相談
ひさしぶりに帰って来た我が家、ウェントスだが、懐かしく思っている暇はない。
早く姉様に会って、今後の事を相談したい。
王都の社交シーズンは終わったので、戻ってきているはずだ。と考えていた。
エントランスで天鼓から飛び降り、扉を開ける。驚く執事を横目に、早足で部屋を横切る。
「姉様? 姉様! 」
カツカツ足音を鳴らしながら、姉のサルビアを探し回る。
「姉様!」
「何?誰?うるさいよ」
執務室のドアが開いて、長兄のビエントが顔を覗かせた。
「オリビア?髪が!どうしたの?」
「にいさまぁぁぉ」
ビエントに飛び付いたオリビアは、張り詰めていた糸が切れたかのように、泣き出した。
驚きながらもビエントは、オリビアの肩を抱きつつ、侍従になにやら指示を出し、執務室に招き入れ、ソファーに座らせた。
ひとしきり泣いて、ビエントのハンカチがしっとりしてきた頃
「それで、何があったの?」
「うっ……うぅぅぅ……」
再び嗚咽が込み上げる。
「兄様……ウェントスで『澱み』は異常に増えていますか?」
「異常とまではいかないけど、例年より少し増えてきているよ」
思った通り、ウェントスでも『魔』の発生が、例年と違っているようだ。
やっぱり、この世界で、婚約破棄は必須なんだ。
「兄様、私が婚約破棄されないと、この世界は『魔』に飲み込まれてしまいます」
背中の手が止まる。
「この頃の『魔』の様子が以前と違います。これは、今後の『魔獣大戦』の予兆です。」
「魔獣大戦? 」
「はい。そして、その大戦の鍵になるのが、ララ男爵令嬢で本物の愛の力によって、才能が開花するのです」
ビエントは、静かに聞いている。
「婚約破棄されないように努めていましたが、物語の修正なのか、私の命が狙われました。なので、今後も命を落とすような出来事に見舞われるでしょう」
「私は死にたくない……だから、穏便に婚約破棄できる方法はないでしょうか? 」
「なるほどね……で、オリビア。何故、髪色が変わっているのか、何故、ニョロの顔付きが変わっているのか、教えてもらってもいいかな?」
「あっ……」
龍の里に行ってから、オリビアはビエントと顔を合わせていなかったようだ。
(それなら、姉様も知らないんだわ)
どこから、どのように伝えればいいか悩んでいると、執務室のドアが勢いよく開いた。
「ビエント!婚約者決まったの?」
ソファーに並んで座っている二人を見たサルビアは
「ずいぶんとオリビアに似ているのね……」
「姉様……オリビアです」
「あら?」
周りを見渡したサルビアは、納得したようだ。
「本当だわ。ニョロがいる。ずいぶんと凛々しくなったわね」
※
「……という事で、この世界を守る為に、私の婚約破棄が必要だと思うんです」
二人に、これまでの経緯を一気に話したオリビアは、テーブルに置かれていた、少しぬるくなっている紅茶を飲み干した。
「なるほどね。物語は、婚約破棄しないのであれば、オリビアの命を狙う。って事なのね」
「婚約破棄、と言っても簡単じゃないんだよ。オリビア」
相手方から婚約破棄されたとなれば、社交会で肩身が狭くなり、良い縁談が望めなくなる。
こちらから破棄したくても、爵位が上の相手なので、それなりの理由がいる。
何か良い方法がないか。と、ビエントは考える
「オリビア……本当に、ハリーと別れる事になってもいいのかい?」
しばし、沈黙が続く。
「―――死にたくない。私、死にたくない」
「ビエント、物語通りにいくなら、どちらにしろ、ハリーに婚約破棄されてしまうのよ。同じ別れるなら、生きている方がいいわ」
サルビアは、続ける。
「それに、ほら。最近、婚約破棄された令嬢が、より良い令息と結婚する物語が流行ってるみたいなのよ」
一冊の本をオリビアに見せてきた。王城で努めている侍女仲間に薦められたそうだ。
「身分違いの恋やら、本物の愛やら、最近の恋愛事は忙しいんだね」
「そんなのんびりした事言ってるから、婚約者が見付からないんじゃなくて?」
オリビアは、サルビアの持ってきた本をパラパラめくりながら、未来に希望が持てるかも。と、少し気持ちが晴れたのだった。




