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魔封金

「今日はリュカと別行動か」と、ヤクモが言ったのは、昨晩、届いてた手紙を読み、日が明けた頃だった。


 手紙にはいよいよ本格的に行動する為の詳細が記されていたのだが、一人は一人で若干寂しいものがある。


 ヤクモは何処の部隊にも所属していないため、基本は自由行動。椅子に腰掛け、今日の予定を考えていた。


 とりあえずは、ダンズの場所に向かい研磨をすると決め、身支度を済ませて向かう。昨日よりも瓦礫の撤去が進んだ街は、当然ではあるが昨日よりも活気が出てきている。

 テメリオイ達はこの街のために命を賭す戦いをしようとしているのだ。


 工業地区に着けば、共に戦ったドワーフ達。そして、その話を聞いたのであろうドワーフ達が「人間なのによくやってくれた」

「俺達は恩を大切にする。なんかあったら協力するぜ」


 云々、含みがある言い方をされたりはしたが、話を掛けてくれた。それでも少し認められた気がして、悪い気は全然せず、寧ろ素直に嬉しい気持ちになる。


 ヤクモは、各々にしっかりと答えてからダンズの工場へはいった。


「これはこれはヤクモ殿。昨日はご助力してくれてありがとう」

「いえ。俺に出来る事をしただけなので」

「──そうそう。お礼として、これをヤクモ殿に」


 奥の箱から布に包まれた手のひらサイズの何か(・・)をダンズはヤクモに手渡す。少しズッシリとした固形物を布越しに感じつつ。


「見てもいいですか?」

「いいとも」


 するすると布を取れば、長方形をした石──の、ような物だとヤクモは理解する。それは不思議な色をしていた。黒と紫と藍色を斑に混ぜたような、水晶や宝石また鉱石とは全く違う。端的に言えば禍々しいさを持った何かだろうか。


「これは一体」


「こりゃあ、燃やし摘出した魔石と青生生魂(アポイタカラ)──そっちで言うとヒヒイロカネか。それを合金したもの。魔封金(エクエス)だ」と、ダンズは腕を組み誇らしげに言った。

 ヤクモはその言葉が誇るに値する物だと一瞬で理解し、落とさぬようにしっかりと持ち直して訊ねる。


「もしかしてそれって」

「ああ。その通りだとも。魔剣を作る材料だ」


 ダンズは短く頷く。


 特殊な技術を用いて作られる魔剣。肝心要である魔封金(エクエス)。これに魔法士の魔力を注ぎ込む事によって、魔法が使えない前衛職も、付与した魔法士同等の力を振るえるようになる。ただ、注ぐ量に近位するので必ずしも同等って訳ではないらしい。使用回数に限りはあるものの、一時的に戦力は跳ね上がるのだ。


「でも、こんな高価な物を頂けませんよ」

「ヤクモ殿は我等の恩人でもあるからな。気にしなくていのだよ」


 ダンズの目には一切の偽りがない。ならば、ここで断ればダンズ達の行為に泥をかけるようなものか。ヤクモは布に包み直し、頭を下げた。


「ありがとうございます」

「いいとも。ただ──注意しなくてはならない事もある」

「と、言いますと?」

「エクエスにも、注げる魔力には限りがある。そのエクエスだと上位の魔法程度の魔力しか注げないだろうな」


 ダンズは平坦に言うが、イマイチピンと来ない。刀鍛冶をやってきたが、魔剣を扱ったことがない為に想像ができずにいた。


「分かりやすく言えば炎嗡(エンラ)ぐらいの火力だな」


 あれだけのグールを一撃で消し炭に出来るだけの火力。十分すぎる力だ。


「もしそれ以上の魔力を注げば破砕してしまうから気おつけるように。基準としては、エクエスが赤に染まったら止めるんだ。くれぐれもリュカに頼まないようにな」


 きっとヤクモがリュカといつも行動しているからこその発言なのだろう。


「でも、何故ですか?」

「奴の魔法士階級は覇級。そんな奴に頼めば瞬く間に破砕だからな」

「なるほど」


 そういえば、リュカは何故、魔石無しに魔法を扱えるのだろうか。魔獣や魔竜は、中に魔石がある。それを通して魔法を使える事が今回の件で分かったが、リュカは魔人であり魔獣ではない。


「分かりました」


 とは言え、ダンズの助言に関してヤクモは例外だ。端々をリュカと一緒に持てばスキル【錬聖】が発動した状態でエクエスに魔力を注げる筈。つまりは、リュカの最大魔力を封じ込める事が可能。


「それと一つ」


 ダンズは力強くヤクモをみつめる。


「なんですか?」

「何故、ヤクモ殿は一刀しか扱わない?」

「え?」


 何故と言われても。確かに二刀流と言うものが中には存在している。だがヤクモが教わったのは、一刀での剣術だ。


「ふむ。ヤクモ殿の剣さばきを見ていたが──」


 ダンズ曰く、ヤクモの剣術は一刀流にしては不自然な部分が多いいらしい。両手で剣を握り断ち切る事が多い一刀流だが、ヤクモは両手よりも片手での攻撃が明らかに多いとの事だ。


 言われるまでまったく気が付かなかったが。剣を斜に構えきりあげるにしろ、片手で行っていたかもしれない。


「二刀流……です、か」

「試してみるのも悪くはないだろ。剣なら一本持って行っていい。振るってみてはどうだ?」

「良いんですか?」

「いいともさ」

 

 口を覆い隠す程に伸びた髭からでも、ダンズが笑ってくれたのが分かる。ヤクモは言葉に甘え、剣を一本借りる事を決めた。それから、工場の端を借りて刀を研磨し、手入れを終わらせて外に出る。来る時は刀一本だったヤクモが、エクエス一個と剣と刀を腰に滑らせて。

読んでいただきありがとうございました。

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