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継ぐ者達《オルデン》

 リュカ曰く──

 アヴァロンを三分割し、各所を治めている三人の代表者を【継ぐ者達(オルデン)】と呼称しているようだ。エルフ族にドワーフ族。そして、人族。


 この三種族で傭兵都市・アヴァロンは成り立っているらしい。とは言え、仲が良ければ三分割する必要があるはずもなく。毎度の事、争いは絶えなかったらしい。


 ヤクモが聞いていた【エルフ族】は、お淑やかで、精霊のように美しくて、癒しを運ぶ者とは大きくかけ離れているようだ。いや、もしかしたらエルフ族だけは温厚かもしれない。


【ドワーフ族】は、発明者と呼ばれてるぐらい手先が器用だと聞く。刀鍛冶の事で学べる事があったなら──と思ったが、リュカの話を聞く限り難しそうだ。


 しかし現・継ぐ者達(オルデン)の一人、テメリオイに代替わりしてからというもの、殴り合いにはなっても命が無くなる事はかなり減ったらしい。


 その話を聞いた時、ヤクモは素直に尊敬の眼差しを彼の背に送っていた。


【三種族会議】は、継ぐ者達(オルデン)を筆頭に力のある者達が集まって今後についてや、起きた事件、落とし前の付け方。などを話し合う円卓の場らしい。


 そうこうしている間にヤクモ達は目的の場所に辿り着く。立ち構えるその建物は、通り過ぎてきた建物よりも一際デカくて、にも関わらず損傷がかなり少ない。


「どうした? ヤクモ」

「なんでこの建物だけ綺麗なんですか?」

「これが綺麗? 一番古い建物だぜ? ……っとまあ、他がこんなザマじゃそうさな。俺達は此処を死ぬ気で護る。三種族関係なく。此処が俺達が俺達である為に大切な場所ってぇのは、皆分かってるんさ」


 いままで見せていたふざけた態度はどこかへ。ヤクモの瞳に写る彼は。建物を見上げるテメリオイの横顔は、強い信念を感じた。


「頭領、皆様お怒りです」と、先に入っていったミサが言うなり、テメリオイの目が泳ぐ。


 さっきの表情が嘘みたいに、だ。テメリオイ。とても不思議な人だ。


「あらら。まあ、ほら! 笑顔で行こうぜ」

「お前が一番笑っておらぬがな」


 でも、テメリオイが言うようにこの建物の周りは警備が多い。武装した集団が、時々、他種族を睨み付けながらも任を全うしている。物々しい雰囲気に唾を飲み込むと、ヤクモは皆の後をついて進んだ。


 建物内は一本の通路があり、左右には武器が飾ってある。通路は明かりは灯っているが、ちょっと薄暗し、良く響く。


 そして──開けた場所に出るなり、目に入ったのは大きな円卓。そこに椅子を添え座るもの達だった。


「随分とおせーじゃねぇかよ、ワレ」


 野太い声音は威圧感まるだしに、テメリオイを威嚇する。鋭い眼光を向けたのは、筋骨隆々とした小柄の男だ。体毛は濃く、眉毛が伸びてるせいで余計に目が鋭く見える。彼がリュカの言っていたドワーフだろう。にしても、何たる威圧感。身が竦むよ、怖いよ。


「いんやあ。ごめんごめん。ちょっと腹痛でさ! ──ミサが」

「倒置法で私に罪を擦り付けるのやめてください」


 この人、さらっと二つも嘘ついたぞ。


「にしても、ちょっと肩凝ったんじゃねぇの? とっつあん」


 いつの間にかドワーフの後に立ち、肩を揉み始めるテメリオイ。


「む……まあ、武器生産が忙……なにやってんじゃ!いつの間に! ワレこら!」

「うひー怖ッ」と、両手を上げるなり、次は民族衣装を着こなした耳の長い女性の隣に座るテメリオイ。多分、彼女がエルフなのだろう。


「──で、そっちは最近どうなのさ?」

「私達は私達で色々大変なのよ。最近森がねぇ」

「やっぱり、魔獣が原因だろーね。あ、ミューレちゃん! 此処にお茶一つね!」


 後ろで立つエルフが声を震わせた。


「なんで私が、お前の為にお茶を出さねばならんのだ!!」

「俺は、ミューレちゃんがついだお茶、格別だと思ってるぜ!」


 この人は──凄い。色んな意味ですごい。


「あの、ミサさん。テメリオイさんは、いつもこうなんですか?」

「……。そうなのよ。ごめんね、ヤクモ君」

「謝る事じゃないです。ただ、リュカから聞いてたイメージとは全然違ったもので」


 見る限り、敵対視してるとは思えない。似たような光景ならザザンの酒場でよく見る風景だ。本当は仲がいいんじゃないのか。そう思っていた矢先、机にコップが強く叩きつけられた。


「もういいだろ、テメリオイ。お前は、ふざける為にここに来たのか?」


 切り出したのは、エルフでもなくドワーフでもない。一人の人間だった。鎧や武器を装備し、後ろには四人の配下と思える者達が立っている。


「しかも、お前らだけだぜ? 毎回毎回、装備もなしによ」


 そう言われてみれば、他の種族も各々、装備をしている。しかも、すぐにでも武器が構えられるように後ろに立つ者達は、柄に手を添えていた。


 テメリオイの奇抜な行動に気を取られていたせいで、全く見えていかかったが、彼等はここでも気を緩めていないのだ。

 これが此処の本来の姿(・・・・)なのだろう。


「いいんだよ、俺達はこれで。これがスコルピウス(おれたち)なんだ。な? リュカ」

「なんで、わっちに話を振るんじゃよ……」

「えー。だってさあ」

「……まあ、そこら辺はなんでもいい。だが、テメリオイ。ここは重要拠点であり、限られた者しか立ち入れない場所だ」


 椅子に座るテメリオイを睨み、ドワーフは言う。


「んあ? ああ、そうだなぁ」

「なら問う。後ろに立つガキはなんだ? 此処はガキが立ち入っていいば──」

「んあ? こいつか? コイツは俺の息子だ」と、悪びれる様子一つなく、笑顔でテメリオイは堂々と言った。


 むす──


「「ぇえええぇえ!?」」

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