家族愛
夏期休暇が明け、オリビアは基礎学院の最高学年となった。
早々に行われた試験では、湖畔での特訓の成果が出て、歴代上位に入る点数が取れた。
学課の方も、順調に成績を重ねて念願の王立魔法高等学校への推薦書をもらう事ができ、すべてが順調に進み、無事、基礎学院を優秀な成績で卒業し、秋に王立魔法高等学校に進む事となった。
※※※
夏期休暇に入った数週間後、フォルティスとオリビアの卒業を祝うパーティーを行うため、サルビアや普段王都のタウンハウスにいるビエントも、領地に帰ってきている。
お祝いムード一色になるはずのウェントス伯爵家の談話室は暗い雰囲気が漂っていた。
「父上も、オリビアの心配事を知っていましたよね?」
「なんで、急にそんな話が出るんですか!」
「末っ子の婚約が一番先に決まるなんておかしいです」
口々に父親であるウィントス伯爵を責める。
金糸の刺繍がされたソファーに座り、うなだれているオリビアを、隣に座るサルビアが抱え込み頭をなでている。
ニョロちゃんも、膝の上でオリビアを心配そうに見上げている、ように見える。
向かいの席に座るビエントとフォルティスは納得できない様子だ。
上座に座る彼等の父親であるウィントス伯爵が、言いづらそうに、言葉をつなぐ。
「急な話なので断ってはいたが……」
どうやら、オリビアが優秀すぎたのがいけなかったようだ。『澱み』を抱える領主達が、是非うちの嫁に欲しいと噂になっていたそうだ。
また、上位貴族の侯爵家からの申し出となると、断わりにくいものらしい。
「大変申し訳ないが、パーティーはオリビアの婚約発表の場となる」
しばらくの沈黙の後、ビエントがオリビアの前に出て膝まつき、手を握った。
「僕はオリビアに誓う。何があってもオリビアが大切だし、裏切らない」
それを見たフォルティス、サルビアもオリビアに誓った。
「オリビアを裏切らない、絶対守る」
「オリビアは、私達の大事な妹よ。絶対に守るわ」
父親である、ウェントス伯爵もオリビアを守る。と誓った。
下座に座っていた伯爵婦人が立ち上がり、トレー持った侍女と、伯爵の隣へと移動した。
「母上、それは?」
ビエントが、トレーの上に置かれた、透明・黒・紫の三色の石がついた、6つのブレスレットを見ながら聞く。
「私も、気になって調べてみましたの」
母親である伯爵婦人がいうには、古来『魅了』という魔法があり、人の心を操る魔女がいた。という伝承があったそうだ。
それで、念のため『魅了』避けになりそうな、浄化の水晶・自己防衛のオニキス・魔除けのアメシストを使ってブレスレットを作っておいたそうだ。
「母様ー」と、オリビアは母親に抱きついて、泣きじゃくった。
「私、なんとしてもピンク頭から逃げて、生き延びてみせますわ」
と、決意表明をしブレスレットを身に付けるのでした。
各々がブレスレットを身につけた後、ふとフォルティスが聞いた。
「でさぁ、オリビアの婚約者ってだれ?」
※※※
オリビアの婚約発表パーティーとなってしまった今日、オリビアは初めて婚約相手と会う。
相手と会った数週間後には王立魔法高等学校の寮にいる。
(本当に慌ただしいなぁ)
と、オリビアはため息付きながら、サルビアとドレスの着付けを行っている。
この数日は、とても慌ただしい日々を送っていた。ドレスの最終確認に、装飾品の選別など目が回るようだった。
鏡の中のオリビアが、段々と淑女へ変化していく。それにともなって、覚悟もゆっくりと固まってくる。
(ここまできたら、婚約破棄の未来を受け入れるしかない。断罪になっても家族が助けてくれるはず。大丈夫、大丈夫)
と、オリビアは自分自身に言い聞かせていた。
急に、目の前が真っ暗になって、薄れゆく意識の中でサルビアの悲鳴が聞こえた。
※
ペチペチ頬を叩かれている感覚と共に、目が覚めた。
「オリビア大丈夫?」
サルビアが覗き込んでくる。
「役に立たない未来が見えたわ……」と、オリビアは話しだした。
王立魔法高等学校に、婚約者は入学してくる事、ピンク頭は、第三学年のはじめに『王立魔法高等学校』に平民の優秀学生として編入してくるらしい事が見えた。と、話す。
「結局、物語の修正が入ったのよ。王立魔法高等学校に入ったのに!逃げられなかった!」
オリビアは、悲鳴に近い叫び声をあげる。
「私の婚約者は、赤髪よ……」
運命を呪うかのように、オリビアは、虚空を睨むのだった。