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見えぬ予兆

 冷たい夜を過ごしたヤクモは、日もまだ開けきらない時間帯に起き、刀の手入れを始める。少しでも仲間の手を引っ張らない為の準備。そして、手入れを終えれば、剣技の自主トレを熟す。


 基礎の構えや心得は、父に教わっていた。刀鍛冶師として、武器の事を知る為には武器を振るう者を理解しなくてはならないからだとヤクモの父は言っていた。


 だが、武技を教わる財力などは一切なく、純粋な剣術のみがヤクモの武器。前衛として心もとない存在であるのは間違いなかった。


 それでも──だからこそ、毎回全力でいる必要がある。足を引っ張らない為に。少しでも皆が楽できるように。恩を返せるように。


「皆おはよう」と、ヤクモが住まう街・ザザンの出入口で聴こえたのは、そこから五時間程過ぎた頃。本来なら、冒険者ギルドで待ち合わせなのだが、評判を下げさせないように、ヤクモなりの配慮だった。


 メンバーは気にしなくて良いと言っていたが、皆が陰口を言われたりするのは耐えられない。


ヤクモ君(・・・・)、おはよう」

「おはよう、イーバ」


 爽やかな笑顔を向ける好青年が、ギルド・レギオンのリーダー。見た目も筋骨隆々とは言わず、豪傑とは程遠いが、カリスマ性は十分にあった。重装備はせず、胸当てと鉄製の手甲と片手剣を装備するイーバは、ヤクモと同じで前衛を担う。


「ヤクモ君、聞いてよ!! イーバったら、寝坊よ!? 有り得ないでしょ! リーダーなのに!!」と、やれやれと気だるげな声を上げたのは、黒衣を身に纏った魔法師。僅か十七歳で上位の魔法を使える天才。白銀の長い髪に、大人びた顔つき。リーダーにも遠慮せずに物事をハッキリ言う性格が後衛に適していた。


「あー……そりゃあ。その寝癖を見たら分かるよ。はは」


 ただでさえ癖のある赤毛が寝癖も合わさり物凄い事になっている。


「本当にだらしないわよね。なんなら、ダイルの髪型見習いなさいよ」

「いやいや、ミーナ。ダイルの髪型とかもう無いじゃん」


 ジトっとした目線をイーバは、筋骨隆々の大男に向ける。


「おい、なんだよその目は」


 イーバとミーナ、二人分はありそうな大柄な男、ダイル。フルプレートアーマーを装備し、背中に背負った盾を使って皆を攻撃から守る盾役。この三人のチームワークが圧巻だった。


「だってハゲじゃん」

「おい、うるせーよ!!」

「まあ確かに、十八歳でハゲは無いわよね」

「おい!?ハゲハゲうるせーぞ!これは俺のトレンドだ!!」


 明るく和やかな雰囲気。この時だけは孤独を忘れられる。


「あー怖い怖い。んでヤクモ君、いつも通りリュックには入れてるね?」

「薬草・回復薬・毒消し草。武器の手入れをする為の道具──その他諸々入ってるよ」

「よし。いつもありがとう。自腹を切らせてしまっているし」

「良いんだ。俺には俺に出来る事をしたいだけ」

「そうか」

「に、しても便利よね、ヤクモ君のスキルは」


 ミーナがヤクモの背負ったリュックをポンポンと叩いた。


「ああ、劣化無効(クレーロス)だっけか?」

「そうそう。スキル所持者が持ってる限り劣化しないって凄いわよね」


 唯一ヤクモが持っていたユニークスキル。とは言え、刀鍛冶師としては適していても、冒険者としてはあまり意味がなかった。だからこそ、ヤクモは薬草や素材を運ぶ役を自ら担っている。


 適材適所と言い聞かせながら。


「でも、手を離れてしまえば、いつも通り劣化は進むから大して凄くないと俺は思うよ」

「おいおい、ヤクモ君! 謙遜はいかんなぁ!!」

「そうだぞ、ヤクモさん。君のお陰で俺たちは万全を維持出来る」

「そのとーり!! ──よしっと。それじゃあ、行きますかぁ!! 気合いを入れて魔獣討伐に!」

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