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第四十八話

 ボス部屋から分かれ道まで戻った廣谷は少し顔色を悪くした状態で、最初の看板があった場所まで向かう。

 先程までいたボス部屋には先に続く道はなく、その部屋だけだった為廣谷は引き返した。あの部屋でずっといるのはおかしくなりそうだったため、気持ちを落ち着かせてから部屋を探索したあと戻った。

 シロは心配そうに廣谷を見つめ時折話しかけるが、廣谷は疲れで曖昧に返事した。


「わんっ」

『廣谷、戻った方がいいんじゃない? 大丈夫?』

「さっさとこのエリアを抜けたいから戻らない……戦えると思うから大丈夫」


 廣谷は疲れた様子でそう言って先に進む。

 シロはその様子を心配そうに見つめるが、これ以上は言っても無駄かなぁ。と思いそれ以上何も言わなかった。

 先に進むと影のモンスターが現れる。


「ああ、いやだ。本当に……楽しめないだろ」


 廣谷はそれに刀を抜いてモンスターに斬りかかる。モンスターの奇襲に対しても廣谷はすぐに対処して刀を何度も突き刺す。

 そしてドロップした小銭を拾うことなく先に進む。

 斬って、斬って、斬って。廣谷は先に進む。

 シロが攻撃する隙も作らず廣谷は先程の記憶を忘れるようにがむしゃらにモンスターを斬り捨てる。

 

「ただ、楽しく、探索したかっただけなのに!! 過ごしたかっただけなのに! なんでこんな思いをしなきゃいけないんだ!!」


 廣谷は怒りのままに先に進む。

 最初は楽しく探索をして夢中で楽しんでいたのに、段々と可笑しくなっていく。ただ、楽しく過ごしたかっただけなのに。廣谷の精神は少しずつ擦り切れ始めていた。

 外に出ていない閉鎖空間で過ごしていた為、気持ちは楽だったがストレスが気づかないうちに溜まっていた。

 そうして今回のボス部屋でそれが爆発した。

 面倒事を避けたいからという理由で面倒なリスナーを退散させたり、痛い目を見させたいという考えでやった行動が何かしらの出来事として広まっていく。

 最初は一度やってみようと思った配信も、今はやってすらいない。タイツクに呟く事も、掲示板を見る事もなくなっていった。

 

「なんで、なんで、なんで!!!」


 廣谷は叫ぶ。そしてモンスターを斬り捨てていく。

 シロと、スライムじゃ廣谷のストレスを緩和できなかった。それ以上に負荷がのしかかる。

 廣谷には今、癒しがほしかった。この状況を変えるものがほしかった。

 

「――わん!!!!」

『廣谷! 危ないっ!!!』

「――は?」


 シロの焦った声が聞こえたが間に合わなかった。

 廣谷の足は無を踏んでいた。


「っなんで!?」


 廣谷は落とし穴に落ちる。

 上からはシロの声が遠ざかっていく。落下は止まらない。このまま地面に当たれば、死んでしまう。落下の勢いが増していく。

 廣谷は上を見あげ、何の感情も乗っていた声で呟いた。


「ああ、これは、死んだな」

 

 

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