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白騎士と刀鍛冶師

「何とも情けない姿だ。クザ」

「うる……せぇ。俺はまだやれる」


 フラフラと立ち上がるクザが、地上に降り立った騎士を睨み付ける。


「適正にもなりきれず、魔獣に制御を奪われた分際で」


 ヤクモ達に背を向けている状態ですら隙がない。一歩でも──いや。少しでも殺意を向ければ、首を斬り落とされてしまう。そんな感覚に陥ってしまう程の、雰囲気の中でテメリオイはヤクモに小声で語りかけた。


「奴らが揉めてる、この気に乗じて戦線を離脱する」

「だけど……これだけの人数」

「……走れるか?シリウス達と合流して、全員で立ち向かえば、あるいは」

「テメリオイさん」

「少年。これ以上は野暮ってもんじゃぞ」


 そうか。そうだった。スコルピウスのリーダーであり、三種族代表の一人。誰よりも戦況を理解している筈だ。


 白騎士に場を呑まれつつありながらも、きっと誰よりも冷静な筈だ。この場の全員が生きて合流出来るだなんて、鼻から思ってもいないのだろう。居ないからこそ、自分の出した答えを責めるかのように、剣を掴んだ拳を強めて腕を震わせているに違いない。


 表情も声色も、なんら変わらないとて。テメリオイも一人の人間なのだ。


「分かりました。全力で駆けましょう」

「よし」


 テメリオイは、静かに。そして大きく息を吸い、決死の怒号を轟かせた。


「全員散開!!シリウス達と合流するぞ!!」


 相手の異様さを認識してたであろう、戦意を削がれた仲間達の瞳には希望が宿る。皆が各々「退避」と、叫ぶ

 その瞬間。ヤクモの背筋には電流が走り、息が止まる。


「逃がすはずがないだろ?お前達は此処で終わるんだよ」


 周囲の魔獣は、ヤクモの一撃で大半以上が消し炭となっている。魔獣と融合していたであろうクザも、あの状況では戦力にならない。つまり危険視すべき相手は、白騎士たった一人だ。正直言って、この場にいる全員を倒す事なんて現実的に有り得ない──筈だ(・・)


 ──だが。だが、何故だろうか。彼の言葉は、一切不可能(それ)を感じさせない。この内から来る嫌な予感と悪寒。思い過ごし思い込み、あるいは被害妄想であってほしい。


「……テメリオイさん」


 刀を強く握るヤクモは、相手の動作に対応出来るように足を止め様子を伺う。前衛職は魔法が使えない。それに、腰にぶら下げている剣は見るからに魔剣でもない。


「喰いつくせ魑魅魍魎……悪鬼羅刹」


 黒い剣を横一閃に振るう。空を斬り、生暖かい風が髪を撫でる。しかし、ただそれだけだ。それだけの事ならヤクモにだって出来る。やはりただの思い違いか。と、安堵の息を漏らした矢先、周囲では仲間達が次々に倒れ始めた。


「な、なんなんだよこれ!?」

「ふむ。こんなもんか。真なる戦士は(・・・・・・)

「おい!こいつらは俺の敵だ!余計な事をッ……!?」

「お前はもう敗北してる。弱者に用はない」

「ゴフッ」


 クザは白騎士に腹部を貫かれ、そのまま躊躇いもなく引き裂かれた。噴き出た血を全身で浴びながら、白騎士はヤクモ達の方をもう一度向いた。


「お前……クザさんの味方じゃねえのかよ!?」

「味方?ククク……クハハハハハ!!コイツはただの駒に過ぎんよ」


 ──駒。


「人は駒なんかじゃない。道具なんかじゃない」

「弱者は強者が利用してこそ、価値が生まれる」

「取り消せ……」

「取り消す?クハハ。事実を言って何が悪い。現にコイツは、自分の家族を人質に取られていた。強ければ、そんな事だってされずにすんでいた。そーだろ?しまいにゃあ、守ってた家すらも」


 鼻で笑うような、小馬鹿にするような態度をとる。それは、この場に倒れ安否不明の人間を気にもしていないから出来る事だろう。


 沸点の限界に近いヤクモは、けれど冷静に務めた。全ては生まれるかも(・・)しれない隙を見つけ出すために。


「家族……家?」

「クザには家族がいたんだよ。家はなあ……なにやら、借金を抱えた子供の家だっけか。馬鹿だよ、本当に。恩人だかなんだかしらねぇが」

「クザさんが、俺の家を?」


 だが、何でだ。そんな素振り一つも──


 いや、違う。クザはキツく言ってきたとしても、何だかんだ待ってくれたり、ご飯をご馳走してくれたりしていた。だからこそ、あの日の行動が信じられなかったのだ。


「だが見てみろよ」と、白騎士はクザの頭を踏みつける。


「離せよ、その足を」

「は?敵に感情移入してるのか?ガキ」

「離せ」

「落ち着くのじゃ、少年」

「そうだ、坊主。リュカの言う通りだ。奴の口車にのるんじゃねぇ」


 分かってる。十分に理解している。だけど──


「俺にも退けない時がある」


 いつもは温和な優しい瞳は、普段を忘れていた。鋭い眼光は殺意を帯びたまま白騎士を穿ち。両手には今までにないほど力が入る。


 ヤクモは許せなかった。仲間を利用する事しか考えてない言動を。身辺をしりながらも、助けようとはせず。事もあろうに嘲笑い、下卑た眼をを向ける白騎士を。


 あの一振で、これだけの人数を戦闘不能にする実力。間違いなく、クザより遥かに強い。いや、ヤクモが今まで出会ってきた中で恐らく最強(・・)


「……分かったよ。じゃあ、三人で」

「いや。テメリオイさん。テメリオイさんは、自分の成すべきことを成してください」

「馬鹿か!お前一人で、どうの出来る相手じゃ」

「できる限り多くの命を守るのがテメリオイさんの役目。違いますか?」

「……そうだが」

「なら、皆の退避指示をお願いします。奴は俺が絶対にッ!!」


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