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美しき兄姉愛

 今日、姉のサルビアが王立学校の寮に戻る。

 白い鏡台の前で、サルビアが最後の仕上げをしている。

 これから、戦場にでも向かうかのような気合の入れようだ。

「綺麗でいることは、最大の攻撃で防御なの。常に完璧な淑女でいることが、自分を守る事になるのよ。覚えておきなさい」

 と、侍女に髪を結われながらオリビアに言ってくる。


 そんなものかしら?と小首を傾げながら、ウォールナットの猫足テーブルセットで、香り高い紅茶を頂いている。オリビアの左肩には白蛇。


 サルビアは、そんな妹を鏡越しに見ながら、

「後は、感情を表に出さないことね」

 と、鏡台の引出しをガサゴソと何か探して、侍女に扇を1本渡した。


「社交の場で感情的になりそうになったら、それで口許を覆いなさい」

 オリビアが侍女から扇を受け取り口元にあてると、姉様の匂いがする。

 その事を伝えると

「都合がいいわ、私の言葉を思い出してね」

 と微笑んだ。

 準備を終えたサルビアと離れがたくて、オリビアも一緒に家族が待っている広間へ向かった。



 ※


 しんみりとした雰囲気を残して、サルビアの乗った馬車が、エントランスから生垣とトピアリーに囲まれた赤茶けた石畳の上を進んでいく。

 途中、地区のゲートから寮に戻る予定になっている。


 屋敷内にゲートがあれば便利なのだろうが、優秀なガーデナーが整えている、この素晴らしき庭園を見る機会が減るのはもったいない。


 姉を見送ったオリビアが、魔導書でも読もうかしら、と図書館へ向かおうとすると、次兄のフォルティスに呼び止められた。


「最終試験で出す技、見せてくれないかな?」

 フォルティスは、『王立魔法高等学校』の生徒なので、『基礎学院』を優秀な成績で卒業し、推薦書も得た。

 是非、見てほしい。評価してがほしい。と考えたオリビアは、早速、フォルティスと敷地の外れにある湖畔に向かった。


「雷の氷結・寅」

 たちまちにして、あまたの氷の結晶が稲光を纏いキラキラ輝きだした。

 そして、ゆっくりと寅の形を成す。


 フフーンと得意気にオリビアがフォルティスを見ると、何か言いたそうに考えこんでいる。

「兄様?」


 少し間をおいて、言いにくそうに伝えてきた。

「これは、攻撃魔法?防御魔法?」

 膝をつく勢いでオリビアは反省した。

(攻守魔法の発表ですよね。娯楽じゃないですよね)


「防御魔法?」

 自信無さげに、オリビアは答える。

(軽く感電するから、防御に使えなくもない、たぶん)

 このままでも、威嚇の一種としての防御魔法と言えなくもないが、インパクトに欠ける。


 オリビアの説明を聞いて

「雷を強くすると、『稲光』になっちゃうのかぁ。でも、氷を使いたい……と」

 フォルティスが考えこんでいる。


 その整った顔はずっーと見てられる。惚れ惚れしながら、オリビアは兄を見つめ答えが出るのを待つ。

(もし、兄様が攻略対象者だったら、兄様に断罪されるのよね……憂鬱だわ……)

 思わず、泣きそうになっていると、フォルティスが笑いながらオリビアのオデコをパチンと弾いた。

「情けない顔をするな」


 フォルティスは、どうしても氷を使いたいなら氷を武器の形にした方がいいだろうし、防御で仕上げるのならば、壁にした方がいいだろう、とオリビアに伝えた。

 パッと見て、攻守がわかった方が試験では点が取りやすいからだそうだ。


 フォルティスに付き合ってもらいながら、いろいろ試したオリビアは、氷の針に雷を纏わせて降らせる『雷氷』を基礎学院の最終試験で発表する事にした。

 これで、『王立魔法高等学校』の推薦書は頂いたも同然だ。


 オリビアは、竜巻のようにしたいとも思ったのだが、魔力が足りず安定しないので、諦めた。

 だが、いつか魔力を上げる事ができてら、挑戦してみようと思った。



 屋敷に戻る木立の遊歩道を歩きながら、フォルティスにお礼を伝えたオリビアは、ニョロちゃんにもお礼をしよう、と思い付いた。

 屋敷のエントランスで兄と別れ、川の水を引き込んだ噴水に向かう事にした。

 モザイクタイルの園路の先にある、苔むした壁から勢いよく水が流れ落ちるその噴水は、ニョロちゃんのお気に入りだ。


 気持ち良さそうに泳ぐニョロちゃんを見ながら、オリビアは、来年、本当に私が悪役令嬢の物語が始まったら、どうしよう……と、憂鬱になるのだった。


 ※※※


 フォルティスも王立魔法高等学校の寮へ戻り、オリビアは長兄ビエントの書斎で、ティータイムを楽しんでいる。

 ニョロちゃんは、テーブルの上で、ボールに入った湧水に浸かっている。綺麗な水が好きらしい。


 マホガニーのテーブルセットに座ったオリビアは、ビスケットをつまみながら、ビエントに質問する。

「兄様はオリビアの事、好きですか?」

「いい加減、その確認止めない?」

 ビエントは、アメジストの瞳を細めながら、今も昔も、オリビアを大切に思ってるよ。と、書類に記入しながら答える。

 オリビアは満足そうに頷き、また質問する。

「オリビアに婚約の話は来てませんよね?」

 今度は、声を出して笑いながら、否定する。

「来てないよ、オリビア。僕もフォルティスもサルビアも父上、母上もみんなオリビアの事が大好きだよ」


 異世界転生物の物語が初まる16歳が近付くにつれて、オリビアの不安は大きくなる。

 大丈夫だとわかっていても、ついつい確認したくなる。


 数日後には、ビエントも王都のタウンハウスへ戻ってしまう。


 ※※※


 ビエント・ウェントス (19) 王城勤め

 フォルティス・ウェントス (17) 王立魔法高等学校 最高学年直前

 サルビア・ウェントス (16)王立学校 2年生直前

 オリビア・ウェントス (14)基礎学院 最高学年直前

『魔法だらけの世の中で、式神使いはいかがでしょう』

https://ncode.syosetu.com/n5227ib/

も、よろしくお願いします

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