生死を頒つ
久々の投稿です。これより四章が始まります。
テメリオイの号令が掛かり、各々が持ち場に移動を開始する。足並みを揃えた進行は、ただそれだけで重々しく地を鳴らす。殺伐とした雰囲気を醸し出し、それでもアヴァロンの住人達は頭を下げたり手を振ったりと、暖かく見送ってくれた。時には笑顔で。時には憂いる表情を浮かべ。
街の中に残るは老いた者・子供・怪我人・女性だ。そして、警護部隊。とは言え、人数が魔獣に較べ遥かに少ない為に、守りは手薄だ。彼等の命を守る為にも、今回の討伐は確実に成功させなくてはならない。
「それじゃあ、俺達も行こう」
目を眇める程に太陽は眩しく、吹き付ける風は気持ち悪い程に涼やかだった。
外にはドワーフとシュナイルが営む商会・レイゲルファビの者達が用意した馬や馬車が用意してある。テメリオイ達は魔法士を馬車に乗せ、前衛職で周りを囲み突っ切る作戦だ。
馬車には武具や回復薬も乗せている。準備は万端だ。
馬に股がったテメリオイは叫ぶ。
「っしゃあ!!テメェら!行くぞ!!」
馬が鳴き、馬車の車輪が激しく回り。強い風も吹いていない為、砂煙は上へ上へと立ち上がる。それを切り裂くように鋒矢の陣を成した傭兵たちは突っ切り駆けた。
金属と金属が擦れる音に、魔法士達の魔力が魔石に貯まる鈍く低い音が絶え間なく鼓膜を揺する中で、先頭を走るテメリオイは剣の切っ先を先へ向けて叫んだ。
「このまま突っ切る!!」
「「おうっ!!」」
皆が鞘走らせ、剣に闘気を込める。先頭を走るテメリオイ・シリウス・ダンズにはフウの最上位攻撃力向上魔法・最上位素早さ向上魔法を付与。
部隊全員にするだけの魔力量は残念ながら、フウにはなく。それどころか、聖帝級の魔法を何度も使った為に魔力はゼロに等しい。
しかし、代償と言えば聞こえが悪いが。しかし、テメリオイは、確かな能力向上を実感していた。暫くして、幾百の魔獣が黒い影を蠢かせているのを眼前に捉える。
重なり合わさった数十種類の鳴き声は、恐ろしい叫びとなり一軍に押し寄せた。
「気張れよ!!」
「お前こそな?」と、シリウスが冷やかし気味に口にする横で、テメリオイは馬車にて杖を構える魔法士に号令を出した。
「先行部隊、目標は眼前迫るゴブリン達に一斉掃射!!」
杖に備えられた魔石が、各々の得意属性色に発光し始める。
「ファイアーボール」
「アイスエッジ!!」
「ロックボール!」
「エアリアルカッター!!」
無数の火の玉と岩の玉が、エアリアルカッターの突風に乗り凄まじい速度で魔獣達に着弾する中、氷の刃が魔獣の四肢を斬り落とす。
爆音と炸裂音が大気を震わせる中、テメリオイ達は目を眇めながらも一点を見つめ手網を握り続けた。
鼓膜を掠める魔獣の雄叫び。馬が踏み付ける死骸の感触。馬車の車輪がすり潰す肉と骨の音。刃を振るい、頭蓋を叩き斬る度に浴びる返り血。鼻腔を衝くのは死体の血腥さ。
生きた心地のしない正に地獄の真っ只中で、テメリオイ率いるスコルピウスの仲間やシリウス率いるラ・ムルテの傭兵達の短い断末魔が過ぎ去ってゆく。
また一人──また一人と、数を減らしていった。
「テメリオイ、流石に奴らを突っ切るのは難しい。俺と数人置いてけ」と、引き攣った笑いを見せるシリウス。
目の前には【亜種】と思われる巨大な個体が四体、進路を塞いでいた。見る限り、オーガと回復力のたけたオーク。そして、従えるかのようにゴブリンやデグーラビットなどが四体を取り囲んでいた。
「おい。いまは走ってるからいいが、立ち止まれば退路を断たられるんだぞ?」
「馬鹿かよ。俺らがくたばる前に、お前が目標をぶっ殺せばいい」
「だな。ワレ、ここはシリウス殿に任せるが得策だ」
「とっつぁんまで」
だが、正直。シリウス達が提案した案以外、打開策は見当たらない。この作戦は最短距離を突っ切るからこそ真価が発揮される。
亜種を避けるように進んでいれば、いずれジリ貧になるのは明白だった。
「分かった……。だが、死ぬなよ?」
「それはお前次第だよ。俺らを殺したくねぇなら、早く仕事を済ませる事だな」
シリウスは自分と共に残す者を選び、伝令を回した。
「んじゃ行くぞ!!」
隊列を離れたシリウス達は、馬の機動力を活かしてテメリオイ達の先をゆく。すぐさま、砂煙が先の方で立上り激しい交戦を知らせた。
「……頼んだ」
その声がシリウス達に届いたのかは分からない。いいや、きっとあの激戦の中では届いてないのだろう。
しかし、すれ違い際に交わった視線。その目は力強く、生に満ちていた。シリウスは諦めていない。だからこそ、早く黒い影の討伐を。
テメリオイ達は長い距離をひたすらに駆ける。亜種が道を阻む度に、仲間が身を呈して道を切り開いてくれた。
全てはアヴァロンを、仲間を家族を守る為に。
気が付けば四台程あった馬車は一台となり、前衛職を担う騎馬隊は半数以下となっていた。そして、今やっと目の前には今回の騒乱を巻き起こした元凶がいる。
「ギギギギギ……ガギゲゲガ?グギルガガガァァァァァア!!」
言葉では無い単なる音を歪ませたような声を発する黒い影と対峙した時。テメリオイは初めて死を目と鼻の先で感じた。
二足で立っている。真っ黒い毛で全身を覆われ、僅かな隙間からは鋭く凶悪な双眸が覗いていた。しかし、彼からは一切の獣臭さはない。
比較的、毛の薄い腹部には顔のようなものが浮き出ており、時折、無言で動く様が不気味さに拍車を掛けていた。
刺々しい尻尾の先端は、鋭利な刃物のような鋭さをもっている。右手は人の手であり左手は獣の手。無理やり継ぎ接ぎにしたような体は、恐ろしく気持ちが悪い。
奴は亜種や魔人なんかじゃない──
「化物……」
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