向かう場所
2章突入です
リュカから聞いたのは仲間の安否は不明。加えて、何処に居るかも分からないとの事だ。ギルドに捜査依頼も当然出来るはずがない。
「じゃから、一度戻ろうと思うんじゃ」
「戻るって何処に?」
「アヴァロンじゃ」
「アヴァ……は?」
耳を疑った。彼女が口にした言葉は、予想外過ぎた。
「なんじゃ?そんなキョトンとして」
「いや、だってアヴァロンて、あのアヴァロンでしょ?」
「そうじゃが?」
噂には聞いた事がある。ヤクモ達が住んでいる場所は、王が定めた法の元にある国──だが、一箇所だけ独自の法を作っている街があると。そこでは毎日、争いがあり血が流れている。治安は悪く、騎士も居ない。荒くれ者達が集う街。
何故、彼等が裁かれないのか。諸説は何個があるらしいが、ヤクモが聞いたのは街の外で一切犯罪行為を行わない事。それと、彼等全員が傭兵だからだ。
騎士が秩序を重んじ、統率された軍隊だとして。傭兵は、秩序よりも効率を求め、手段を選ばない戦闘狂ってイメージが強い。
だからこそ、彼等を国は一つの勢力として、収めておきたいのだろう。その為に恩を売っているのではないのだろうか。
「──に、しても危険すぎるんじゃ?」
「大丈夫じゃよ!あやつらは、気前もいいし。なにより、情報屋があっこには居るんじゃ」と、ヤクモの不安そうな対応に笑顔でリュカが応える数時間前──
「…………ッ」
ヤクモの家の前で立つクザは、背後に人の気配を感じ、踵を返すと同時に刀を気配の正体である男の首筋に当てた。
「あーらら。良いんですか?彼を逃がしちゃって」
殺意を込めた一太刀を防ごうとも避けようともせず、平然と男はクザを見ながらそう言った。
「ビリバ、貴様……あのガキ達にヤクモを殺せと命じたな?」
クザは自分の配下を使い、酒場でヤクモとパーティを組んでいた男達の話を盗み聞きしていた。彼等が行った行動も全て。ある男の助言の通り、上手く出し抜けたとも言っていた。
「だとしたら、何だって言うんですか?」
「あれは俺の獲物だって話をしたよな?」
首筋に添えた刃を押し込む。
「ハッ?獲物?何を言ってるんですか?影ながら守っていた事をしらないとでも?」
「なにを馬鹿馬鹿しい」
「してもいない借金のかたにはめて、無理やりに生きる理由を与えて。最後には、金貨を渡して逃がしたじゃないですか」
──恩があった。クザはカルマがつくった孤児院の出である。育てられないって理由で両親に捨てられたクザを、金銭も取らずに快く引き取ってくれた恩師。
そして色々な事を経験・学ばせてもらったのだ。七年前、あの事件が起きるまで。あの事件はクザから大切なものを奪い去った。姉御肌のリュカや料理が下手なくせに料理をしたがるイルベ。そして同じ孤児院の友達。
「言っておきますが、我が主は心から貴方の事を信用なんかしていませんでした。孤児院……唯一の生き残りである貴方の事なんてね」
カルマが亡き今、クザに出来ることは組織に怪しまれないように、ヤクモの安全を見守る事だけだった。
だが爪が甘かったようだ。
「先にお前を殺しておくべきだったよ」
「怖い怖い。ただ、貴方は思い違いをしていますよ」
「思い違い……だあ?」
「貴方は、あの英雄にはなれない。大切な者も場所すらも守れない」
「なにを──」
「レイラさんとシルクさん。いやあ、実に仲のいい母子ですね。それに綺麗です。分かりますね?」と、大柄なビリバが言った直後、クザを突き動かしたのは黒い衝動だった。
柄を握った手にはより力が入り、刃は動脈を断ち切らんとくい込み始める。だが、そうさせないのは冷静足らんとする精神。
青筋を立たせたクザの呼吸は乱れ、肩は上下に動く。
「俺の家族に……家族になにをしたぁぁあ!!」
語気を荒らげ放たれた咆哮。殺意と敵意を剥き出した双眸に穿たれ、尚もビリバは表情一つ変えず口を開いた。
「まだ……何もしてません」
いつの間にか背後に立つビリバ。ほんの少し前まで確かに目の前にいた筈だ。
「分かりますね?大切な人を今度こそ守りたいなら」
「……貴様」
刀を下ろし、クザはビリバを睨みつける。
「実に哀れで滑稽ですねぇ。貴方ごときが、出し抜けるはずないんですよ。では、参りましょうか、主の元へ」
ブクマが増えて気分が良かったので、もう1話投稿しちゃいました。笑
ありがとうございます




