表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/55

剣聖と呼ばれた男

読んでいただきありがとうございます

 全てが無くなった訳じゃない。自分自身を鼓舞し、未来を夢みる。


「でも、君は……一体何者なの?」

「そうじゃな……信用してもらう為。そして今後の為にも話しておく必要があるじゃろ。わっちのこと。わっちと師の事。──目的を」


 コップに入ったコーヒーを口に含み、ゆっくり呑み込むとリュカは口を開いた。


「師は──カルマさんは、国の英雄であり、共に戦った戦友であり、わっち等の救世主じゃった」

「国の……英雄?救世主?」


 ヤクモは父から何も聞かされていないかった。突拍子もない事を言われた所で、実感がわかない。


「キリア平原大戦。少年もしっておろう?」

「キリア平原大戦て……あの?」


 キリア平原の大戦──

 魔獣陣営・魔竜陣営。そして人類陣営で行われた、大規模な戦い。百年続いた大戦。終戦したのは六十年前。その傷跡は未だキリア(そこに)残っていると、聞いた事がある。


「そうじゃ」

「……ん?いや……いやいやいやいや」


 父の年齢は三十七歳だ。二十歳の時に産まれた子供だと聞いた事がある。やっぱり、同姓同名なだけで違う人なんじゃ。と言うか、目の前に居る少女・リュカは何を言っているんだろうか。


 百年も前の話を、あたかも最近のように──


 見た目だって同い年か、少し下ぐらいに見える。あの大戦を生き抜いた者にしては、些か──いや、だいぶ、かなり若すぎる。


「カルマさんは二つのユニークスキルを持っていたんじゃ」

「二つ?」

「一つが【剣聖】」

「剣聖?」

「うむ。類まれない闘気を帯びた一撃は、空を裂き大地を割る。間違いなく剣士の中では最強に近いじゃろうな。しかし、武器がその威力(・・・・)に耐えられないのが欠点じゃったが。“聖”の名を連ねるスキルは、どれもが逸脱した力を持っているといわれている」

「なるほど……」

「もう一つが、転受(てんじゅ)


 二つとも聞いたことがない。


「これは、秘術そのものじゃ。魂を他の肉体に移し替えるもの」

「まってくれ」

「なんじゃ?」

「なら、元々あった魂は?」

「……皆が、平和を願っておった。人類が生き抜くには、カルマさんの力は必要不可欠じゃった。よいか?少年」


 どことなく哀れむような、悲しむような表情をヤクモに向け、リュカは続ける。


「人類で最強だったとしても、それはあくまで人類の中」だけ(・・)じゃった。じゃからこそ、わっち達──魔人も造られた訳じゃが、この話はまた後じゃな」

「リュカが人によって……」

「瀕死の重傷を負う事も、いくら剣聖だったとしても多々あったのじゃ。最強であっても無敵じゃない。じゃから、カルマさんに身を空け渡す事は人の誉だった」

「つまり、父さんは何回も転受を繰り返してたって事?」

「そうじゃ」

「そんな……そんなの、犠牲になった人が──」

「あまりにも可哀想と思ったかの?」


 ヤクモは短く頷いた。寧ろ幻滅をしそうな勢いだ。父はよく言っていた。「命とは一つしかない。大切にしなくてはならない。分かったか?ヤクモ。お前の剣術は、人を殺す為じゃない。人を生かす為にあるべきなんだ」と。

 それが、人を殺めてしまう武器を扱う者の心構えであり覚悟だと。


「自分が生きる為に他者の未来を奪ってただなんて」

「少年……お前さんは、あのヘルハウンドの攻撃を受けてどうじゃった?」

「どうだったって……」

「痛かったじゃろ?」

「うん」

「カルマさんは、毎回その痛み──いや、それ以上の痛みを受けていたんじゃよ。それこそ、腕が弾け飛んだり、臓器が破裂したり。何回も何回も激痛に襲われ続けた。そして、また同じ苦痛を伴うと分かっていても、自ら一番危険な場所に攻め入っていた」


 ヘルハウンドに噛み付かれただけでも、絶叫したくなる位の痛みだった。頭がおかしくなってしまいそうな程に。父はそれ以上の痛みを毎回。ヤクモの想像をゆうに絶する痛みであるのは間違いなかった。


「肉体は変わっても魂は変わらぬ。変わらぬということは、魂に刻まれた恐怖は蓄積される一方じゃ」

「……」

「じゃが、逃げ出さなかった。何故だか分かるか?」

「分からない」


 自分だったら逃げていたに違いない。耐えらるはずがない。楽になりたいと思うのは当たり前な事だろう。


 自分の浅はかな否定を責め、ヤクモはリュカから視線を伏せた。


「皆の命を背負っているからじゃ」

「……」

「義を見てせざるは勇無きなり。少年もしっておろう?」

「うん」

「カルマさんは、正に正義の権化ごんげじゃった。勇ましくあり、英傑じゃった。そして、戦いが終わり、処分される筈のわっち達を救ってくれたのもまた、カルマさんじゃった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ