気にくわないヤツ
「しまった!」と思ったときには、大抵手遅れが定番だ。
案の定、詠唱せずに怒りに任せて魔法を放ったものだから、大惨事だ……オリビアの目の前に稲光を纏った、巨大な氷柱が出来上がっている……
「へぇ……」
と、顎に手を当てたウラニスは、何か言いたそうに、ビカビカの氷柱を見つめている。
「すみません、失敗です。実は……」
と、オリビアは、自分の思い描く稲光を纏ったダイヤモンドダストを説明しながら、今度はキチンと詠唱し、魔法を放つ。
「雷の氷結!」
キラキラをイメージして、両手のひらを上に向ける。
やっぱり『稲光』モドキになってしまう。
口元に拳をあてて、うつむき加減で考えこんでいる姿も絵になる。
(これ、絶対攻略対象者だ……まずい)と思ったオリビアは
「私はこれで……」
この場から離れようと、ズリズリと後退りする。
急に思い付いたようにウラニスは、顔をあげた。
「ねぇ、手のひらじゃくて指でこうやるのは?」
といって、形の良い長い指をクルクルまわす。
「???」
手のひらじゃなく?と思いつつオリビアは、詠唱しながらキラキラをイメージして夏の青空を指さしてクルクルした。
すると、ヒンヤリとした空気が舞い降りてきて、キラキラと細かい雪の結晶が発光している。
触るとピリピリする。成功だ。
出来た!嬉しい! 喜びと感謝の気持ちが溢れだした。
「まさかとは思ったけど、できるもんだね」
と、後ろからウラニスがせせら笑う声がした。
「魔力の調節が下手みたいだから、手のひらから出すイメージじゃなくて、指先からに変えてみたんだ。単純だから成功したんだね」
ぐぬぬ……感謝の気持ちを返せ……
「……ありがとうございました」
感謝だけ述べておこう。人として。
「で、この子が氷の精霊?」
と、彼は、左肩のニョロちゃんを指さす。
「たぶん、そうだと思います。見た目は白蛇ですけど」
「ふーん」
と言いつつ、顔を近付ける。
鼻が高くて、顎がシャープな横顔に見惚れてしまう。おまけに心地良い香りがする。
「何見てんの?」
オリビアが、とっさに答えられずにいると
「顔、赤いよ?」
と、ウラニスに鼻で笑われた。
(こいつ、嫌いだ)
とっさに、後ろへ飛びのく。
「突風!」
オリビアが、風で飛ばしてやろうとすると
「解除」
たちまち突風が、ウラニスの魔法に打ち消される。
高笑いしながら、屋敷へと向かう彼の背中を睨み付けながら、いつか負かしてやる。と、オリビアは誓うのだった。
(あんなヤツが、『王立魔法高等学校』には、たくさんいるのだろうか)
オリビアは、紺碧の湖の湖面が大きく波打つ程、たくさんの「雷」を落として八つ当たりをした。
その後も毎日のように湖畔でひたすら雷と氷を出しまくり、風の精霊の加護がある事を忘れるほど練習した。
成功のきっかけが、ウラニスというのが腹立たしいようだ。
また、オリビアは、偶然の産物ではあるが、風魔法を合わせる事も出来て、漂うだけの『雷の氷結』をトラの形に変化させることができた。
木々の枝を飛び移っているリスを見ていて、ふと思い立って指先から糸をだして操るイメージで…
『指先』……ヤツを思い出して、イラッとするが、これが、意外と魔力調節に便利で……ダメだ、イラッとする。
ヤツが攻略対象者で、最後に私を断罪するメンバーに入っていたら……この上なく悔しいだろうなぁ……憂鬱だわ……
夏休みも残りわずか、オリビアは、相変わらず綺麗な紺碧の湖に、キラキラの『雷の氷結、寅』を浮かべて悦に入るのでした
『魔法だらけの世の中で、式神使いはいかがでしょう』
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