『魔』の討伐と社交と
年が明け、社交シーズンも本格的になってきた。
各領地から、タウンハウスに独身の令息、令嬢も出て来て、ますます王都は賑やかになった。
ウェントス領にいるオリビアの両親も、タウンハウスに出て来て、長兄ビエントの婚約者選びに、腰を据えたようだ。
姉のサルビアは、昼はお茶会、夜は舞踏会と忙しく社交を楽しんでいた。
オリビアも、学校が休みの日はタウンハウスに戻り、兄姉のお茶会の手伝いなどをして、過ごしていた。
エレやソフィアなど学校の友人達も、卒業を控え、お茶会に勤しんでいた。
しかし、花薫週間が近づくにつれ、『魔』も活発になり、騎竜クラスのソフィア、エレは、社交に加え討伐も加わり、より忙しくなった。
「もぉ!ドレスか騎士服かどっちかにしてよ!」
ソフィアが、騎竜のニュムの上で吠えている。
「信じられる?もう、卒業後の王宮舞踏会のパートナーの話がくるのよ?王立騎士団に入りたいから、婚約は考えてないって断っているのに!」
「いいじゃない。踊るくらい。婚約しなければいいだけでしょ?」
ムッとしたソフィアは、ニヤニヤしながら
「エレ、婚約者を決められる前に、精鋭部隊の彼、押さえとかなくていいの?」
と、聞いた。エレの顔がみるみる紅くなる。
「そんなんじゃないからっ」
エレの騎竜、ルナのスピードが上がった。
「君たちはまだいいよ……僕なんて国外から来るんだよ?遊びに来て下さい。って、簡単に行ける距離じゃないよね……」
「ユリウスは、外交の駒だから大変だ」
「駒って、殿下……ヒドイ……ウラニスは、どうなのよ?」
「俺は、兄の婚約者が、まだ決まってないから、先にそっちに集中してる」
「じゃぁ、平和なのは、殿下とオリビアとウラニスか……良いこと思い付いた!」
「しばらく討伐は、殿下とウラニスとオリビアで行けばいいよ」
名案じゃない?と、エレとソフィアの同意を取りたかったのだろうが、返事は、ため息と呆れた視線だった。
※
最近の討伐は、忙しい。たまにしか現れないはずの『総魔』が複数発見されるし、『魔獣』の数も多い。
『澱み』や『魔』の状態の物は、ほとんど見ない。
今日の討伐も、ほとんど『総魔』状態で三体もいた。もはや、驚かない。
いつも通り騎士団と共に、淡々と討伐する。
学校に戻り、みんなで報告書を書いていると
「この調子でいくと、『魔』の本番、花薫週間はどうなっているのかしらね?」
エレが、うんざりした口調で話す。
「選り取り見取りの『魔』にあえるんじゃない?」
ソフィアが、軽く受け流す。
「そういえば、第3王女が王宮でお茶会を開くらしいわね」
「殿下も参加するのですか?」
ソフィアとオリビアが、興味津々に尋ねる。
「まぁ……ねぇ……」
面倒くさそうに答えると
「お前達も全員参加だからな!決めた、今決めた。そうだ、そうしよう」
「えぇぇぇぇ!」
ウラニス、ユリウスから抗議の声が上がった。
※
花薫週間が近付き、社交の盛り上がりと共に『魔』の活動も激しくなってきた。
毎日のように騎士団と共に討伐に向かい、週末にも出動していた。
登校する間も惜しみ、王立騎士団にて登校を確認する日々が続き、オリビアとハリーはもう、数ヶ月顔を合わせていない。
さすがに不味いと思い、タウンハウスでの食事会に誘ってはいるのだが「忙しいのに、気を遣わなくていい」と、断られていた。
ある日、王立騎士団に向かうと、いつもとは違う緊張感に包まれていた。
「何かあったのですか?」
スクトゥムが騎士団員に尋ねると
「とうとう『魔』が、領民の生活地区に出始めたんだ」
今までは、人気の無い地区で発生していたので、討伐しやすかったが、生活地区となると、好き勝手に魔法を撃ち込む事もできない。
住民の安全はもちろん、生活も守らなくてはいけない。
したがって、魔法が使いづらい。
広域攻撃ができず、狭域攻撃のみになり、最悪、一体ずつ討伐することになる。
『魔』と一対一で戦うことになる。
「あいつらと接近戦をするの?……自信ないわ……」
オリビア達が不安を感じていると、懐かしい声が聞こえてきた。
「大丈夫だ。お前達には住民の避難の手伝いだけ、頼むつもりだから。防御魔法撃ち放題だ」
「兄様……」
そこには、オリビアの兄、フォルティスがいた。
「殿下。また、お付き合いお願いしますよ」
ウラニスの兄、イリオスとソフィアの兄、ノア。それと、オスカーがいた。
目標の地区まで、騎竜と共にゲートで向かう。
扉が開くと、王都とは打って変わって、大気が澱んでいるようだ。
居住地区に被害が及ばないように、周りに防御壁を作り、結界で覆う予定だ。
オリビア達は、中心部から壁を作り、外側へと広げていく。
指定された場所へ向かうと、王立魔術師団が即席のゲートを作っていた。
万が一の時は、このゲートを使って住民を他所へ逃がす事になっているそうだ。
防御壁を作るのと平行して、結界士が上空に結界を張っていく。
居住地区を覆ったならば、次は騎竜に乗り、生活地区、この地域では、主に畑に現れている『魔獣』を討伐していく。
丁寧に、畑への被害が少なくなるよう心掛けて、討伐する。
※
問題なく、依頼された地区の討伐を終えることができた。
(初めての討伐方法だったけど、上手にできたのではないだろうか)
オリビアが、密かに満足していると、フォルティスが
「あいつらが、居住地区に入ったら、騎竜に乗って討伐するのも難しくなるんだぞ。ちゃんと、剣技も練習しとけよ」
と、肩を叩く。
(剣かぁ……)
オリビアは、自分の両手のひらを眺めた。




