表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/5

弱者になれた高ぶり

突然始めて、面白くなかったら更新しないかもしれません。

そんな気楽さ、つらつら書きました。


プロットの詰めの甘さは激アマですが、

楽しみながら書いたので気楽に読んでいただけたら嬉しいです。

●聖央ワイネン国/城下町(深夜)



 ――はは、これが弱者か。


「なんだよっ! この!」

「気持ち悪いんだよっ! ゴミが!」


 ――ああ、なんと甘美だ。


 生まれて初めての罵詈雑言に、どうしても微笑みが漏れる。

 いや、それは微笑みと呼んでいいものだろうか。


 見解の違いとして、もしかしたらそれは自嘲の笑みともとれる。

 自身の、彼の、今の身体の変化に対して、劣等感に苛まれているのか。

 様々な感情が押し寄せ、彼の頬を緩ませる。

 

 ――戴冠式の時以来か、こんなにも感極まったことなど。


 まだ名もわからない感情が、沸々と溢れてくる。


「そっちからぶつかっておいて、謝りもしねぇのかよ! あぁ!?」

「フツーごめんなさいって頭下げんだろ? ママから礼儀も教わってないのか!?」


 男達の怒号はまだ収まらず、外套の上から腹に1発の蹴り。


「小綺麗なマント着ちゃってよ? どこ行くつもりだったんだぁ?」


 そして右肩に2発。矢継ぎ早に腰骨を踏みしめられる。


 彼を囲った、3人の男達。

 闇夜で覆い隠れた路地裏では、月光が届かず。

 細い石造りの道を大柄な男が3人で道をふさいでいた。

 

 煤けた服、手入れもされていない髭や灰色の髪。

 どこからか調達した酒瓶を片手に、呂律の回らない唇。


 おそらくこの周辺の鉱山夫だろう。

 口調や容姿をさておき、その屈強ないで立ちがそれを物語っていた。


「ほれ、ほれ!」

「こちとら楽しく酒飲んでたってのに、邪魔しやがって!」


 それはもう、すれ違いで肩がぶつかっただけの因縁とは違った。

 単なる憂さ晴らし、それ以上でもそれ以外でもない。


 ほとんど素足に近い布製の靴が、何度も振り子のように宙から彼に吸い込まれていく。

 酔っ払いの蹴りとはいえ、腹に刺さると軽く浮く。

 

「――っ……っ……っ!」


 男達に囲まれ、獲物となった彼。

 路地に横たわり、身体を丸め、膝を畳んで耐えている。


 暗い路地よりも浮彫になる、黒々とした外套。

 フードを被り、顔も陰になり伺うこともできない。


「ほらほら! なんかいってみろよ!」

「金目のもんでも出せば! 許してやってもいい、ぜ!」


 男達の仕打ちに呼応して、彼の口から吐しゃ物が出た。

 赤くないから血ではない。

  

「うぇ! きったね!」

「てめえ! ふざけんな!」


 ざりっとした、吐しゃ物が石造の床にこぼれる。

 ねばっとした粘着性もありつつ、1人の男の足元にかかった。


 妙に鼻をつく、異臭。

 酔っぱらって嗅覚がいかれたのか。

 

 五感を刺激され、気に障ったのだろう。

 吐しゃ物をかけられた男が彼の顔面に蹴りを入れた。  

  

「……は?」

 

 素っ頓狂な男の声。

 それもそのはず。

 男が自身の右足に感じた触感が異様だったのだ。


 ぬぶっ、と。

 

 鼻がつぶれた音じゃない。

 確実に顔面を――フードの開き


 右足が、底なし沼にはまったように動かない。

 あまつさえ体勢を崩し尻もちをついてしまう始末。


 おいおいまだ酔ってんのかよ、と仲間の男が茶々を入れる。

 が、尻もちをついた仲間のひきつった顔に不審がった。

 触発された他の男達も、彼をいたぶることを止めてしまう。


「……もう終わりか?」


 と、外套が少したゆんで、その中から腕が伸びた。

 

 べちゃ。

 また似つかわしくない異音が路地に響く。


 それは彼の腕が――泥のように蕩けた棒状に見えるもの――男の足を掴んだ音だった。

 漆黒の外套よりも色が希薄で、石造りの灰色の床によりも濃紺なそれ。

 温めたばかりのチーズが、伸びて滴る。

 

 ぺちゃ、と。

 また、べちゃり。


「なあ……もう少し弱者をいたぶる様をワタシに見せてくれよ……」 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 転生モノを見ることが多いですが弱体化するのは聞かないかもです。 [一言] 続いていたらまた見るかもです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ