三種族会議【前編】
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「わ、ワレいつの間に子を!?」
ダンッと、机を叩いて立ち上がるドワーフの長・ダンズ。そりゃあ過去に「ワレにゃあ、奥さんの一人も出来ねぇだろうけどなや」とか「安心しろ! 俺も独り身だ」だとか、勝手に共感認識抱いてたのだから。
テメリオイに子が居たとなれば、この反応である。実に面白い。笑いをこらえるので精一杯だ。
「いやいや、ダンズさん。これは頭領の冗談ですから……」
額に手を添えて、ミサはやれやれと溜息をつく。
「ふへ……? じょ!? いや、しってたわ! ワレ、またふざけやがって!! 金槌で引っぱたいてやるぞ、まったく」
「頭領も、意味の分からない冗談おやめください」
「ガハハハ!! やっぱ駄目だった?」
「当たり前じゃないですか。ヤクモ君なんて固まってますよ」
周りの目線が突き刺さるが、テメリオイ自体は大して気にもしていない。寧ろ、ひりついた空気の方が苦手だ。敵対心や野心を抱いて場に望めば、私利私欲が前へ出てしまう。此処では皆が対等。故の円卓。
──一国を担う王ではないのだから。
「おう、すまねぇな!」
軽い謝罪を済ませたテメリオイは、コホンと軽い咳払いをしてから本題にはいる。
「──の前に! ヤクモ!」
「は、はい!」
「お前、自己紹介まだだったよな?」
この為に拠点で自己紹介をさせてなかったのだ。リュカの仲間はテメリオイの仲間であり、なにより、カルマの息子なら殊更、大事にしなくては。
その為にも、ここに居る継ぐ者達や他の人等にも名前や顔を覚えて貰わなきゃならない。と、まあぶっちゃけた所、ヤクモの名を聞けばダンズやフウは、渋々だとしても受け入れるだろうが──
「えっと、はい。そうですけど……」
「んじゃあ、自己紹介頼むわ!!」
「え……あ、ヤクモ=アルクルです。冒険者をしてますが、本業は刀鍛冶をしています」
「アルクル? あら、もしかして」
エルフの長をつとめるフウが、何かを察したかのようにヤクモを見つめた。しかしいつもの事ながら、エルフ達が正装にしている着物、と言うやつは彼女達の美しさを際立たせるな。
逆にダンズは素っ頓狂な顔をしている。本当に察しが悪いなこの方は。頭まで筋肉で出来てんではなかろうか。服だって毎度、半袖とかだし。
「……ぷ」
「おい、ワレ。何見て笑ってんだよ!」
「ゴホン! えーヤクモ君は! カルマの息子です」
「カルマ殿だと?それは事実なのか?」
ダンズがヤクモに問う。キリッとしたその目に嘘は通用しない。普段察しの悪い男だが、仕事柄も相まって人を見る目はこの場の誰よりも長けている。変な誤魔化しをしようもんなら、金槌が誤った使い方をされてしまうだろう。
テメリオイにも何度、飛んでくるはずがない金槌が飛んできたことか。ミサ曰く「当然の仕打ちですよ……」らしいが。
「えっと……はい。カルマ=アルクルは間違いなく俺の父です」
「ほう」と、ジッとダンズはヤクモを見詰める。
「本当の事を言ってるみたいだな。ヤクモ殿、さっきは威圧した態度をとってすまなかった」
ここでやっとダンズは椅子に腰を落ち着かせる。絶対に立ってること忘れてたに違いない。
「いえ。俺がこの場に居るのが間違いなのは、合ってますので」
「元はと言えば、頭領が強引に! 連れてきたんですけどね」
すーぐ告発するんだから。もう、本当にすーぐ。テメリオイは、声に出さずも苦笑いをしながら、鼻頭をかく。
「一つ俺からも良いですか?」
「お? 言ってみ?」
「皆さんは父と関わりがあるんですか?」
「いんや。俺には直接関わりがない。直接だったなら、ダンズかフウ……あ」
テメリオイは大事な事を忘れていた事に気がついた。ダンズとフウの紹介もまだしていない。ヤクモに彼らの事をしっかり知ってもらう為にも、ちゃんと紹介しなくちゃならない。
「そうそう。そこのとっつあんが、ダンズで、エルフの色っぽいネーサンがフウね。はい、自己紹介終わり」
「自己ではありませんでしたけどね」と、ミサが的確な突っ込みを入れた所で、フウが口を開いた。
「カルマさんは、この街出身なのよ」
「そうなんですか?」
「うむ。この街ではあまり見ない正義心の強い男だったわいな」
「懐かしいわね。いつ頃だったかしら、彼が騎士になるといいだしたのは」
「つまり、だ。ヤクモ、俺達にとってカルマは英雄であり自慢なんだ。まあ、その偉業を知る人ってのは、この街以外じゃいねぇんだけどな。だからこそ、俺達だけは忘れちゃならんのさ」
「だからよぉ!?」
高圧的な態度で会話を一蹴りしたのは、ラ・ムルテの頭をつとめる男・シリウス。コイツは危険だ。スコルピウスの次に人族で勢力のある集団ではあるが、手段を選ばない事でも有名。血気盛んはいい事なのだが、技量と欲望の対比が等しくないのだ。功を急ぎ過ぎるのは上手くない。非常にうまくない。
一般人ならそれでも構わないが。人を動かす者がそれでは、いつか壊れてしまう。過去のテメリオイがそうだったように。
「過去の話とかよぉ!? どーでもいいんだよ。お前もおもうだろ? なあ!? リーハルド」
隣に座る男・リーハルドは、シリウス達のような武闘派とは少し異なる。ペテルギウスは主に情報収集や商売の方を生業にしてるのだ。
眼鏡をクイッと上げ──
「いえ、僕はどちらでも……」
「まったく湿気てんな。此処で一番大事なんはなぁ……ヤクモといったな?」
前のめりになると、鋭い眼光をヤクモに向けた。
「お前、戦えんのか? 生半可な覚悟じゃ、死ぬぞテメェ」
「それは……」
「他所様の街の事情に首を突っ込んだんだ。分かってるんだろーな」
「それは、わっちが!」と、間に入るリュカに大して、言を強める。
「お前は黙ってろ、魔人──で、どうなんだよ?」
「……戦えます」
「だ、そうだ。じゃあ、話を続けてくれ」
こりゃあ、シリウスも相当ピリついてるな。ちょっとふざけ過ぎたか。云々、少しだけ反省しながら、テメリオイは落ち着いた面持ちで、口を開く。
「皆もわかっている通り、アヴァロンが魔獣の襲撃にあい半壊状態に陥っている。正直、魔獣が街近辺まで近づいてくる──なんざは、日常茶飯事だ。けれど今回は違う」
「そうさな。奴らめ、統率力を持っていたわいな」
魔獣とは、理性のない獣だ。本能に従順であり、故に共食いだってする。他種族と共存なんて以ての外だ。と、テメリオイは長きに渡る経験で理解していた。
しかし、今回の襲撃は彼の考えを覆すものだったのだ。
「まるで……そう。まるであれは、意図しておこされた狂乱必死」




