王立魔法高等学校
オリビアの婚約発表から数週間後、彼女は王都に向かっていた。『王立魔法高等学校』の入寮日だ。
運河の碧に架かる跳ね橋を渡り、王都の城門をくぐる。
馬車の窓から覗き見ると、石造りの家々が立ち並ぶ。石畳の上を進むと、正面に大聖堂が見えた。
ステンドグラスが太陽の光りに照らされて、キラキラと色とりどりに光輝く。
その手前には、噴水が吹き上がり、周りには露店が並んでいる。
馬車の揺れに身を任せ、サルビアとの会話を思い出す。
ピンク頭がやって来るまで、後二年。それまで、婚約者のハリー・ヴァルトスとの仲を深めておく。ピンク頭に心変わりしないように、仲良くなる。
サルビアと一生懸命考えた対抗策だ。これ以外は、全く思い付かない。
ハリーとオリビアとの仲が、邪魔できない程仲が良い、と思ってもらえれば、手出ししてこないのでは?と考えた。
腕につけている『おまじない』のブレスレットを眺めながら、(断罪だけは避けたい)と、強く思うのだった。
双頭の王城の入口を、守備兵に見守られつつ、通り抜ける。正面に広場が広がり、放射線状に石畳が広がる。
正面を進むと、運河を挟んだ小高い丘に王族の居城がある。ここの門からでも、天守塔が見えた。
王立魔法高等学校と寮は、正面左に位置する。馬車は、左の路地を進む。
再び石造りの橋を渡り、王立魔法高等学校の門をくぐる。エントランスは、入学生の馬車で賑わっていた。
ウェントスの侍女と侍従とも、ここでお別れだ。彼らは、この後いくつかの私物を寮に運んでもらう手筈になっている。
別れの挨拶をすませ、トランクを一つ握りしめ、開けられた扉を進む。
(さて、ここからだ)と、左肩のニョロちゃんを見つめ、気合いをいれるのだった。
※
ホールで、入寮手続きをしていると、
「オリビア嬢、婚約おめでとう」
と、声をかけられた。次兄フォルティスの友人の弟、ウラニス・フォンターナだ。
先のパーティーで、会えずに助言のお礼が遅くなった事を詫びると
「僕はなにもしてないよ?」
と、彼女の定位置にいるニョロちゃんに、ちょっかいをかける。
「この子さぁ、少し大きくなった?」
「まぁ、1年経ちましたから……」
「いつまで肩に乗せておくの?」
そう言われて、ニョロと顔を見合わせた。そういえば、いつまで乗っていられるのだろう。乗せられなくなったら、どうすればいいの?氷魔法が使えなくなる?
「それに、寮に持ち込みできるの?」
心配しているのか、からかっているのか。
「まぁ、寮規律に動物の持ち込み不可とは、書いてなかったから、平気だとは思うけど」と、ニヤニヤ笑う。
あわてて手続きをしている方に尋ねると、書類をパラパラめくりながら『精霊動物で登録提出』されているので、問題ない。と言われ安堵する。
当のウラニスは、笑いながら手を降り去っていった。
入寮手続きを終えた生徒が、寮へと寮母に案内される。部屋は三階の個室で、中庭を挟み、当たり前だが男女で棟が分かれている。
部屋は、ベッドと机、クローゼットが備え付けられている。
机の上には、領地から持ってきたラベンダーの鉢植えが置いてある。
壁は、前もって希望を出しておいたラベンダー色だ。
そして、テラスがあり、中庭に面している。
テラスに出て(三年間無事に過ごせるといいなぁ)と、伸びをする。
ふと、隣を見るとブロンドで透き通ったアクアマリンのような、水色の瞳の令嬢と目があった。
どちらともなく挨拶を交わし、自己紹介を始める。