婚約者
ウェントス伯爵家の大広間で、フォルティスとオリビアの卒業祝いのパーティーが行われている。
彼らの友人や交流のある貴族令息、令嬢も参加しての大規模なパーティーだ。
そこで、オリビアの宣言通りに『赤髪』のハリー・ヴァルトス侯爵令息が、婚約者として紹介された。
「はじめまして、オリビア。仲良くしてくれると、嬉しいな」と、はにかむセピア色の瞳が、優しく揺れている。
『おかしな記憶』のせいで、素直になれないオリビアは、少しぶっきらぼうに挨拶をしてしまった。そして、後悔する。(悪役令嬢そのままじゃない……)
「肩に乗ってる、その子は?」
と、青白磁色の、蛇のようなニョロちゃんを、毛嫌いすることなく、話しかけてくれる。
ニョロちゃんとの、馴れ初めを話す流れで、王立魔法高等学校の話になった。やはり、『おかしな記憶』通り、ハリーも王立魔法高等学校に入学が決まっているそうだ。
(穏やかで、ニョロちゃんにも優しい、こんな素敵な人に、三年後断罪されるのね)と、オリビアは憂鬱になるのだった。
オリビアとハリーの様子を、ハラハラしながら見守っていたサルビアは、二人の会話が弾んでいるようで安堵している。しかし、念には念を。だ。
彼女は、次兄、フォルティスの姿を捜す。彼は、同窓の友人達と語らっていた。ボーイから果実水を受け取り、フォルティスの元へ歩み寄った。彼も、サルビアに気付き、歩み寄る。
「あなたの友人の弟、オリビアの同級生になるのよね?」
「そうだね、何かあるの?」
実はね……と、サルビアは、話し出す。
王立魔法高等学校の寮に入ってしまったら、なかなか会えないし、連絡も取りづらい。
なので、定期的にオリビアの様子を教えてくれて、いざという時に、オリビアの味方になってくれそうな人を、仲間に引き込みたい。という相談だった。
なにより、冤罪からの断罪であることがわかっているので、目撃者になって欲しい。オリビアの側で、見守っていて欲しい。とも思う。
少し考え込んだフォルティスは、
「うーん、いつでも一緒というわけには、いかないんじゃない?異性だし……」
と、回りを見渡す。すると、彼の友人の一人が、声をかけてきた。
「やぁ、フォルティス。君の妹が、王立魔法高等学校に、入学するって聞いたんだけど。僕の妹も、入学するから、挨拶をさせて欲しいな」
フォルティスの友人である、ノア・アルメディスは、辺境に位置する、自然豊かな領地の侯爵令息だ。
アルメディス侯爵家は、代々美術品に大変な関心を持っていて、戦火で貴重な美術品が、失われることを、常々残念に思っている。
フォルティスとサルビアは、「これだ!」と、お互いの顔を見合わせた。
早速、オリビアを呼び寄せ、友人ノアの妹を紹介する。
ノア侯爵令息の妹は、ソフィア・アルメディスといい、若草色の髪が目を引く。
ソフィア侯爵令嬢は、オリビアを見るなり
「あら、この子は?可愛らしい……」
と、ニョロちゃんに、手を差し出す。
たぶん、氷の妖精だと思うと告げ、馴れ初めを話すと、とてもうらやましがっていた。
領地特有の妖精以外は、とても気まぐれで、姿を消してしまうことが、多々あるからだ。
「オリビア様と相性がいいのね。とても素敵だわ」
といい、再会を約束して、別れた。