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剣豪と黒い化物

 前衛職なら即座に判断できる筈の間合いが、奴を目の前にした時、まったくそれが(・・・)出来ずにいた。あの尻尾は伸縮するのかしないのか。その爪はその牙は。不明瞭な怪物に抱く恐れは、当たり前のように警戒を厳にさせた。


 息をのむのと同時に顎からは汗が滴り落ちる。切迫した緊張感はテメリオイが微かに感じていた胸の痛みを忘れさせた。


「ぎゅげょががががか?」


 黒くモヤのかかったようなソレは、全てを曖昧不確かにしてしまう程の歪みを漂わせている。


 果たして物理攻撃が効くのか。不安抱くテメリオイが、魔法士による遠距離攻撃を指示するのは必然だった。


「魔法士部隊!遠慮なくぶっぱなせ!!」


 命中率を下げた全力の攻撃。人族とエルフによる高威力の魔法が乱雑に着弾し、黒い影諸共、周りに爆煙をのぼらせる。


 視界が徐々に晴れ、敵を目視に至るその時──テメリオイは起こった現象を瞬時に理解し、そして身震いを一つした。


「コイツ……魔獣達を盾に使いやがった」


 肉片と化した魔獣を払い、心痛む様子なく屍を踏みつける。


「大将!!どうすんだ!!」


 周りは魔獣や亜種に囲まれてる。元より承知していた場面だが、今の出来事は三種族連合の士気を低下させるに足るものだった。


 擦り傷一つでも出来ていれば、まだ勝機はあると鼓舞しただろうが、魔獣さえも盾にする知能と非情さを兼ね備えた化物に抱くのは勝機ではなく恐怖。


 とは言え、元より黒い化物と戦うのは自分しかいないと覚悟は決めていた。故の命を力強く吠える。


「あいつの相手は俺が務める!!おめぇらは、周りの魔獣達を撃破しろ!!回復アイテムや武器を惜しむな。全力で奴らをぶっとばせ」

「よ、よし!やってやる!まずは隊長が切り込む道をつくるぞ!!」


 ──それでいい。


 テメリオイは固有スキル【剣豪】を保持している。【剣聖】にはかなり(・・・)劣るが、剣聖をなしにすれば世界で五本の指には入る強力なレアスキル。

【剣豪】

 ・短剣・長剣、種類問わずの武技を取得可能。

 ・同時に二つの武技を使用する事が出来る。


 アヴァロンにおいて剣術で勝るものはいない。即ち、テメリオイが万が一、負ける事があるならば──それは、アヴァロンの壊滅を意味しているのだ。


「頼むぜ。俺も最初から出し惜しみは無しだ」


 両手で柄を握り大剣に闘気を込め、言葉を紡ぐ。


「英剣・テンペスト。我が声に応え真価を見せろ」


 体に流れる精気が吸われるような脱力感が襲った直後、大剣は青白く発光する。


「……これが英剣・テンペストの真なる姿……」

「俺も初めて見るが、まさか二刀流だったなんて」

「しかも、あれはなんだ?風……?が、剣を纏ってるのか?」

「違う。あれは闘気だ」

「すげぇ……これなら、勝てるぞ」


 仲間の士気が上がるのを熱気にで感じたテメリオイは、呼吸を整える。


 荒れ狂った風の如く剣を纏う闘気は、物理的な意味をテンペストの力で持つ。

 英剣(えいけん)・テンペスト。

 精気を代償に真価を発揮する。効果により闘気は鋭い風のような斬れ味を持つ。これはテメリオイがもつスキル・剣豪ととても相性がいい。


「じゃあ、行くぜ。武技・瞬速」


 陥没音を置き去りに、テメリオイは加速し駆ける。続くように魔法士が眼前迫る魔獣達に魔法を着弾させ、道を作る。


 黒い影が多分ではあるが、剣の届く距離。


「武技・三日月」

 振り上げた剣を音速で振り下ろす武技。

「武技・孤月」

 剣を音速で切り上げる武技。


 テメリオイは左右で別の武技を発動。

 ──そして、固有スキル【剣豪】の真価は初めて発揮される。


「合技・偃月(えんげつ)


 切り上げ切り下ろし。勢いを殺さずに、左右からの横一閃。合技とは武技が至る先の剣技。適当な武技を組み合わせてなるものでは無い。


 そもそも、武技とは一つ一つの動作を極めた物にちかい。振り上げれば振り下ろす。剣術を理解し、流れを理解したからこそ、合技は初めて生まれる。


 四方からほぼ同時の斬撃が容赦なく迷いなく黒い化物を襲った。


「ぐぎゃぁぁあぎゃ!?」


 肉を断つ確かな手応え。両手は地面に落ち、刃先からは黒く粘り気のある血がボタリと滴り落ちる。


 ──これなら勝てる。そう確信した矢先に起きた現象を目の前に、揺るぎない勝ちを確信した数秒前の自分をテメリオイは恨む。


 回復速度が尋常ではない。


 腕は一秒足らずで新しく生え、血はすぐ様に止まる。


「なら、回復速度が追いつかなくなるまで切り刻むまで!!」


 武技・合技はかなりの闘気を消耗する。故に、確かな隙を見て使う必要がある。


「るぁぁぁ!!」

「ぎゃぎぁぁぁあ!!」


 黒い化物、こいつは戦いの素人だ。剣を交えて、テメリオイはそう判断した。


 回復速度はとてつもないが、それを除けば亜種にも及ばない。連撃を絶え間なく繰り返し、その度に黒い化物の肉は削がれていく。


 このまま攻め続ければ、勝て──


「なっ……んだ?」


 一瞬の出来事だった。油断の隙間を縫った、取るに足らない物の一撃。だが、その一撃は距離を取るに足る一撃だった。


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