと叩いた。
「え、え? あ、りがとう?」
ぽかんと理解出来ない中、感謝の言葉を口にしていた。
スライムは廣谷の様子に満足したのかぴょんぴょん跳ねながら通路の先へと進んでいった。
「あ、まて、先に行くな!」
慌てて廣谷はスライムを追いかけた。王冠を落とさないよう手で押さえながら。
そうして先に進むと途中から壁と床がピンク色やオレンジ色などの可愛らしい明るい色合いと装飾に変わり出した。
この通路だけを見ると姫様が住んでいそうな雰囲気を微かに感じ取る事ができる程目に見えてダンジョンの通路に不釣り合いだった。
そして床がカーペットのような触り心地に変化しますますダンジョンに似合わない場所に変貌していく。
進む彼らの先にいつもの試練の扉が見え始めた。
可愛らしく装飾されたダンジョンに似合わない扉を廣谷は迷いを見せず扉を開けた――。




