緑鬼
ここまで読んでいただきありがとうございます。ただいま、最強闘神、人間界でスローライフをおくりたいを連載しております!よろしければ、そっちは軽い感じに書いてまいりますので!
「でも、ここからアヴァロンまではどうやって?」
「わっちの翼を用いて途中まで飛ぶ。して、アヴァロンに着くにはマファバを徒歩で抜ける」
「マファバって、山岳地帯だよね?」
「そうじゃ。あっこらへんの気流は複雑でのぅ。わっち一人なら行けるんじゃが……少年を連れてとなると──」
何かを企むかのような、誇った表情をするリュカの前に手のひらをかざして言った。
「結構です」
「なあんじゃ、つまらんやつじゃのー」
「もしもの事があったらどーするのさ」
云々、やり取りをしながらも出立したのは、一夜明けて太陽がてっぺんに差し掛かった辺りだろうか。過ごしやすい気候に心を和ませたのも束の間、再び腕をロックされそうになるヤクモ。
こんな姿を誰かに見られたら恥ずかしくて死ねる。なんてことを話したら──
「人に見られるような飛び方はせぬから大丈夫じゃ!」と、見事、親指を天に向けおったて、牙にも似た八重歯を覗かせてリュカは言った。
──伝えたいのはそこじゃない。と、思いながらもヤクモは羞恥を押し殺し情けない姿を受け入れた。
「リュカ、ちょっとあれを見て!」
「なんじゃあ?」
ヤクモが見たのは、魔獣に襲われている荷馬車だ。数は六匹か。見た所、傭兵や冒険者の姿もない。
「急いでいこう!小さい子が危ない!」
「わ、分かったのじゃ」
──無事でいてくれ。そう願ったヤクモは、リュカと共に木の影に降下。急いで馬車の元へ駆け寄った。
「大丈夫!?」
「え……ぇえ。私達は何とか……でも」
子供を庇うように抱きついていた女性の視線の先。御者台に乗ったまま商人は、顔面を潰されてる。
ヤクモとリュカが二人を囲う形で立っていると、物陰から一匹のゴブリンが姿を現した。鼻を突く異臭を放つそれは、もいだ腕を齧りながら、醜悪な顔向け「ゲレレレ」と、笑みを浮かべる。
残りは──そう思った矢先、次々と顔を見せたゴブリン達は計八匹となった。奴らは、ヤクモ達に気が付くと、持ってる腕や足を投げ捨て、ゾロゾロと近寄ってくる。
ヤクモは心を痛め、悲惨な現状に眉を顰めながら。それでも、鯉口を切っていた刀を鞘走らせた。
ゴブリンが持ってる武器は錆び付いた槍に剣。後は、棍棒か。
「少年。早くこの場を離れなきゃまずいぞ」
「大丈夫だよ、リュカ。ゴブリンなら何回も倒した事がある」
「……真に恐れなくてはならぬ事は狂乱必死じゃ」
「狂乱必死?」
そんな話聞いたことがない。間合いを詰めるゴブリン達に警戒しながら訊ねると、リュカは短く頷いた。
「簡単に言えば魔獣が魔獣を呼び寄せる事じゃ」
「呼び寄せ?そんな事いままで」
ヤクモだってそれなりの場数は踏んでいる。だがそんな話を聞いた事もなければ、当然、経験したことも無い。
「そりゃあ、そうじゃろ。狂乱必死は、今みたいな現状──死体が転がっている状況下で起こったりするからな」
確かに今までヤクモが経験してきたのは、単なる討伐。来んな惨たらしい現場は初めてだ。
「じゃから早く終わらせるぞ、少年」
「分かった!!」
強く刀の束を握れば、峰には数字の十の文字が浮かび上がる。ヤクモはこれが何なのか、未だに理解を完璧にしてはいないが。どうやら、数字が上がるにつれて威力が増すようだ。
「行くぞ糞野郎」
呼吸を整えたヤクモは、刀を中段に構える。この時、目から取り入れる情報──ゴブリンが武器を構え、振り下ろす、あるいは突きを繰り出す。それらが非常にゆったりと見えた。
無我の境地、その断片に触れたヤクモは、口の端から細い息を漏らすと同時に刀を振り下ろす。
鍛錬された刀は、ゴブリンの骨を難なく両断し、刀を返し首を跳ねた。だが、血糊を払っている暇はない。ヤクモは、その流れに身を任せ、もう一匹の頭蓋を叩き斬った。真っ二つになり、倒れるゴブリン。
「ぐギャ」と短い断末魔が鼓膜を掠め、臓物はボタリと地面を叩く。
死を運ぶ狼に比べて、ゴブリンは弱い。苦戦を強いられることなく、それこそデス・パレードが起こる前に窮地を脱出できた訳だが──
「俺が三匹倒してる間に五匹……」
結構な速さだったと自負していた自分が恥ずかしい。と、ヤクモは少し耳を赤らめる。
「なんじゃ?少年」
しかも息も上がってないし。リュカ──彼女は間違いなく強い。ヤクモが出会ってきた誰よりも。
「いや、なんでもない」
「……ふむ?まあ話は後ほどじゃ、確かこの先に小さい街があったじゃろ?」
「えっと……確か、風車の街・ヒューランだっけか?」
「うぬ。そこにゆくゾ。お前さん達も、動けるかの?」
「は、はい!!」
「わっちも魔力が足りぬでな、ゴブリン達を燃やせぬ。他の奴らが来る前に、この場を離れるぞ!」
「分かったよ」
そう言うと、腰を抜かしてるのであろう女性に視線を合わせて、ヤクモは言った。
「お母さん、その子は俺がおんぶします。この距離を抱っこして歩くのは大変でしょうから」
「あの……何から何まで、すみません」
頭を下げる女性の手足には、枷の後が残っている。彼女達は一体どっから来たのか──
「いいですよ。じゃあ、僕?行こうか」
「うん」




