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第六十六話

 廣谷が獅子座の扉を開いた瞬間、目にもとまらぬ速さで何かが廣谷に向かって振り下ろされかけていた。

 え。と異常に気づけはしたが、それはもう避ける事も、能力を使う事も出来ないぐらい目の前まで接近していた。

 獣の手だ。とかろうじて理解は出来たが、咄嗟の事で動けずただ呆然と迫りくるかぎ爪を見ているだけだった。

 これは今度こそ終わった。と全てがスローモーションと化した光景の中冷静に終わりを悟った廣谷の目の前を何かが横切った。


「…………え、え? あっ、『宣言。この空間の生物は僕を認識できない』」


 かぎ爪はその”何か”を切り裂き、べちゃっと水のような音と金属音が廣谷の耳に入った。それと共に廣谷の視界は正常に動き出し、廣谷は急いで自身に能力をかける。

 ほぼ一日中能力を使っていた廣谷はとてつもない喉の痛みを覚えた。

 ゴホッと咳払いし廣谷の目の前を横切った”何か”を見た。

 水っぽい物体になりつつ傍に落ちた王冠を被ろうと体を震わせるそれは、マスコットアイテムでありこの階層に落ちた廣谷を助けたスライムだった。


「あいつが、僕を助けたのか?」


 マスコットアイテムとしてしか記載がなかったスライム。永久に使役が出来ると記載はあったが、廣谷の記憶が正しければあのスライムが意思を持っている様子はなかった。

 この階層に落ちた時も、たまたま下敷きになっただけだろうと納得した。

 けれど――こればかりは廣谷は何もしていない。した覚えはなかった。


「なんで……」


 疑問が廣谷の口から漏れる。視界に映るスライムは体を形成しながらゆっくりと、まるで大切な物を扱うかのように地面に落ちていた王冠を身に着けた。

 君も、君もあの女性と何か関係があるのか? と見せられた過去が廣谷の脳裏に映った。そんな疑念が浮かんでいる廣谷の耳に轟音が鳴り響いた。


『許すものか、許すものか、認めぬものか!!!! 何故他の十二星はこんな下らぬ試練を受け入れる!!? 何故、何故あの方の痕跡を無くす真似をする!!? 俺は認めぬ、認めぬぞおおおお!!!』


「っうっる、さい! アレが、アレがレオ(獅子座)か!!」


 とてつもない轟音に廣谷は耳を塞ぐ、そして音の発生源へと目を向けるとそこには燃え盛る青い炎を纏ったモンスターがいた。

 炎の形は獣に近く、揺らめく炎の隙間から本体らしき姿は見えた。


――なんで、暑くないんだ。


 レオから溢れ出る炎に廣谷は疑念を抱く。巨体の体から猛炎が放たれているというのに廣谷の体感温度は部屋に入る前と全く変わっていなかった。

 

『出てこい侵入者! 殺してやる、次こそは殺してやる!!!! 許さぬ、許してなるものか!!! 新たな主などと、そんなものっ――許してなるものか!!!』


 レオは雄叫びを上げ続ける。悲しみが混じっているような雄叫びに廣谷は顔を顰めた。


「げほっ、子離れっていうなら自立出来るようにしろ! 勝手に育児放棄して、他に回すんじゃない!」


 もう何処にも存在しないダンジョンマスターに廣谷は悪態をついた。

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