龍の里
ウェントス伯爵のタウンハウスを訪ねたハリーを含め、オリビアの友人達は、執事の応答に驚いていた。
「オリビアお嬢様は、誰ともお会いいたしません。お引き取り下さい」
ソフィアとエレが、自分達だけでも。と、頼み込んでみたが、結果は同じだった。
※
オリビアは部屋の窓から、エントランスで馬車に乗り込む友人達を眺めていた。
(今は、誰にも会いたくない。話たくない)
カーテンを握りしめながら、走り去る馬車を見送った。
コンコン。と、ドアをノックする音が聞こえ、兄のフォルティスが入室の許可を求める。
オリビアは、窓辺から離れ部屋のドアを開けた。
「いいのか?会わないままフォンターナに行っても」
オリビアは、コクリと頷く。
「天鼓の傷が癒えるまで、領地で静養していたいんだけど……」
「それは、構わないけど……」
大丈夫なのか?と尋ねながら、オリビアの頭を撫でる。
(私が『悪役令嬢の役目』を果たさないから、ニョロが犠牲になったんだ。このままハリーとの関係を悪化させて、婚約破棄してもらおう)
オリビアはフォルティスと王立騎士団へと向かい、そこからノア、イリオスと天鼓と合流して、ヘルバに指定された『龍の里』があるというフォンターナへ向かう事になっている。
「じゃぁ、行きましょうか」
オリビアは、ハリーから贈られた、燃えるような唐紅のピアスを、テーブルの上に置いて、部屋を後にした。
※
良く晴れたエーリオン王国の上空を、四騎の騎竜が飛んでいる。
「龍の里に来い。って言われてもさぁ、俺ら場所知らないんだけど」
イリオスがフォルティスに愚痴る。
「しつこいな。言えない契約なんだよ」
「だったら、僕は必要ないよね?自分の領地じゃないし、場所も知らないし」
ノアがふてくされる。
「知らないよ!俺じゃなくて、ヘルバに文句を言ってくれ」
イライラしながらフォルティスが答える。
実は、彼自身も龍の里の正確な場所はわからない。
なのに、なぜその場所を指定してきのだろうか。言い伝えの範疇でしかない龍の里に来い、だなんて。
(本当に、あいつは勝手だ)と、フォルティスは舌打ちをする。
そんな兄達の様子を見ながら、天鼓の背に乗っている、オリビアはクスクス笑っていた。
ニョロが復活するかもしれない。と聞いて、少し心が晴れた。
天鼓の傷痕は痛々しいままだが、元気になって良かったと、天鼓の背を撫でる。
水平線にキラキラ光る何かが見えてきた。
なんだろうか?と、目を凝らしているオリビアの様子に気付いたイリオスが『海』だと教えてくれた。
初めて見る、海の大きさに驚く。だが、今回は海には行かない。
オリビア達の領地ウェントスと、ウラニス達の領地フォンターナの境にそびえ立つ山脈の一つの麓にある、渓谷に向かった。
深い谷を川が走り、滝となり落ちる。その、中腹を眺めることができる、開けた場所に降り立った。
見上げる程の、遥か頭上から落ちる滝の水しぶきで、虹が浮かび上がる。
「この辺りだったと思うんだよなぁ」
と、フォルティスが周りを見渡す。
何処にも、里への入口になりそうな小路はない。
オリビアはしゃがみこみ、慎重に滝壺を覗き込んだ。
眼下には、エメラルドグリーンからコバルトブルーへと変化する、美しい滝壺が見えた。
すると、天鼓が、オリビアを口に咥え、滝壺へと落下しだした。
それを見たフォルティスの騎竜も、フォルティスを咥え、天鼓に続いた。
ノア、イリオスは呆気にとられ、見送る事しかできなかった。
次話は、金曜日21時頃に。




