混乱と静寂
「『魔獣』が大挙して押し寄せて来ています」
「防御壁の薄いところに集中してます」
「住民の避難が間に合わない」
ヴァルトス騎士団は、混乱していた。
騒ぎを聞きつけ、王立騎士団員やイザニコスメンバーも集まってきた。
王立騎士団員の中には、よく見知ったウラニスの兄イリオスや、ソフィアの兄ノア、オスカーがいた。
兄達が手際よく指示を飛ばした。 イザニコスメンバーは、住民の避難を手伝うことになった。
騎竜に乗り、移動しようとすると、一際大きな唸り声が聞こえてきた。
そちらに顔を向けると、ピンク色の光線の先に、丘のように巨大な『魔獣』が見えた。
「バカな……」 王立騎士団員が、動揺する。
そこに、選抜メンバーのイーサンとリュカが、騎馬でやって来て、慌てた様子で事の顛末を説明した。
「僕たちじゃ、止められなかった」
「申し訳ない」
―――なんとも言えない沈黙が続き、王立騎士団員が、向かうことになったようだ。
「いくぞ」
スクトゥムが、イザニコスメンバーに声をかけた。
オリビアは、不安な気持ちのまま、指示された地区へ、住民の避難の手伝に向かった。
騎竜の上で、スクトゥムが淡々と説明する。
「あの巨大な『魔獣』は、未発見の『魔』だ。それで、王立騎士団は、住民の安全を確保してから、討伐の予定を立てていたんだ。どんな攻撃方法なのか、どんな行動を取るのかも、全くわからない。」
(ましてや、夜だと全体が把握しにくい。騎士団も対応に苦慮するだろう)
スクトゥムは、焦りを感じた。
「兎に角、住民の避難だ」
皆、いつになく真剣な表情で、前方に見えてきた灯りを目指す。
近付くにつれ、熱気と、異常な雰囲気が感じ取れる。悲鳴と怒号が響く。灯りだと思っていたものは、家々が燃えている炎だった。
火の粉が舞い、昼間のように明るくなっている住宅街の石畳の上を、領民達が着の身着たままで、裸足で走り抜ける。
緊急避難ゲートへと向かう領民達の顔は、大半が、涙や煤で汚れている。
オリビアは、目の前の幼子を連れている母親から、子供を預かりゲートへと急ぐ。
他のメンバーも、それぞれ避難を手伝ったり、誘導したり、各々が今できることを行った。
水や氷魔法を扱える、ウラニスやユリウス、エレ、スクトゥム、それにニョロも、火事を消そうと魔法を放つ。
何度もゲートと路地を往復している内に、獣の唸り声が、聞こえるような気がしてきた。
(気のせいなら、いいんだけど)
オリビアは、何時でも剣を抜けるように、鞘に手を掛けながら走った。
※
「ララ、無理だよ。こいつ!」
悲鳴のように、ハリーが叫ぶ。
ララは、額に汗を浮かべながら、魔力を手のひらに集中させ、ほんの数十メートル先にいる巨大な『魔獣』に、ピンクの光線を放っている。
放っているのだが、まったく消滅する気配がない。そればかりか、ちょっとでも気を抜けば殺られる。それだけは、感じた。
『魔獣』の威圧で、ジリジリ後退してゆく。
(魔力、もう少し魔力が欲しい……)
チラリと、後方でオタオタしているハリーを見やる。
(こいつは、ダメだ。まだ、使える)
「おーい、大丈夫か?」
「王立騎士団だ。後は任せて、避難をしてくれ」
ララ達の後ろに、二匹の騎竜が降り立った。
分かりやすく安堵の表情を浮かべるハリーとは別に、ニヤリとララは微笑んだ。
そして、おもむろに片手の手のひらを、王立騎士団員に向ける。
騎士団員の身体から、黄金に輝くなにやら紐状の物が、螺旋を描きながら、ララの手のひらに吸い込まれていった。
「ララ!? 」
「なっ、何を……」
驚くハリーと、崩れていく王立騎士団員……
「何してるんだ!」
上空で、叫び声がした。見上げたハリーが、つぶやく。
「フォルティス義兄さん……」
その瞬間、ハリーの目には、振り上げられた『魔獣』の腕らしき物と、吹っ飛んでいくフォルティスが映った。
そして、明るくなってきた空に、ピンクの閃光が走ると共に、一際大きな爆発音が響いた。
※
(兄様、大丈夫かしら?)
オリビアは、剣を構え、襲いかかるワーウルフの集団と対峙していた。
背にはウラニスが、少し離れた所には、それぞれ二人一組になったイザニコスメンバーがいた。
住民の避難を確認して、居住地区を出たとたん、ワーウルフの群れに囲まれた。
住宅や街並みを破壊しないように、一体ずつ丁寧に、攻撃魔法で、時には剣を振るい討伐する。
気が遠くなるような作業だったが、領民の生活の為には仕方がない。
空が白み始め、疲労が隠せなくなってきた頃、一際大きな爆発音とピンクの閃光が走った。
その瞬間、目の前にいたワーウルフの一団が消滅した。
「!?」
何が起きたのかわからず、皆、その場で立ちすくんだ。
※
瑠璃色の空の地平線が、だんだんと曙色に染まっていき、崩れた建物の白壁が一際目立つようになってきた頃、兄フォルティスを含む、王立騎士団員の死の報告と共に静謐が訪れた。
後、二話で完結します。金曜と土曜の夜21時に投稿します。
お付き合い、ありがとうごさまいました。




