事件
夏期休暇も近くなったある日、オリビアが騎竜の飼育場で天鼓の様子を見ていた時だった。
ハリーが、オリビアに会いに来た。謹慎中から、一度も顔を会わせていないので、かなり久しぶりの再開だ。
「オリビア、元気だった?」
「ハリー様、お久しぶりです」
ララの魅了がかかっていると厄介なので、距離を取ろうか迷っていると
「外だと、嫌な感じはしないな」
と言いながら、ハリーは指を鳴らす。
「最近、指を鳴らすのが癖になってきちゃったよ」
と、オリビアの大好きな、少し照れたような笑みを浮かべる。
「実は、騎竜乗りの追加メンバーに名前が上がったんだ。オリビアに一番に伝えたくて」
と言いながら、ハリーがオリビアの髪を一房すくいあげ、唇を落とした。
オリビアは、恥ずかしさと愛おしさの混ざりあった、複雑な気持ちを隠そうとして、うつむこうとするが、ハリーの親指に顎をすくわれた。
そして、彼は顔を真っ赤にして、目をつむる彼女の瞼に唇を落とした。
「やっと追い付いた」
と言いながら、抱きすくめるのだった。
そんな、ハリーとオリビアを天鼓とニョロが見守っていた。
ニョロが二人の周りを、ウニョウニョ飛び回っていた時、何かに気付いたようで、校舎の方に振り向いた。
すると、一筋の光線がオリビアに向かってきた。その瞬間、天鼓が柵を飛び越えて、オリビアとハリーにおおいかぶさるように、前に出た。
その光線は、ニョロを切り裂き天鼓の額に当たった……
ハリーに抱きすくめられていたオリビアの目に、横たわるニョロと天鼓が映った。
唖然としているハリーの腕から逃れ、オリビアはニョロに、よろめきながら近寄った。
二つに切り裂かれたニョロは、ピクリとも動かない。天鼓は、額から血液にも見える、体液を流しながら、頭をもたげてきた。
オリビアの頬をペロリと舐めたかと思うと、ぐったりとしてピクリとも動かなくなった。
オリビアは、ニョロと天鼓の頭を抱きしめると、ニョロの身体が金色に輝きだし、キラキラ光ながら砂粒が落ちるように、消えていった……。
「いやぁぁぁぁ」
オリビアは、泣き叫ぶ。それに呼応するように、飼育場の騎竜達が、騒ぎ始めた。
小屋にいたエレや少し離れた所にいたスクトゥム王子達、他の騎竜クラスの生徒達も、なだめようとするが落ち着かない。
「ハリー様!大丈夫ですかぁ?」
ララが校舎の方から、取り巻き達と駆け寄りながら声をかける。
泣き叫ぶオリビアを抱きしめ、落ち着かせようとしていたハリーが
「どうゆうことなんだ?」
と、問いかけると
「オリビア様の白蛇が、ハリー様を襲おうとしていたので、浄化魔法を撃ちました。ケガが無くて良かった!」
と、ハリーの手を取ろうとする。
「何を言っているんだ?ニョロは精霊だぞ?それに騎竜にケガをさせた」
「精霊に、浄化魔法は効きませんよ?白蛇は魔物ですよぉ。それに騎竜は、自分から前に出てきたんです。ララのせいじゃありません!」
と、プィと横を見る。
「許さない、絶対に許さない!」
オリビアが、ララに手をかざした。
至近距離で攻撃魔法を撃とうとしている、と察知したハリーが
「ごめん!」
と言って、オリビアの首筋に手刀をいれた。
ハリーは、力の抜けたオリビアを抱えながら
「この状況、どうしてくれるんだ?」
と、横たわる天鼓と騒ぎ立てる騎竜達を指し示す。
「知りませんよぉ。ララは、ハリー様を守ろうとしただけですぅ」
「ハリー、お前白蛇に襲われてたんだぞ?」
取り巻き達がハリーを諭す。
「ララに助けてもらっておきながら、その態度はなんだ?」
口々にハリーを非難する。
近寄ってきたユリウスに「後を頼みたい」と伝え、ハリーは医務室へと急いだ。
「もぅ、なんでハリー様は『オリビア、オリビア』なんですかぁ?」
目でハリーを追いながら「あんな女……」とつぶやく。
「で、どうするんだ?ララ嬢。騎竜を怒らせて、ただてすむと思うなよ?」
穏やかに微笑むユリウスだったが、美形が怒ると怖い。本当に怖い。綺麗すぎて、逆に怖い。
「しらないもぉーん」
と、言いながら、ララは校舎の方へ戻って行った。
タメ息をつきながら、振り向いたユリウスは、怒りを表している騎竜達を眺めた。
「こりゃ、しばらく指示を聞かないだろうなぁ……」




