龍の里Ⅱ
「ちょっと!天鼓!何してるの!」
オリビアは叫びながら、必死に掴まる所を探すが、腕は空を掴む。
「オリビア!暴れるな!身を任せろ!」
フォルティスの叫び声が聞こえた。
(そんな事言われたって!)
「天鼓!」
なんとか落ち着こうとしていると、急降下を止めたようで、フワッと身体が浮いた。
ギュッとつむっていた目をゆっくり開いたオリビアは、驚いた。
どこかの草原の上空にいるようだ。眼下にたくさんの龍が見える。
(龍?なんで?)
「兄様……?」
ふと、隣を見ると眼下を睨み付けているフォルティスが視界に入った。
「ここが、龍の里だよ。オリビア」
ゆっくりと地面に降り立ったオリビア達を、大小様々な龍が取り囲む。
あまりの龍の多さに圧倒されていたオリビアは、背にフォルティスの手を暖かさを感じ、隣を見た。
「龍貴姫だ」
フォルティスが前方を指差す。
オリビアが、指先の方向を見ると、ヘルバがこちらに向かって歩いてきている。
「ヘルバ?」
「あぁ、彼女が龍貴姫だ。全ての龍を統べる者だ」
「なんで兄様がそんな事を知っているの?」
「……」
フォルティスは黙り込む。
「兄様?」
再びオリビアが尋ねると
「彼は話すことができないんだよ、オリビア」
と、ヘルバがオリビアをハグする。
「本当に、ヘルバが龍貴姫なんですか?」
ヘルバは答えることなく、フフと笑いながら後ろにいる龍を紹介する。
そこには、ニョロと同じ色合いの青白磁色の龍、ニョロより少し大きく感じる龍がいた。
顔つきも凛々しくなっているようで、以前が男の子だとしたら、目の前にいる龍は、青年だ。
「この子が、オリビアと一緒に過ごしていた龍だよ。フォルティス、ニョロの欠片は持ってきたかい?」
「あぁ」
と言って、フォルティスはハンカチに包まれたキラキラ光る砂のような物を龍貴姫に渡した。
ニョロだと紹介された龍は、オリビアの周りをクルクル回りながら、スンスンと匂いを嗅いでいる。
オリビアが手のひらを出すと、その龍はペロッっと手のひらを舐めた。
「さて、オリビア。大事な質問をするよ?」
と、龍貴姫はオリビアに向き直る。オリビアも姿勢を正した。
「良く考えて、返事をしなさいよ?」
と、前置きをして龍貴姫は話し出した。
オリビアがニョロとよんでいる龍は、氷龍で本来ならば氷の大地を守護するためにいる。
だが、オリビアに干からびている所を助けてもらった恩義があったので、今まで一緒に過ごし守護していた。
しかし、今回オリビアの命を救ったので、もう守護する義理はない。しかしながら、この龍自身もまだオリビアと過ごしたい。と思っている。
「それで、このニョロの欠片を用いる事で、再びオリビアと過ごせる事になるのだが、いくつか条件がある。良く、考えるんだよ?」
再び、念を押す。
オリビアは領地の風の加護が付いている。この龍は氷の守護者なので氷の加護を持っている。
もし、オリビアと共に今後過ごすとなれば、オリビアは風と氷の加護をもつ事になり、魔力が劇的に増えてしまう。
その反動で、髪色は白くなり、今までの記憶がなくなる。
「家族との記憶もなくなるのですか?」
「あぁ、すべて忘れる。家族や親しい者との記憶は、思い出すのも早いだろうけどね」
「学園で習った事とかは?魔法の使い方とか……」
「その辺は問題ないよ。身体で覚えている物は、忘れていたとしても、動くと自然に思い出すはずさ」
オリビアは、自分の周りをグルグル回っている氷龍を見つめ、しばし考える。
「兄様、私、記憶喪失になっても、いいかしら?ニョロを取り戻したいわ」
「いいけど、怖くないのか?」
「兄様達で、頑張って私の記憶を取り戻してね」
と言って、ヘルバに向き直る。
「天鼓の事も、忘れちゃうんですよね?」
それは寂しいな。と天鼓の頭を撫でながら、尋ねた。
少し考え込んだ彼女は、騎竜があなたを選んだのだから、何かしらの絆があるだろうし、だんだんと思い出すんじゃないか?と答え、友人達とも、今までの関係が深ければ、早い段階で思い出すと思うよ。と付け加えた。
フォルティスが心配そうに見守る中、オリビアは決心した。
「兄様、迷惑かけるだろうけど、よろしくね」
と、前置きをしてから、決意表明をする。
「ニョロと再び過ごしたいと思います」
遅くなりました




