異変
オリビアは、頬杖をつき、寮の窓から飼育場の方を眺めている。
時折、風に乗って魔法の爆発音が聞こえてくる。
(階段には気をつけていたんだけどなぁ)と、後悔する。『おかしな記憶』は、出てこなかったが、階段ネタはテッパンだ。
私は確実に犯人にされて、卒業パーティーでハリーに断罪されて、婚約破棄されるんだわ……と、憂鬱になる。
終礼の頃、指導教員が部屋を訪ねてきた。
今回、ララは『オリビアに突き落とされた』と言っているが、現場を見ていた第三者がいない。
しかしながら、ケガをしてることもあるので、申し訳ないが、三日間の謹慎処分を受け入れて欲しい。
納得いかないオリビアだったが、(周りの騒ぎを沈静化させる為には、仕方のないことかも)と自分の気持ちに折り合いをつけた。
エレとウラニスが、空き時間にオリビアの潔白を証明できる学生を探していた事も聞いた。
自分を信じてくれている友人がいるだけでも、幸せだ。
甘んじて、三日間の謹慎を受け入れることにした。
※
オリビアの謹慎がとけ、登校した初日、明らかに校内の雰囲気が、変わっていた。
わかりやすくララ・モラレス男爵令嬢の取り巻きが増え、オリビア・ウェントス伯爵令嬢への当たりが強い。
そして、なんともいえない不快感を感じる。
謹慎期間中、毎日オリビアの部屋に様子を見に来てくれていたエレも、何か気持ち悪い。と言っていた。
得体のしれない不快感から逃げるように、オリビアとエレは、指を鳴らして解除する。
「ごきげんよう」
声をかけ教室に入るが、今までオリビアと挨拶を交わしていたクラスメイトの数名が、視線を反らす。
動揺を気づかれないよう、オリビアは席につく。エレが、そっと耳元で囁く。
『オリビアが謹慎に入ってから、ララの肩を持つ人が増えてしまって。やっぱり、オリビアが階段から落としたんだって……』
エレは悔しそうに眉を寄せる。
オリビアが、数日登校して解った事がある。
自分と変わらず友好関係を保ってくれている人達は、しきりに指を鳴らし、解除魔法を発動させている。
聞いてみると、やはり不快感を感じていた。
(いったい何が起きているんだろうか……)
「もう、なんなのかしら!この得体のしれない嫌な感じ!」
と、ソフィアが騎竜クラスに入るなり指を鳴らす。
スクトゥムが
「調査をしてはいるんだが、古代魔法が関係しているかもしれない。くらいしか判っていないんだ」
と話す。
「古代魔法?」
声が揃う。
「もしかして、魅了?」
オリビアが、ずっと腕につけているブレスレットを触りながら聞く。
「そうだな、よく解ったな」
オリビアのブレスレットは、王立魔法高等学校に入学するときに、母親の伯爵婦人が『魅了』よけにオリビアに贈った物だった。
そもそも魔法を対人にかける場合は、術者より魔力が劣る者にしか、かからない。
したがって、今、不快感を感じていて解除魔法を使っている生徒、教員は、術者より魔力が高い。と考えられる。
「それで、何が起きてるかわかるか?」
スクトゥムが、ニヤニヤしながら、皆に聞く。
しばらく考え込んでいたが、ユリウスが
「もしかして、俺達のクラスのほとんどが魅了にかかってる?」
と、ソフィアと顔を見合わせた。
「俺のクラスも半数近くかかっている事になるぞ?」
と、ウラニスも言う。
「教員も、何人かはかけられてるわね……」
エレが、困ったように言うと
「教員が生徒に負けるって何よ」
と、ソフィアが憤る。
「生徒に負けるって?」
と、スクトゥム以外が不思議そうに聞く。
「よく見てればわかるわよ。ララ・モラレスの取り巻きは、指を鳴らさないけど、オリビアと親しい人達は、指を鳴らすし、不快感を訴えてるわ」
ソフィアが、なんで気付かないの?と呆れる。
「ララ・モラレスが?」
ユリウスが、信じられない。といった表情をする。
「あの子、そんなに魔力が高いのかしら?」
「浄化特化魔法だって、思ったほどの威力は無かったのに?」
エレとオリビアも信じられない。
「確かにそれほど魔力が高いようには思えないが、精霊がついていたら……違うと思う」
と、ウラニスがニョロを見る。
「魅了を司る精霊。ってこと?」
「そんな話聴いたことない」
一同がザワつく。
「ま、そのあたりも含めて調査中だ」
スクトゥムが話をまとめた後、オリビアに向き直り
「俺達も気にしておくけど、オリビアはララに気を付ける事。あいつ、オリビアに対抗心を持ってるからな」
と、念を押した。
誤字報告、ありがとうございました。




