互いの事
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豪快に笑うテメリオイは、何だか不思議な雰囲気を持っていた。あれだけ惨憺たる現状が目の前にあるのに。復旧の目処すら立ってなさそうな難題があるのに。彼を見てると大丈夫な気がしてならない。例えるなら、太陽のような存在、だろうか。
「ほんじゃまあ、行きますか!」と、言った直後に何かを思い出したかのような表情を浮かべ、手を叩いた。
「あッ……の前に自己紹介だな」
「頭領……彼等を待たせちゃいますよ」
「大丈夫大丈夫!! 三種族会議なんかよりも、親睦のが大事だろーがよー。なあ? ヤクモもそう思うだろ?」
なんて答えるのが正解なのだろうか。と言うか、急に話を振られても困る。初対面なんだぞ。なんて事をヤクモが心で思いつつも、頼みの綱であるリュカを見る。彼女なら、この場合どう返すのが正解か分かっているはずだ。
なにせ、此処に行くと決めたのはリュカだ。
すると彼女は、事もあろうに両手を上げ、お手上げだと言わんばかりのアピールをしやがった。こうなれば、答えるしかないと至り、口を開けば──
「えー……ッと。はあ」
全く言葉が出てこなかった。
「な!? よく分かってんじゃねえか!」
「今ので分かったんですか? ……分かってないですよね?あまり困らせないであげてください。ごめんね?ヤクモ君」と、申し訳なさそうに笑みを浮かべると、ミサはそのまま話を続けた。
「私はミサ=ジュナ。副官を務めてるわ。よろしくね」と、頭を下げたミサは、均整の取れた体付きをしている。白い軍服の上からでも分かるメリハリのあるボディーラインは、男を魅了してやまないだろう。
長く伸びた黒髪は艶やかで、顔つきはどこか色っぽい。大人の女性代表であるかのような雰囲気は、無意識に目で追ってしまいそうになる。
「なあんだ。時間ないとかいいながら、ちゃっかり先陣切ってるじゃねえかよ」
「──早く済ませたかっただけです。やると言ったらきかないのをしってますから」
「流石に俺の右腕だ。よーく理解してるじゃねえかッ。えっと次はーっと、ライガ! ……ライガ!どこ行った!?」
返事がない。居ないんじゃないのか。
「頭領……ライガは、戦死したじゃないですか」
「あ、そうだったわ。いつも居るから、居るもんだと。ガハハハ」
すごい気まずい。とりあえずテメリオイを見るのが気まずい。ヤクモは堪らず目を逸らし、天井にある隙間をチラリとみる。
「……どぅあ!?」
「どうしたのじゃ? 少年」
「いや、ほら……そこに」と、震えた指で指す。
もしかしたら魔獣かもしれない。本能的に柄に手を添えてたヤクモを目の前に、テメリオイは頭をポリポリかいた。
「おい、斬るのはやめてくれよ?ありゃあ、俺の仲間だ」
「なか、ま?」
「おう。カエデ! 降りてこい」
そう言うと、黒い影が天井から音もなく落ちてきた。
「────シュタッ」
自分で効果音を付ける人に初めて出会った瞬間だった。
黒く長い髪は一本に纏められた少女。背丈はリュカと然程変わらないが彼女よりも幼げだ。何より驚いたのは、まるで狼のような耳と尻尾を彼女はもっていた。モコモコしていて気持ちよさそうだ。
「拙者はカエデでごじゃる! 忍びをやっているで候う!!」
「忍び?」
聞いたことがない。
「影に紛れ気配を消し、相手の首を刈り取るのが忍びでごじゃる」
「おい、カエデ。自己紹介はいいけど、なんで俺の首にクナイを当ててんの?」
──確かに。
「す、すまぬ。ついつい」
「ついついじゃねーのっ!」
ゴツンと鈍い音がなった直後、カエデは涙ぐんで蹲る。いやあ、あれは痛そうだ。そんな事を思いながらも、彼女の俊敏さは驚く程に──大して凄くない。
タタタと、小走りでテメリオイの場所に行ったのも全て見えてたし。
「ぐぬぬぬぅー……。主君、酷いでごじゃる」
「カエデちゃん。あっちにお菓子あったわよ」
「なぬ!?」
ケロッと立ち上がると、カエデは奥の部屋に消えていった。
「あの子は一体」
「ああ、あいつは人狼種の生き残りだ」
人狼種。今まで聞いた事も見たこともない。魔人や魔獣の類とは、また違うのだろうか。しかも、生き残りってことは──
「ああ見えて、結構すごいんだぜ? 確か……バールトテイルだっけか?」
「──ビーストテイマーです」
短い溜息を吐くミサの前で、テメリオイはポンと手を叩く。
「そうそう! ビーストテイマー! なんか、魔獣の言葉が分かる? だったかな。俺達の被害がここまで少なかったのは、アイツの力もあったからなんだよ」
「それは凄いです!」
「っと……ここに居るのはそれぐらいか……。わりいな、ヤクモ。あとは出払っちまってるみてーでよ」
「いや、気にしないでください」
「そうか? んじゃあ、最後は俺だな」と、親指を左胸に当てて言った。
「テメリオイ=ダルアル。スコルピウスのリーダーをやってる。宜しくな」
テメリオイが差し出した手を掴むと、ニカッと笑う。彼の手は大きく、ゴツゴツしていて逞しい。包容感と例えるのが正しいだろうか。彼なら守ってくれる。そんな気持ちにヤクモはなっていた。
「宜しくお願いします」
「にしても、いい手をしてるな。ヤクモよ」
「え?」
「俺はこれでも、色んなヤツを見てきたからわかる。この手は努力をしてきた者の手だ」
初めて認められた。今まで、好き好んで反逆者の息子が打つ物を、手に取るものなんて居なかった。いくら鍛錬しても。いくら励んでも。讃える言葉はなく、ありもしない話を噂され、囁かれ──
涙を堪え、口の端を噛み締める。
「可愛い奴だな、お前よぉ! ガハハハ!!」
「頭領……そろそろ」
「──だな。行くか」
「武具はどうなさいますか?」
「要らねえよ、俺はただ話に行くだけだ。お前らも武器は置いてけよー」
こうしてヤクモ達はテメリオイの元、移動を開始したのだった。目指す先は、他の二種族が待っている場所。そこで一体、どんな会議が繰り広げられるのだろうか。
「そもそも三種族会議ってなんなの?」
「んあ? ああ、三種族会議。そもそも、この街・アヴァロンには、大きく分けて三つの勢力があるんじゃ──」
短編に登場した子の種族をだしてみました。笑




