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三種族会議【後編】

「詳しく聞かせてはくれぬか?」

「んじゃ、俺が分かりやすく話してやら」と、シリウスが強気な物言いをするが、確かにラ・ムルテ(かれら)は、最前線で戦っていた。


 情報を収集する面に於いては最適か──


 ほか二人もテメリオイと同意なのか、シリウスをみて頷く。そして語りだそうとする、彼の目には数時間前の出来事が目に浮かんでいるかのように、怒りを宿していた。重たい声でシリウスは言う。


「端的に言う。アイツらは軍隊(・・)だった。そんじょそこらの群れみたいな、甘っちょろいモンじゃねぇ。個々が役割をもっていやがったんだ。あれは、飢えた魔獣が餌場を探してたわけじゃない。間違いなく俺達の街の破壊を目的に攻めて来やがった」


 魔獣達の動きは、今までの固定概念を覆すものだった。ゴブリンがワーウルフに跨り、襲ってきた時点でテメリオイ達、住人は既に先手を取られ冷静さをかいていた。奴らは人を襲うよりも先に街に火をつけたのだ。まるで、逃げ場を無くすかのように。


 だが、この時はまだどうにか対応を出来ていた。これでも傭兵家業の住人達ばかり。戦い慣れは当然している。血を流し、怪我を負い。それでも直ぐに体制を立て直し、魔法師達後衛と剣士達前衛に分かれ、分析をしつつ立ち回っていた。


 追い打ちをかけたのは、奴らが先遣隊だったと理解時だ。時間差で後からやってきた多種に渡る魔獣達。魔法を得意とするエルフ達には、近接戦闘を得意とする魔獣を。また、前衛には弓を使ったゴブリン達の攻撃等。


 人が魔獣に対してやる戦法を、奴らはやってきたのだ。正直惨敗だった。冒険者ギルドで言うS級だってテメリオイを含め数人居るにも関わらずだ。


 逃げ惑う悲鳴も怒りの咆哮も、全てひしめき合う魔獣達の醜悪な声に飲み込まれていた。まさにあれは生き地獄。



「街の破壊を目的に……じゃと? 何故そのような」


 リュカが問うと、シリウスは腕を組み直して首を振るう。


「わからねぇ。なにもな。だが、わかる事は一つだけある」

「なんじゃ?」

「奴らを皆殺しにしなきゃなんねぇって事だ。だろ? 御三方よ」

「そうだねぇ。魔獣達を一掃できれば、それに越したことはないけど。私は難しいと思うぞ」と、フウは冷静にシリウスの言葉に答える。


 これに関してはテメリオイもフウに賛同である。


「んだと? ビビってんのかよ。これだから耳長は」

「貴様!! フウ様に向かって!!」

「気にするなミューレ」

「シリウスよぉ、すこし考えたらわかる事だろ。魔獣の数は未知だ。加えて、やり合おうっても、他の街から応援なんざ見込めない。分かってるな?」


 テメリオイ達は独立した街に住んでいる。法も秩序も、他の街とは異なり、故に国に使える騎士達の介入は一切ありえない。これを踏まえた上での皆殺しは、余りにも望める展開ではないのだ。


 だからこそ、シリウスの気持ちも分かるが意に頷く事は出来ない。


「んじゃあ、どーすんだよ。アイツらが次に襲って来た時、凌げる保証なんかねぇんだぞ? 次こそは俺達が先手を取らねぇと。だろーがよ?」

「一ついいですか?」


 この緊迫した状況で、口を開いたのは予想外にもヤクモだった。彼は申し訳なさそうに、下手からでる物言いをしてきたのだが。しかし、瞳は力強く円卓にいる面々を見つめていた。


「んだよ」


 訝しげな視線をシリウスがヤクモに送る中──


「リュカから聞いた過去と俺が経験した話です」

「過去の話なんか、かんけえねぇんだよ! 分かるか? 大事なのは今なんだよ!」


 机を指で強く叩くシリウスは、まったくヤクモの事を信用していない様子だ。いや、信用していないと言うより認めていないのだろう。ヤクモに向ける目は、興味の一片すらないように見える。


「まあまあ、シリウス殿。“愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶ”という言葉もある事だし、聞いてみようじゃないか」

「……ッチ」

「ありがとうございます。俺の父、カルマが殿を務めた時、リュカが見つけたのは司令塔でした。そして僕が倒した死を運ぶ狼(ヘルハウンド)の亜種も、最後の一体になるまで、配下に指示をだしていたんだと思います」

「何が言いてぇんだよ」

「要するに、司令塔が存在しており、それは他とは異なる物【亜種】だと思います。彼等は魔獣の生態に於いては例外なんですよ。だから、その亜種を倒せば」


 シリウスは頭をかいてから口を開いた。


「あんなぁ。じゃあ、その亜種をどうやって見つけんだ?見つけたとして、どうやって倒すんだよ。なあ?教えてくれよ、大将。皆殺ししかねぇだろーが」

「…………テメリオイさん、一ついいですか?」


 ここで、シリウスの言葉を無視するのか。これを無意識でやってるのか、意図してやってるのか。こんな事をされては、プライドの高いシリウスは、ヤクモに反感という意識をもってしまう。粗を探す為に耳を傾けてしまうはずだ。


 案の定、シリウスは睨み付けながらもヤクモを見ている。


「なんだ?」と、テメリオイは単調に返事を返す。


人狼(フェンリル)の子……確か」

「カエデだな?」

「はい。彼女は魔獣の声がわかる。そうでしたよね?」

「ああ、そうらしい」

「なら……リュカとカエデちゃんに頼みましょう」

「なるほど。司令塔がいるなら、そいつの声を探せばいいってことか。でも」

「簡単な事ではないし、危険もついてまわります。でも俺は、この案が一番、被害が少ない方法だと。リュカにも聞きたい事があるんだ」



 これは、ヤクモの才覚なのだろうか。刀鍛冶師とは、探究心が強いとは良く聞く話。彼は色々な事を知りたがり、知った上で流される事無く、自分の意思を持つ事の出来る青年なのかもしれない。中々に見込みがある男だと、テメリオイは腕を組みながらも思っていた。


「殿を務めた時があったよね?」

「うぬ」

「なんで敗走が濃厚な状況下に於いて、彼等は皆が撤退するまで待ってくれたの?魔獣には人間のような秩序はないはず。逃げる相手を待つなんてしないはずだけど」

「魔獣避けのアイテムを、打ち付けた杭にありったけ縛り付けたんじゃよ。それと、昼夜問わずに魔法による爆音を轟かせてたんじゃ」


 魔獣避けのアイテムを使い、魔獣を遠ざけつつ、魔法で相手の警戒心を強めるのと同時に、士気の高さを見せつけていたのか。


「これは使えるかもしれんな。ワレはどう思う?」

「皆殺しよか、現実的だ。地図に記すのは、シュナイルが得意だったな?」

「はい。一応、商会をやってますので」

「よし。なら、魔獣が居る位置の把握は、俺達・スコルピウスが受け持とう。それをシュナイルに報告し、地図に分かりやすく書き写して貰う。いいかな?」


 皆がうなずく。


「とっつぁんは、武器の製造を頼む。フウは、エルフ特有の魔力の高さを生かして魔法を定期的にぶっぱなしてほしい」

「分かったぞ」

「ええ、構わないわ」

「シリウスは、魔獣避けのアイテムを例に習って杭を打ち付けて使ってくれ。あとは、外の見回りを頼む」


 外に出るのは、一番好戦的なシリウス率いるラ・ムルテがいいだろう。もしもの事が合った時にも上手く立ち回ってくれる筈だ。そう思い、目を見ると彼は静かに頷いた。


「分かったよ」

「シュナイルは、地図の他に魔獣避けのアイテムの買い付けもお願いしたい。この際、金に糸目はつけない。他のみんなは、各々、警備や復興に尽力してくれ。都度、新しい情報が入ったら教えて欲しい」

「「おう」」


「それで」と、切り出してきたのはフウだ。


「いつまで、それを続けるの?魔獣避けだって、暫く使い込めば魔獣に耐性がつくのよ?結局、今私達がしようとしてるのは先延ばしに過ぎない」

「分かってる」


 テメリオイは、短く頷いてから口を開く。


「これあ、相手が完璧に優勢な戦いだ。人と人との争いのように国際法なんかありゃあしない。だからこれは博打だ──」


 テメリオイは立ち上がると、皆の心に訴えかけるように話を続けた。


「司令塔が見つからずにこの街が滅ぶか。あるいは、司令塔が見つかり討伐し俺達が勝つか。ただし司令塔を倒したと言って、事が上手く運ぶとは限らない。逃げたって構わねぇ。咎める奴なんか誰もいねぇさ。だけど俺は守りたい。自分の街をこの手で。お前達はどうなんだ?」


 テメリオイが皆に問うと、シリウスが自分の武器を円卓に置く。すると、配下も武器を置いた。武器とは傭兵にとって命だ。その命である武器を、この街の中心である此処に置いたって事は──


「俺は生まれた時から此処だ。俺の帰る場所も死ぬ場所も此処だ。自分の居場所ぐらい、守れずに男を名乗れるかよ」

「私も同意だ」

「俺もだ」


 各々が武器を置く。


「ありがとうよ。んじゃあ、まあやったりましょうや!!」


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