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人生最高のドヤ顔をしたお話(今日の話は重たい内容です)

作者: ソウ マチ

私はガン家系の者です。ガンを発症したり死亡した身内が複数人います。闘病している姿をそばで見ていたので、あの病気の怖さを少しは知っている立場です。


そんな私が成長して大人になって、二度目の結婚をしました(わたしは×2)。無口な夫と意思疎通をするのは思いのほか難しく、彼が何を考えているのかわからず悩むことが多かった。いまならわかる。夫はなんにも考えてなかった(苦笑)。彼の思いを推し量ろうと無口な彼にあれこれ聞いて、何も言ってくれないと懊悩おうのうするのは時間の無駄だった(苦笑)。あるがままの彼を受け容れて、おもしろおかしく暮らせばよかった。彼は会社の社長でお金には困っていなかったし、わたしのしたいことをすればいいと大らかに受け止めてくれていたから。


そんな彼が急な仕事で出張することになりました。行き先を聞いた私は眉をひそめた。


ソウ:危ないんじゃないの?

夫 :気にするな。

ソウ:でも……。

夫 :大したことじゃない。国が大丈夫って言ってるんだ。大丈夫に決まっている。


「気にするな」「大したことじゃない」この二つは彼の口グセでした。どんな事でも小さなことだと考えている。見方によっては大らかと言えますけれど、神経質な私にとっては雑で考えなしな発言のように聞こえることが多々ありました。

私はしばらく考えて言いました。


ソウ:その出張、私も行く。

彼 :え?

ソウ:あなた一人じゃ行かせない。妻の私もいっしょに行きます。


彼は出張なので会社のお金で、私は旅行なので家計費でいっしょに行くことになりました。普通の会社なら妻が出張に同行するなんてできないと思いますけれど、彼が社長なので可能だった。どさくさまぎれで私の旅行代も会社の経費にできるのですけれど、そういうのはキライなので家計費から支出した。


旅行とは言っても出張なので、遊ぶ時間はほとんどありませんでした。それに遊ぶ場所もなかった。長距離の車移動を夫と私が交代で運転して、私が助手席に座っている時は昏々と眠っていた。車窓から見える眺めは楽しいものではなかったし、楽しんではいけない気がしたから。現地に滞在していたのは2日です。私は風に吹かれながら自分がここへ来たことは間違いだったのではなかろうか、でも夫を一人でやることはできなかったと思い悩み「私が来たかったから、来たんだ。間違いじゃない」最後はそう確信しました。


無事に仕事を終えてふたたび長距離の移動をして帰宅して数日後、政府が発表しました。福島原発から放射能が漏れていたことを。ニュースを見て驚愕する夫。


夫 :放射能が……。

ソウ:だろ?(← 最高のドヤ顔)

夫 :俺たちは……福島で被曝したのか?

ソウ:そうだよ。だから言ったでしょ? 危ないって。絶対に漏れてると思ったもん。

夫 :マチは? なんでマチは被曝すると知ってていっしょに来たんだ?

ソウ:だって夫婦だもん。あなたが行くって言うなら、わたしも行くよ。


私と夫が行ったのは、地震直後の福島県でした。ニュースで原子力発電所が爆発したと報じられましたけれど、その時点で政府は放射能漏れは無いと発表していた。夫はそのニュースを鵜呑みにしていましたが、私は嘘だと確信していた。そして放射能を浴びるとわかったうえで夫に同行した。結果、二人とも被曝した。

私たちが車窓から見ていたのは、地震で倒壊した目を覆いたくなるような光景だったのです。


私の家系がガン家系なのは、第二次世界大戦で長崎に投下された原子力爆弾に被爆した身内がいるからです。身内たちは被爆者手帳を持っていました。そしてガンで亡くなりました。放射能の怖さは知っています。政府が福島原発から放射能は漏れていないと発表した時、私は思わず笑いました。目に見えない放射能は、そんな甘いもんじゃないって。ww そしてやっぱり漏れてた。


これをお読みのあなたは思うかもしれません。無理にでも夫の出張を止めればよかったのに、と。わたしも思わんでもありませんでした。夫を足止めして数日たてば本当のことがわかるだろうと思っていましたし、放射能漏れがわかれば夫も考え直すだろうと。


でも……。夫の出張の目的って、福島のライフラインの復旧のためだったのですよ。下水管の復旧。いまにもまた地震が起こるかもしれないという瞬間、地下何十mという場所で復旧工事をしている方たちがいたのです。地震がくれば地下に閉じ込められて命を失う可能性だってある場所で、懸命に働いている方たちがいたのです。そして夫はその工事に必要な物資を運ぶため福島へ行った。そんな事情を知っているのに、夫を止めるのもねぇ……。自分の夫さえ無事ならいいんか?って話ですよ。


そういうワケで何の役にも立たない私が出しゃばって同行したのです。夫が被曝するかもしらんが、私も被曝したる……! 一人にはさせん!


結果はビンゴで二人とも被曝しました(苦笑)。やっぱりな~!! そうだと思ったよ~!ww


え? なんでそんなバカなことをしたか、ですか? いっしょに行かなければ被曝しなかったのに、ですか?? ガンの怖さを知っているのに、あえてガンになるリスクをおかさなくても……ですか? そうですね。ガンで死ぬのはイヤですね。ガンで死ぬ身内を横で見ていましたから、ガンで死ぬのは怖いです。


でもね………………、





















「病めるときも健やかなる時も」って覚悟を決めて結婚した夫ですから、自分の命と同じ程度には夫を愛していたのですよ♡ 愛する夫が死ぬかもしれんなら、いっしょに死ぬのは構わん!! 一人にはさせん!


ここで終わればめっちゃ良い話なのですけれど、数年後に離婚しちゃうんですよね……。

しかも離婚の理由は私サイドの「なんとなく」っていうワケわからん理由で……。

でも夫を愛した自分の気持ちは本物ですし、いっしょに被曝した後悔はしていません!

別れた夫に今も敬愛の念を抱いていますし、彼が幸せになるよういつでも祈っています☆


そしてそれと同じくらい、あなたの幸せも祈っています☆

どうぞ心安らかで良い一日をお過ごしください。


地震で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、一日も早い復興もお祈りしています。そしてできることがあれば、いつでもお手伝いさせていただきます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] あの日、あの時に、福島に来てくれたことに感謝しかありません! 誤字?全く気になりません。 [気になる点] 仕事のために福島沿岸から避難も出来ず、当時はここで死ぬんだな…と思いながら、一ヶ月…
[一言]  離れた土地のひとのことでも、隣人のことでも、他人事にしてはいけないのでしょうね。難しいですが。
[良い点] 初めまして。 元旦那様への愛情の深さにジーンと来ました。 危険な場所で被災地のために働いてくださっている方々への敬意も感じ、ソウ様を愉快で面白い方だと安心して思えるのは、こうした人として大…
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