悪役令嬢の役目とは
「だいぶん待たせてしまったかしら?」
少し目が腫れているエレとソフィアが、談話室に入ってきた。
スクトゥム王子、ウラニス、ユリウスが濃紺のソファーから身を起こす。
年代を感じさせるマホガニーのテーブルの上には、ドライフルーツを使用した紅茶が、湯気を立てていた。
頃合い良く、侍女が彼女達の分の紅茶を配膳する。
ソフィアは、壁に掛かっている数々の剥製を、警戒しているようで、エレの腕を取りながら、ソファーに腰掛けた。
「あぁ、これね。その年に狩った、一番大きな獣を剥製にしているのよ。あなたのお陰で、私達は生き延びられています。って、感謝を込めてね」
エレが、ぐるっと見渡しながら、説明する。
「怖がって申し訳ないけど、やっぱり無理よ。スゴい顔で、睨んでるように見えるわ」
「感謝の気持ちを持って見れば、平気よ」
ウラニス達、男性は、今度は狩りをしに、クロニエ伯爵領に来たい。と、盛り上がり、ソフィアだけが「その時は、屋敷で待ってるわ」と、話に乗らない。
「さて、集まってもらってのはオリビアの事だ」
「記憶? 戻ってるわよ?」
紅茶を飲みながら、エレとソフィアが当たり前のように答える。
「歌を歌っていた時に思い出したみたいで」
「慌てて領地に戻っていったわ」
「一人で帰したのか?令嬢なのに?」
ウラニスが驚いて問いただすと
「ニョロがいるのよ?それに、魔法を使うオリビアに勝てる人はいないんじゃない?」
それもそうだ。と皆が納得した。
※※※
天鼓の背に乗り、領地へとオリビアは急ぐ。 景色が後ろへ流れていく。
私が婚約破棄されないと、この国は『魔』に飲まれてしまう。
攻略対象者と本物の愛で結ばれる事で、ピンク頭の浄化特化魔法が開花して、これから起こる『魔獣大戦』を回避できるのだ。ま
最近の『魔』が、過去と様子が違うのは『魔獣対戦』の予兆なんだわ。
ピンク頭はたぶん、ハリーを狙っている。だから、私に魔法を当てようとした。それが、天鼓の額に傷を付け、ニョロを切り裂いた。
私とハリーが婚約したまま卒業してしまったら、ピンク頭の能力が開花しない。
何かの事件がきっかけで、能力が開花していたような気がするのだが、思い出せない。
卒業パーティーで婚約破棄さえされれば、私の出番は終わる。
舞台から降りたら、もうこの世界は私に用はないだろう。
殿下が、断罪は回避できる。と約束してくれていた。それなら、私のウェントス領もウェントス家も無事に済むだろう。
私の家族を守れるなら、婚約破棄ぐらいなんでもないわ。
姉様に合って、婚約破棄するためには、どうすればいいか、相談しなければ。
もう、社交シーズンが終わっているだろうから領地にみんないるはずだわ
オリビアは、逸る気持ちを押さえながら、領地へ、ウェントスへと向かっていた。
※※※
「オリビアに気付かれないように、相談したかったから丁度良かった」
納得いかない様子のウラニスを静止しつつ、スクトゥム王子が話を切り出した。
「ララは何故、オリビアを目の敵にするのか?」
「ハリーを気に入ってるからじゃないの?」
ソフィアが、焼菓子をつまみながら答える。
「ハリーとユリウスだったら、ユリウスの方が良くないか?」
「え?僕?止めてよ、やだよ」
「ハリーは侯爵で、ユリウスは公爵。王族の遠縁よね」
「王族がいいなら、殿下じゃないか?」
「だろ?なぜ、ハリーなんだ?」
「殿下……」
ソフィアがスクトゥムに近付き、手を握る。
「それが、恋心というものですわ。庶民の間では本物の愛が人気だそうですよ」
「あぁ、身分違いの愛とか略奪愛とかだろ?」
「あぁ! 」
それぞれ顔を見合わせた。だからハリーなのか、略奪愛をしたいのか?
「だからって、わざわざ略奪するか?」
ウラニスが、まったくわからない。と呆れる。
「まぁ、何にせよ、ララ嬢がオリビアに手を出せないようにしたいんだ。三年は、ほとんど騎竜クラスは騎士団見習いみたいなもので、普通クラスと別になるけどな」
スクトゥムが、頼んだよ。とでも言いたげに、エレとソフィアの肩に手を置いた。




