記憶喪失
オリビアが兄達と龍の里にむかってから数日後に、二年次の騎竜クラスの追加の選考会が行われた。
ハリーを含め、数人が候補に上がり、騎竜と対面したのだが一人も選ばれなかった。騎竜が、まったく興味を示さず近寄りもしなかった。
そして、王立魔法高等学校二年が終了した。
※
記憶を全て失ったオリビアは、当初の予定通り領地のウェントスに戻っていた。
オリビアは、敷地の外れにある湖に来ていた。ニョロと初めて会った、あの湖だ。
以前のオリビアとの違いは、彼女の髪色が白銀になり、隣には青白磁色の龍が、控えている事だろうか。
また、反対側には、額に傷痕がある騎竜が、寝そべっている。
左右に竜と龍を控えさせている令嬢の姿は、異様であろう。
オリビアが湖畔に立ち、おもむろに片手をあげると、頭上に稲光を纏った氷槍が現れる。そして、それを湖上に放った。
すざましい爆音と水飛沫があがる。
今度は両手を上げた。すると、稲光を纏った氷槍を竜巻が回転させる。
同じように湖上に放つと、先程よりはるかに大きな爆発音と水柱があがる。
「オリビア!領地を破壊するつもりか!」
笑いながらではあるが、顔をひきつらせたフォルティスが、騎竜から降りてきた。
「魔法の調子を確認したかっただけよ。破壊しても兄様、再生できるじゃない」
オリビアは、ニッコリ微笑みながら答える。
ため息をつきながら、フォルティスは尋ねる。
「記憶の方はどうだ?少しは思い出せたか?」
「サッパリだわ。でも、天鼓ともニョロとも良好な関係だと思うわ」
氷龍のニョロを撫でる。
「それより兄様!私、騎竜クラスなんでしょ?王立騎士団に入れるかしら?」
目をキラキラさせながら、フォルティスの顔を覗き込む。
「騎竜クラスのほとんどは、王立騎士団にそのまま入団することが多いけど……お前、婚約してるんだぞ?そっちは思い出せないのか?」
「うーん……まったく実感がわかないのよ。どんな人なのかしらね?」
まったく興味がないようだ。
しばらくオリビアを見つめたフォルティスは、恐る恐る尋ねる。
「ピンク頭の事は?」
「ピンク頭?さぁ、何かしら?」
「婚約破棄からの断罪は?」
「私、何か悪いことしてるの?」
オリビアが本気で心配し出したので、質問を変えた。
「エレはわかる?」
「最初に仲良くなったクラスメイトだったかしら?」
「ソフィアは?」
「兄様の友人の妹で、隣のクラスだったかしら? そうそう、二人とも騎竜クラスで一緒よね?」
「彼女達が、お前に会いたい。と、手紙を寄越しているんだが、どうする?」
オリビアは、少し考え込んでから
「会ったところで、何もわからないわよ?それでも良いのかしら?」
「その辺は、ウラニスから話が伝わっているから、安心してもいいよ」
「ウラニス……あぁ!ここで、魔法の扱い方を教えてもらったわ!兄様の友人の弟よね?」
「そうなのか?」
まったく心当たりのなかったフォルティスは、動揺した。あの頃、そんな交流があっただなんて。
「目元のほくろが素敵な方よね?ちょっと意地悪だったけど」
「お前、婚約者がいるの、忘れるなよ?」
その言葉を聞いて、オリビアの顔が曇る。
「婚約者の事を思い出そうとすると、悲しい気持ちになるのよ。何か、あったのかしら?」
「ハリーを含め、その友人達が、お前に会いたいと言ってきているんだが、どうしたい?」
「そうねぇ……会ってみようかしら。記憶が全部戻れば、学校に戻ったとき楽よね?」
オリビアは、部屋にある唐紅色のピアスを触る事ができない。
姉のサルビアに聞くと、婚約者のハリーから贈られた物で、いつも身に付けていた。と聞いた。
しかし、手に取ろうとすると、なんとも言えない不安感を覚える。
そして、婚約破棄しなければいけない。と思うのだ。
なぜなのか?その理由が知りたかった。




