悪巧み
その日の夕方から、侯爵邸でパーティーが開かれていた。
王立騎士団から派遣されている団員や、イザニコスは駐屯地に宿泊していたが、ハリー達選抜チームは、侯爵邸に宿泊していてので、彼等の為に開かれたようなものだった。
『魔』が活発化していて、王立騎士団にも応援を頼んでいる最中なのに、と一部のヴァルトス騎士団員が不満を洩らしていた。
今回、居住地区に近い所にも『魔』が出現しているので、万が一に備え、イザニコスメンバーで居住地区に、防御魔法をかけるように伝えられた。
結界士も、上空に結界を張る準備をする。
王立騎士団では、非常用のゲートを作っておいた方が良いだろうと、王立魔術師団に応援を頼みに、ゲートへ向かった。
※
「今回も、頼むな!」
オリビアが、割り当てられた居住地区で、防御壁を作成していると、兄フォルティスの呑気な声が聞こえた。
と同時に、さらに王立騎士団に応援を頼まないといけない程の『魔』達が発生しているのだろうか?と、不安になった。
そんなオリビアの考えを察したのか、フォルティスは、オリビアの頭を撫でながら伝えた。
「心配するなよ。今来たところで、前から決まっていた事だよ」
薄暗くなってきた居住地区で、フォルティスも一緒に防御壁を作りながら、二人で他愛もない話をしていた。
すると、なにやら、外が騒がしくなってきた。
手を止め、防御壁の外をのぞいてみると、ヴァルトス領の騎士団員達が、慌てている。
「何かありましたか?」
フォルティスが、王立騎士団の腕章を見せながら尋ねると、驚きの答えが返ってきた。
※
「どうしよう。父上は誤魔化せたけど、学校にバレたら騎竜どころではなくなるよ」
ハリーが、ララの膝に顔を埋めながら、嘆いている。
ララとハリー達、選抜チームは、侯爵邸の客室で、パーティーに参加するべく準備をしていたのだが、ヴァルトス侯爵に、ハリーが呼び出された。
そこで、夏期休暇中のハリー達の行為について、問いただされたのだ。
ハリーは、パーティー所ではなくなり、ソファーに身を投げ、ララに慰められている。
「ハリー……もう、騎竜クラスはいいんじゃない?すぐ卒業よ? 箔をつけるなら選抜でも充分だと思うけど」
「ダメだよ。オリビアに並べないじゃないか」
(また、オリビアか……)
ララは、うんざりする。何かにつけてオリビアと比較する。
(もう、婚約破棄するつもりなんだから、どうでもいいじゃないか。今さら騎竜クラスに行けるわけないじゃない)
自分の膝の上で、嘆いているハリーの頭を撫でながら、どうしたものか。考えていると
「そういや、騎士団の連中が『魔獣』がこっちに向こっている。みたいな事言ってたな」
「へぇー、じゃ明日、殿下達は『魔獣』退治になるのかね?」
向かいのソファーで、イーサンとリュカが話しているのを聞いたララは「いい事を思い付いたわ!」と、自分の考えを彼等、選抜チームに話した。
「その『魔獣』を私達が討伐しちゃえばいいんじゃない? そしたら、殿下も私達の事を見直すんじゃないかしら? 」
「そうだね!討伐しちゃえば、感謝されることはあっても、怒られないよね」
ガバッと起きながら、ララの手を取った。
イーサンが、王立騎士団やヴァルトス騎士団の作戦もあるだろうから、勝手に動くのはどうかと思うよ?と、必死で止めたのだが、二人の決意は変わらなかった。
仕方なくイーサンとリュカも、追従する事になった。
ララとハリーは騎馬に乗り、颯爽と居住地区の外れに向かったが、イーサンとリュカは浮かない顔で、彼等の後を騎馬で追う。
居住地区にいる騎士団は皆、防御壁を作ったり結界を張ったりしていていそがしく、誰もハリー達を気にも止めなかった。
居住地区を出て『魔獣』を探すのだが、闇が深くてよく見えない。
しばらく探したのが、暗闇に包まれて自分達の来た方向も、怪しくなる。
居住地区からは、だいぶ離れた事だけはわかる。
ハリーが、火球を飛ばして辺りを確認すると、昨年『総魔』が発生した辺りだろうと、伝えた。
「この辺りは、『魔』が発生しやすいんだよな」
ハリーは、眼下の暗闇を見ながら、昨年の『総魔』を思い出す。
あの不気味な生き物が、足元で蠢いているのかと思うと、背筋に冷たいものが走る。
「あぁ、あの、気持ち悪いヤツね……」
ララも、足元の暗闇を見つめながら、本当に嫌そうな顔をする。
「丁度いいわ。この辺り一掃しちゃえばいいのよ」
手頃な足場を見つけたララは、そこで騎馬を降りた。
慌ててハリー達も、ララの後に続く。
「一掃するって、どう言うこと? 誰の許可も得てないよ!」
イーサンが、止めようと必死になるが
「ここは、僕の領地だよ? 領民の為に討伐するんだから、父上も喜んでくれるよ」
「ダメだよ。そんな簡単な事じゃないから、王立騎士団にまで応援を頼んでるんじゃないの?」
リュカも、必死に止める。
「うるさい! お前達はララが掃除した後、黙って土地を綺麗に戻せばいいんだ!」
「さすが、ハリー。決断が早いわ。いい領主になれるわよ」
浮かれている二人を見ながら、イーサンとリュカは、何かが急に覚めたような気分になった。
(騎士団に報告に行こう)
(そうだな、手遅れにならない内に止めてもらおう)
二人は、気づかれないように距離とり、その場を離れた。
「行くわよー!」
ララが、上流浄化特化魔法の光線を、右から左へとゆっくり移動させる。
ピンクの光と共に、明るく照らされた土地は、あっという間に、跡形も無くなった。
しかし、動きの遅い『魔獣』は討伐されたが、逃げ足の早い『魔獣』は逃げ出していた。
「ドンドンいくわよ!」
ララは、次々と上流浄化特化魔法を、あちこちに打ち放し、一面まっさらにしていく。
そして、何頭かの『魔獣』は逃げ出していく。
すると、奥の暗闇に何やら蠢いている、大きな生き物が居るよな気配が現れた。
ララは、思わず微笑み、その大きな生き物に上級浄化特化魔力を撃ち込んだ。
大きな生き物……『魔獣』は、立ち上がると丘位の背丈があり、高台に位置していたララ、ハリーと、視線が交わった。
一瞬怯んだララだったが、光線の幅を絞り、巨大な『魔獣』に集中させた。




