イヤーカフス
「嵐のようなお方でしたが、どなたなんですか?」
スクトゥム王子が、アンナ副団長に尋ねると
「あぁ、紹介するのを忘れてたよ」
スクトゥムの背中を叩きながら笑う。
彼女は、ヘルバと言い、騎竜に詳しい専門家で薬草や古代魔法の知識もある為、王立騎士団の相談役になってもらっている。
と、説明すると、エレが「城下の小物屋じゃないんですか?」と不思議がる。
あくまでも相談役だから、本業は小物屋らしい。
「困った事があったら相談しに小物屋に行ってごらん。彼女、喜ぶよ」
アンナ副団長は、クスクス笑う。
「グワァァァァァ」
騎竜の欠伸が聞こえた。天鼓が伸びをしている。
「良かった!」
エレ、ソフィアが天鼓に飛び付く。
ウラニス、ユリウス、スクトゥム王子も近寄り、心配したよ、良かった。と口々に言いながら天鼓をさすった。
天鼓は、嬉しそうに目を細め、彼等、一人一人に頭を寄せた。
そして、誰かを捜す素振りをする。
「オリビアは、ここには居ないよ。元気になったらオリビアの所へ行こうな」
フォルティスが声を掛けると、不機嫌そうに鳴いた。
回復魔術師が、明日になれば体力も回復しているだろうから、長距離の飛行も問題ないと思うよ。と、天鼓を諭す。
言葉は通じないはずなのだが、まるで「わかった」と言っているような素振りを見せた。
※
フォルティスに付き添われながら、エレ達は王立魔法高等学校の寮へと帰路についた。
「ニョロの事、よろしく頼みますね」
エレがフォルティスに念を押す。
「あぁ、ヘルバに何か考えがあるようだからな」
彼は、オリビアに良く似た微笑みを向けた。
フォルティスと別れた後、校舎の正門でウラニス、ユリウス、スクトゥム、エレ、ソフィアは立ち止まる。
この校舎内は、ララの『魅了』で満ちている。
(ハリーは大丈夫なんだろうか?『魅了』にかかっているのではないか?)
皆、考えていることは同じようだ。
(ハリーも、あの小物屋に連れていかないと……)
※
翌日の放課後、ユリウスはハリーに「オリビアのお見舞いに、皆で行かないか? 」と声をかけ、城下へ誘い出した。
幸い、ララは他の男子生徒と話し込んでいて、ハリーに気付いていなかった。
ユリウスは、ホッと胸を撫で下ろす。
オリビアの見舞いに行く気があるって事は、ララの『魅了』に掛かりきっていないんだろうな。と、ユリウスは安堵した。
教会の前の噴水で、スクトゥム王子達と合流する。
ハリーの顔色が悪いような気がして、ソフィアが尋ねると
「この頃、胸のムカつきが酷くて、気分が悪い」
と、胸を押さえる。
「この先に、薬草茶を出してくれるお店があるから、オリビアに会う前に、寄っていこうか」
ユリウスが、路地を指差した。
小物屋に近づくと、店の前にヘルバが腕組みをして立っていた。
「これまたヒドイのを連れてきたね」
彼女は、タメ息をつきながらハリーを見た。
店内に招き入れられた彼等だが、ハリーの目の前にだけ、あの薬草茶がある。
なんとも言えない匂いが漂う。
ヘルバが『魅了』の説明をハリーにしたのだが、いまいち納得していない様子だ。
気分が良くなる事は間違いないからと、ユリウスに説得され、しぶしぶ薬草茶を飲み干した。
「……あぁ……本当だ。胸の支えがとれたようだ」
憑き物が取れたような顔で、ヘルバを見る。
「あんた、相当な精神力だね。普通なら、とっくに『魅了』されていたと思うよ。それに、それの加護もあるだろうね」
ヘルバはハリーの左耳を指差した。そこには、入学時にオリビアから贈られた、アメシストのイヤーカフスがあった。
「あぁ……」
ハリーは、イヤーカフスを触りながら、オリビアから贈られた物だと伝える。
心が軽くなったハリーは、一刻も早くオリビアに会いたい。会って話がしたい。と、逸る心を抑えながら、ユリウス達とウェントス伯爵のタウンハウスへ向かうのだった。




