向かうは風車の街
ヤクモ達は周りを警戒しながら風車の街・ヒューランへと歩みを進める。平野が続くため、視界は良好。健やかな風が髪を撫でる。
「──少年」
「ん?なに?」
「少年の刀は魔剣の類いなのかの?」
「魔剣ッて、あの魔剣?」
前衛と後衛に分かれる決定的な理由が一つある。人は【闘気】と【魔力】、どちら片方しか保有出来ない。闘気がなければ武技等を使えず、魔力がなければ魔法を使えない。
補う為に発明されたのが【魔剣】である。魔剣は、魔法士が魔石に魔力を込めた物を剣を作る際に合わせて出来る武器。魔剣は闘気と魔力が混ざる事によって、飛躍的に力が倍増する。属性もまた多様であり、編まれた魔力の強さは魔法師の基礎能力に依存するもの。
だが、魔力を魔石に保管する技術も高度であり、簡単に手に入るものではない。高価なものだと、家を一軒買えるぐらいの値段になるとか、ならないとか。
ただ──魔剣には大きな欠点がある。それは消耗品だと言うこと。結局、使っていれば魔力は枯渇し、ただの剣でしかなくなる。故に、魔剣に依存した冒険者は良い終わり方をしないと良く聞いたものだ。
「そうじゃ」
「いんや、これはただの刀だよ」
「にしては……斬れ味も衰えぬし」
「ああ、俺のユニークスキルの影響だと思う」
「なるほどのぅ。して、少年は武技を使わぬのか?」
「使わないんじゃなくて使えないんだよ。俺は教えてくれる人が居なかったから」
「ふうむ。ならアヴァロンについたら、教えてもらえばよいな」
そうか。アヴァロンは傭兵の街。武技を扱える人物が殆どだろう。期待に胸を膨らませていると、隣を歩いている女性が口を開いた。
「あの……皆様はアヴァロンに行かれるのですか?」
「そうじゃ。お前さんは、アヴァロンを知っておるのじゃな」
「行ったこともないのですが、行商人の方が話してたのを聞きまして」
「何かあったのかの?」
リュカが訊ねると、女性は「はい」と頷いた。
「なんか、魔獣の侵攻を受けているだとか」
焦りを顔に出すヤクモの横で、リュカは平然とした面持ちを見せる。動揺もせず、表情一つ変えず、手を後ろで編んで──
「ふうん。まあ仕方がないの」
「仕方がないッ……て、知り合いも居るんでしょ?心配じゃないの?」
独立した街であるアヴァロンに、騎士の救援は一切ないと考えて良いだろう。
「心配しても仕方がないじゃろ。今のわっちらが、何か出来るわけでもあるまいし。それに大丈夫じゃよ。奴らはそんなヤワじゃないからの。それよりも、お前さん」
「私、ですか?」
「うむ」
「お前さん達はどっから来たのじゃ?その痣は」
女性は手首の痣を押さえ、視線を伏せる。何処か重々しい空気が流れる中で、緊張感を覚える。
「私達は囚われていました」
「何処かわかるかの?」
「リュカ、これって」
つい最近、リュカから聞いた魔人製造の話が脳裏をよぎる。彼女はもしかしたら、素材として用意されたのではないのか──と、思い至るのは必然だった。
「分かりません。覚えているのは、朦朧とした意識下で何かから逃げてきたって事だけです」
女性は眉間に皺を寄せ、辛そうな表情を浮かべた。きっと必死に我武者羅に逃げてきたのだろ。これ以上聞くのは相手にかなりの負担になるに違いない。
リュカもヤクモと同じ事を考えて居たのだろう。前を見るその瞳には、悲しみが伺えた。
手掛かりはなし。だとしても、奴隷制度が廃止された今、枷の跡は不可解すぎる。しかも、極度のストレスを与えられたのか、まだ若そうな見た目に反して、ごわついた赤い髪には、白髪がかなり混じっている。罪人だったとしたなら、普通に考えて子供と一緒にも居るはずがない。隣を歩く女性は間違いなく暗躍する何かに捕まった。
「……そうか。嫌な事を思い出させてすまぬな」
「いえ。私こそお力になれずにすみません」
「気にする事ではない」
リュカが指をさす先には街があり、大きな風車が羽を回している。
「ほれ、あそこがヒューランじゃ」と、リュカは明るい声で言う。
「じゃあ、まずは宿をとろうか。お母さん達のも、俺達で用意しますから」
「……え?そんな」
「良いですよ。逆に、俺達ができる事はそれぐらいしかないですが」
「ありがとうございます……なんてお礼を言って良いか……」
涙ぐむ女性にヤクモは、優しく語りかけた。
「いいんです。自己満ですから。もし恩に感じるのではあれば、俺達が今度、何かに困った時は助けてください」
「は、はい!その時は全力でお助けさせて頂きます!!」
こうして四人は風車の街・ヒューランの中へ──




