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グール戦【前編】

 ヒリついた空気が流れる。あれだけ鉄を打ち付ける音や様々な音が響いていた工場は、嘘みたいに静まり返り、炉のみが炎を盛らせ音を鳴らしている。


「数は?」


 平坦にダンズが問うと、深刻そうな表情を浮かべたままドワーフは問に応じる。


「ザッと三十匹は」

「そうか。……ゴブリンか?トールか?」


 三十と聞いても顔色一つ変えないでダンズは、伝令に来たドワーフに落ち着いた様子で接する。辺りがワナワナとする中で、彼一人だけが他とは違う雰囲気を見せていた。


「いえ……グールです」


 グール。

 歩く死体とも言われている。動きは単調であり、攻撃自体は対処しやすい。だが、グールで最も恐れるべきは、タガが外れている事による暴力だ。生物は皆、自分の体を守る為に本能でリミットをかける。しかし、一度死んで蘇った怪物にそれはない。掴んだものは、自分の指が折れるまでの怪力で離さず、足はもがれようと這ってでも襲いかかる。


 ただなんらか(・・・・)の目的のみの為に行動する化け物だ。個々でのランクはC程度だろうが、束になったならAに跳ね上がってもおかしくはない。


「俺らもいきやしょうか!?」


 一人のドワーフが金槌を片手にダンズにヤル気を見せる。


「エド、バカかてめえは!俺達は命より大事な火を絶やしちゃなんねぇだろーが!!非番のやつをかき集めろ!あと火を忘れんなよ!!」

「俺も行きます」

「しかし……ヤクモ殿はテメリオイの」


 ヤクモは首を横に振るう。


「いえ。俺は何処にも属してません。この街でどんな序列があるかは分かりませんが……俺は自分がすべき事をしたい」


 その言葉に偽りはなかった。エルフだとかドワーフだとか、種族は関係がない。ましてや今はそれどころじゃない状況だ。きっとテメリオイも父もリュカも同じ行動を取ったに違いない。


 眉ひとつ動かさずダンズの視線と合わせる。


「かたじけない……。よし!俺達は先に焼却炉に向かう!」

「わかっりやした!!」


 ダンズは立てかけてあった赤い大剣を背負い込み、兜を被った。その大剣は、普通の剣の比ではない大きさをしている。刃渡りも鍔も厚さも。

 正にそれは鉄塊だ。斬る事に特化したものではなく、全てを叩きおる。あるいは、砕く為に存在しているような。力で全てを捩じ伏せる為にある──大剣だ。


「リュカはどこに行ったかわかりますか?」


 ヤクモが外に出るなり、慌ただしいくしている一人のドワーフに話をかける。


「あんたは、ヤクモだね?リュカから伝言だ」

「伝言?」

「ああ。「わっちは、ネクロマンサーを探すゆえ、焼却炉の魔獣達は頼んだのじゃ!」と」

「一人で行ったのですか?」

「一応止めたんだが……。ネクロマンサーがいる限りグールが、沸いてしまうと言って聞かなくてだね」


 確かにネクロマンサーがいる限り、死体は範囲内でグールと化してしまう。本来ならそれでも、数体程度。だが、狙ったかのように昨日の襲撃で死体は数多く。


 加えて、一箇所に集められた場所での魔法の発動。まるで策を講じられているような感覚だ。


 と言うか、ネクロマンサーは個体でAランク。加えて、グールも居るとなれば一人で対処出来るはずもない。何を考えているんだ、リュカは。


 ──死にたいのかよ。

 

「ヤクモ殿、どうする?なんなら、焼却炉は我々だけでも」


 どうする。ダンズ達に焼却炉を任せ、リュカを探すか。いいや、リュカは飛行できる。そんな彼女を探す事が短時間でこなせるとは到底思えない。


「いえ。俺も一緒に焼却炉へ向います」


 ここはリュカを信用しよう。三種族会議で、テメリオイはダンズ達に武器の製造を頼んでいた。つまり、彼等の役割だってかなり重要って事だ。


 こうして、ヤクモ、ダンズを含む十名程が先遣隊として颯爽に焼却炉へ向かった。馬に乗り、走ること十五分程でそこには辿り着く。詳しく言えば近辺に焼却炉がある事が分かった。


 ガスが噴き出してるような──腐乱臭が風に乗り、ヤクモの鼻を突き抜ける。噎せ返る最悪な死臭に苛まれ、眉間に皺を寄せ、涙目になりながらも先頭を行くダンズの背を追った。


 徐々に強まる臭い。眼前には大きい焼却炉が見える。目を凝らせば、焼却炉を守るように数人が武器を構えているようだ。


「いくぞ、ヤクモ殿!」

「はい!!」


 轡を引いてから、鞭で馬のしりを叩く。一気に加速し、グール達の間を強引に突破した。


「ダンズさん!助かりました……」

「気にするな。お前らまだ戦えるな?」

「当たり前っすよ!!」


 戦斧を構え直し、屈強な男達は士気を取り戻す。


「ダンズさん、こちらの御仁は」

「ヤクモ殿だ。わざわざ危険を顧みず、ここに来てくれた」

「そんな、気にしないでください。自分に出来ることをした迄です。それに──」


 鞘走らせ、刀を振り抜くと中段に構える。


「これだけの数が居たなら良い鍛錬になりそうです」


 呻き声を出すグールと化した魔獣は多種にわたる。それは、アヴァロンに起きた凄惨な襲撃を物語っていた。しかも、数は三十をゆうに越している。多分、此処に来るまでに増やしたのだろう。


「あまり息を吸い込むなよ、ヤクモ殿。伝染病の恐れもある」


 腐敗した体には虫が集り、変な液体が垂れている。


「分かりました」


 なるべく呼吸を浅くつとめ、ゆっくり迫るグールを冷静に目で追う。


「ただ、ダンズさん」

「どうした?」

「俺達に決定打はありません。それこそ、ネクロマンサーをリュカが倒してくれないと」


 グールは生命活動を停止させた化け物だ。斬ろうが、潰そうが、例え肉片になろうが活動を止めることはない。


 奴らを倒す有効打。それは──


「俺は火が使えません。それに、ダンズさん達もですよね?」


 見るからに魔法師はいない。つまり、火を起こせる者が一人もいないのだ。焼却炉の火を使えば、あるいは可能かもしれないが、これだけの数を燃やせるだけの火力があるとも思えない。


「なあに。火はここにあるぜ」


 そう言うと、隆々とした筋肉を動かし大剣を振り下ろした。地面にめり込む程の重量を持った鉄塊の柄を掴み、ダンズは恐れ一つ抱いていない様子で口を開く。


「この炎嗡(エンラ)は、炎の魔剣だ!!」

「……ッ!?」

「だが、魔剣にゃあ回数が限られてる。こいつら全員、散らばった状態じゃあ、回数が持つかの賭けになる」


 確かにその通りだ。


「なら、俺は魔剣に賭けるよか、お前らに賭けてぇ。いいか!?よく聞け!こいつらの体をバラバラにして一箇所にまとめるんだ!」


 ダンズはニヤリと笑う。


「そーしたら、あとは簡単料理だ!俺の魔剣で消し炭よ!──出来るか?おめぇら!」

「うっしゃぁあ!やったりますぜ!!」


 恐怖・不安。臆する気持ちを騙すかのように、猛る戦士達。勇ましい声を上げ、真っ向からグール相手に攻め立てる。土煙が舞い、至る所から轟くはドワーフ達の声。


 振り上げた戦斧を陽に刃を煌めかせ、グールを一刀両断。ダンズの声一つで、焼却炉一帯は一気に戦場と化したわけだが。その結果に不満を持つものは誰一人といないだろう。


 なぜなら、この劣勢。だがしかし、全くもって負ける気がしないのだ。


「こうしちゃいられないな。ダンズさん、よろしくお願いします」

「おうよ!っても、俺も前に出るけどなぁ!!」



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