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「うん」


 腰巾着から魔封金(エクエス)を取り出し、リュカに見せる。一度視線を魔封金へ持っていくが、すぐ様に目線を持ち上げヤクモをみた。


「これは?」

「これは魔封金。魔剣を作る為に必要な材料だよ」


 察したであろうリュカは、けれど表情を曇らせる。視線を落とし、膝の上に置いた小さい手で拳を作り、ゆっくりと口を開いた。


「有難いが、わっちじゃ力になれぬ」

「どーして?」

「わっちは元々、人間であり莫大な魔力の元は魔竜の遺伝子によるものじゃ。じゃから、力の精密な加減ができんのじゃ」


 ヤクモはリュカの言葉を聞いて安堵の息を「ほっ」と、漏らした。


「そんな事か。なら安心してよ。俺はリュカの力を全て受け止められるから」

「……錬聖の力──じゃな?」


 ヤクモは短く頷く。


「分かったのじゃ」


 ヤクモとリュカは、互いに魔封金の端を指で摘む。


「ではゆくぞ」


 いつになく真剣なリュカの目と目を合わせる。少し長めの息を吐き、気持ちを整える仕草を見せると、次第に彼女の内に秘めた魔力は、滲み出るように体を包み始めた。同じくして互いが摘んだ魔封金は赤く染まり、熱を帯び始める。

 さながら、それは血が流れ込んでいるかのように色を濃くし始めた。


「こんなもので良いのかの?」


 リュカがそういった頃、手に持った魔封金は真っ赤な煌めきを彩り。魔石に呼応しているのか、脈を打つかのように熱は放たれていた。


「うん。ありがとう。そして──」


 ここに眠るリュカの魔力。ヤクモは紙を用意すると鑑定スキルを用いて、魔封金を鑑定にはいる。青白い光が紙と魔封金を包み、文字が刻印されて行く。


「これが、今の魔封金に付与された能力か」


 刻印された紙には──


魔封金(エクエス)獄炎錬(インフェルノ)

 属性・炎・硬度SSと、記されていた。



「ありがとう、リュカ。お礼は必ず」


 あとは明日、ダンズに頼み込んで鉄を打たせて貰えばいい。


「お礼?美味しいご飯で勘弁してやるのじゃ。わっちはお腹がすいて仕方がないッ」

「そっか。じゃあ、ご飯を食べに行こうか」

「うぬっ!!」



 ───────────────────────────


 リュカと食事をし、様々な話をしてから四日が過ぎた。この際、三種族会議で決まった事を全員がしっかり役割を果たす。


 昼夜問わず交代制で魔法を空に放つエルフ。彼等は、水と炎を空中でぶつける事によりより一層の爆発音を轟かせ続けた。


 ダンズ率いるドワーフ族は、戦闘にて必須である武器を作る。一番数が多いテメリオイを筆頭にした人族は、偵察・敵戦力の把握、地図の生成。及び、物資の分配・警備。


 作戦が功を奏したのか、都市外での戦闘はあったものの、アヴァロン内に魔獣が攻めてくることはなかった。


 そして──


「なんだ?ヤクモ、お前は戦闘に参加しないのか?」


 ドワーフの一人・イガルは工場で炉と向き合うヤクモにそう訊ねた。そう。ヤクモはリュカの誘いを断り、集会をしている場所から離れた工場に来ている。


 彼には優先で成すべき事があった。


「はい。俺は、魔剣を造り鍛えなくちゃならないんです」


 ドワーフの目は少し冷ややかだった。皆が命を張る中で、コイツは臆病者だと。言葉に出さずとも伝わってくる。でも一向に構わなかった。構わないからこそ、ドワーフ達が大急ぎで道具を詰め込んでる中で、ただ一人、手伝いもせずに、躊躇うことも一切(・・)無く高熱を発する炉の中に魔封金を入れている。


 ヤクモは昔からそうだった。自分がすべき事が明白になれば、他者の目を気にすることもなく没頭が出来たのだ。故に培った集中力が、刀鍛冶師としては大いに役に立っている。


 薄情者でも臆病者でも構わない。確かに今から戦闘に参加したとしても【錬聖】と【執念】のスキルがあれば、即戦力には十分なれるはずだ。それだけの自信は狂乱必死(デス・パレード)で得ている。


 だが、先を見据えた時、間違いなく魔剣を所持している方が戦力になる。ヤクモのスキルをもってすれば、魔剣は絶対に死ぬ事がない。


 命尽きるその時まで、共に戦ってくれる。だからこそ今しかないのだ。彼等の戦力に最大限の力でなるには今しか。護るべきものを守る為にも。


「ふんっ」と、冷たくあしらい背を向けたドワーフに頭を下げ、炉と向かい合う。


 トングを使い、熱せられた魔封金を取り出せば金槌で豪快に叩いた。鉄と鉄がぶつかり火花が散り、甲高い音が工場に鳴り響く。


「硬い……なっ!!」


 今まで打ってきた鉄のどれよりも高い硬度を持っていた。普段なら金槌が鉄を伸ばす感覚が腕を通し伝わるのだが、目の前の魔封金(それ)は、ヤクモの腕ごと金槌を弾く。


 何度打っても打っても鉄は伸びず、冷める前に炉に戻す行為を繰り返していた。


 ダンズ曰く、炎属性の魔封金は簡単に形を作れると言っていたが、予想を遥かに超えている。


 何度も何度も鉄を打ち続けた。腕がしびれ、握力が低下し、額から滴る汗が目に入る。だが、ヤクモは一切休憩を取らず向き合い続けた。


 理由は一つ。魔封金の硬度を超える金槌にする為。そして、魔封金と向き合えるだけのステータスまで早く向上させる為だ。


 一方その頃、テメリオイ達は東門近辺にて傭兵達を眼前に堂々と立っていた。


ブクマとか中々増えず、えたりそうでした。

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