グール戦【後編】
グール達は俊敏な動きをする訳でもない。だから気をつけるべきは、囲まれる事のみだ。囲まれ、のしかかられて噛み付かれれば死はほぼ確定と言えるだろう。
ヤクモは、一匹を斬っては移動し、背後から斬り掛かる。数をこなすにつれて、疲労感が溜まる訳ではなく、逆に力が高まっているのがわかった。
きっとこれは【執念】の効果だろう。
ヤクモ達が一心不乱に刀や戦斧を振りかざしている頃、リュカは魔獣達に囲まれ佇む一人と対峙していた。
「よもや……こんな再会があろうとはな……フォルタ」と、憂いた視線を向ける先には、精魂を感じない女性がゆらゆらと立っている。
リュカは彼女をよく知っていル。なぜなら、嘗て共に戦場を駆けた義勇軍の中の一人だからだ。
ネクロマンサーのDNAを取り込んだ魔人。地味で暗くて平和主義で病弱な。そんな彼女が何故、人に牙を剥くのかが分からない。
「ヴァァァァ……ァア」
言葉とは言い難い音を発した。何かを訴えかけるような。あるいは憤怒を滾らせた咆哮でもない。それは──そう。それは空っぽな音だった。
リュカはフォルタの声を鼓膜に受け取ると、全てを察し哀れみの視線を向ける。
「大変だったのう……」
彼女はフォルタであってフォルタではない。あの日、囚われてから人体実験の被験体にでもなったのだろう。神官服はボロボロで、綺麗な赤い瞳は、淀み。艶やかだった茜色の長い髪は抜け。体は腐乱が進んでいた。それでも、今こう活動しているのはネクロマンサーの力か──
なんでこんな。なんでこんな残酷なことを。
「ヴァァァァァァァ」
「誰じゃ……誰がやったんじゃ!!」
空をあおぎ、おおごえで叫ぶ。
ぶつける相手も居ないこの怒りを宥める術をリュカは知らない。けれど、内からは言葉にならない怒りが次々と溢れ出す。
「ミンナヲ……マモ……レ……ミンナヲ……コドモタチヲ……」
──そうか。そうだったのか。彼女の時間は、あの時から止まったままなんだ。仲間を助けられなかった、家族を守れなかった。その思いだけが、フォルタに【守れ】と、言わせている。任務を果たせなかった後悔か。あるあは、夢を見ているのか。
「ヴルヴァァァ」
グールは、フォルタの命令に従いただ立つリュカに覆い被さる。数にして十はいるだろうか。飢えた野獣が如く、牙をむきだし、腕や足、首に噛み付く。普通の人間ならば死ぬだろう。だが、リュカの肉体を傷付けるには足らない。
「邪魔じゃ……邪魔じゃぁあ!!」
体内温度は飛躍的に上がり、高熱はグールを溶かし燃やす。
誰がこんな事をフォルタに。仲間に。やはり教皇が命じているのか。手掛かりをもう一度確認する為にアヴァロンにきたが、フォルタを見る限り、仲間達の生存は壊滅的かもしれない。
「こんな事をしたヤツをわっちは絶対に許さぬ」
「マモレ……ミンナヲ……ワガシモベタチ」
「そうじゃな、フォルタ。わっちがそなたを今、楽にしてやる」
リュカの声も想いも目の前のフォルタにはもう届かない。引っ込み思案で、それでいて皆をよく見て理解する女の子であった。優しくて、おとなしくて、子供が大好きで。
『ねえ、リュカ?前に夢はなにかって聞いたよね。その時はまだ答えられなかったけど……私ね、やりたい事が出来たんだ』
皆が笑顔になるように、明るい花屋さんを開く事を夢見ていた。
何故、国の為に戦った者が“魔人”ってだけで、こんな羽目になる。好きでこうなったんじゃないのに。
リュカは片手をフォルタに向ける。
「安らかに眠るんじゃぞ、フォルタ。──獄炎球」
獄炎が辺り一帯を燃やし、火柱が天を穿った。盛る炎は、グール、そしてフォルタの声すらも燃やし尽くす。
その光景をみたまま、リュカはその場に座り込むとか細く言葉を紡いだ。
「すまぬ……少年。わっちはそちらにいけそうにない。流石に仲間殺しは……キツいのぅ」
時同じくして、ヤクモ達は天に昇る火柱を視認していた。
「なんだありゃあ」
ダンズが吐露する中で、ヤクモには誰が何をやったのか数秒と掛からず理解ができた。あれは間違いなくリュカの獄炎球。
つまり、ネクロマンサーを撃破したって事だろう。
「ダンズさん!もう新手のグールは出現しません!一気に攻め込みましょう!」
「なるほど。リュカ殿がやりおったんだな!よし、テメェら!!行くぞ!!」




